人質令嬢、第二王子と国家反逆を狙う

 朝食を終えた後、客室に顔を出すとモルドレッド殿下が笑顔で出迎えてくれた。


「ジニー、体調はどう?」

「私のセリフですわ、殿下。お加減いかがですか?」

「問題なし……と言いたいところだけど」


 殿下が眉を下げた。


「君に会えなくて寂しかった」


 そんなふうに腕を広げられたら、私のやることなんて一つしかない。

 私はその腕の中へ飛び込み、温かい背中へ腕を回した。


「私も寂しかったですわ、殿下」


 私の背中も、同じくらい痛くなるほど強く抱きしめ返された。


「ていうか、なんでお見舞いに来てくれなかったのさ」


 耳元に不貞腐れたような声が落ちた。


「父に止められましたの。私まで倒れてはいけないと」

「それはそうだろうけど」

「それに、その時ではありませんでしたから」

「その時ではない?」


 抱きしめていた殿下の腕から、少しだけ力が抜けた。

 顔を上げると、モルドレッド殿下がひどく情けない顔で私を見下ろしていた。

 まるで迷子の子犬みたいな顔だ。


「殿下、私、怒っておりますのよ。父や第二王妃殿下と同じくらいに。ですから、きっちり仕上げてまいりましたの」


 殿下は小さく笑って、もう一度私を抱き寄せた。


「うん、そうだね。……俺も、ものすごく怒ってる」

「ところで、殿下。私一つ気になっていたのですけど」

「なんだい?」

「父はいつから殿下のことを殿下と呼ばなくなったのかしら」

「さあ?」


 モルドレッド殿下は私を抱きしめながら答えた。

「たぶん、ジニーが俺の求婚を受け入れてくれた時、かな」

「まあ」


 意外なような、でも妙に納得してしまうような話だった。

 私の父はあれでけっこうロマンチストだし、内と外を区別する。

 だから、きっと殿下はもう“内”なのだろう。なんだか少しくすぐったくて、でも心強かった。


「さあ、支度をいたしましょう、殿下」


 手を離した。

 私たちは、逃げるためにここへ来たのではない。


 戦支度をしに来たのだから。