「それにしても、正妃殿下はずいぶん情報をくださいましたのね」
当然ながら、正妃殿下はアーサー殿下を王位継承者として推している。
なのに、第二王妃殿下と私へここまで良くしてくださる理由がわからない。
「それはねえ」
第二王妃殿下がふふっと笑った。
手招きをされたので殿下の隣に腰を下ろすと、耳元に顔を寄せられた。
「ジニーが一度も、アーサー殿下を貶めるようなことを言わなかったから、だそうよ。伝令役の侍女が言伝てくれたの」
「どういうことですの……?」
「そのままよ」
第二王妃殿下は、どこか楽しげに口元を吊り上げた。
「あなたもモルドレッドも、今まで第一王子派の貴族や令嬢たちに、アーサー殿下の悪い噂を流したことはあった?」
「ありません。だって、アーサー殿下の問題って、国王陛下を能力で洗脳したことくらいではありませんか。それ以外は品行方正で、穏やかで、政治能力も高くて、すらりと背の高い好青年ですもの。まあ、その『国王陛下を能力で洗脳した』という一点が最悪なのですけど」
「本当にねえ。そんなことをしなくたって、アーサー殿下ならまっとうな手段で王位を継承できたでしょうに。……たとえ継承できても、脅威が消えるわけではないから、こんな暴挙に出たのでしょうけど」
「脅威?」
アーサー殿下が、あんな暴挙に出なければならないほどの脅威とは何だろう。
もちろんモルドレッド殿下は有能ではあるけれど、アーサー殿下がここまで警戒するほどの脅威には見えない。そもそもモルドレッド殿下は廃嫡して叙爵の上で今後は地方政治を支えていくおつもりだった。
……それでも排除しなければならないほどの脅威が、モルドレッド殿下にあるのだろうか。
「知らぬは本人ばかり、というやつね。モルドレッド一人なら、私が言うのもなんですけれど、そこまで脅威ではありません。そうなってしまったのは、あなたがいるからよ。ジェニファー・ヴォーティガン。……本当に、何もわかっていない顔をしているわねえ」
きょとんとしていると、第二王妃殿下に声を上げて笑われた。
私にどんな脅威が?
ただの囚われの、健気で儚い姫君ではないですか。
「あなたの後ろには、最大の敵国であるゲルソンとも対等に渡り合えるヴォーティガン一家がついているわ。それに、あなた自身の能力である『鼓舞』もね。本気で使えば、この城の兵士全員を狂戦士へ変えられるでしょう」
「……その気になれば、ですけど」
「あなた一人でも、ヴォーティガン卿が鍛え上げた戦士ですものね。戦乙女として先頭に立たれたら、アーサー殿下など木端微塵です」
さすがに、否定しづらかった。
ヴォーティガン領の兵士はもちろん、離宮の兵士たちもヴォーティガン領と同じ訓練を取り入れている。私だって体が鈍らないように朝晩の訓練は続けていた。
モルドレッド殿下が捕らえられた原因の一端は、間違いなく私にもあった。
「ともかく」
考え込んでいると、第二王妃殿下がぱん、と手を叩いた。
「そういうわけですから、正妃殿下がくださった情報は信用して大丈夫ですよ。正妃殿下は、あくまでアーサー殿下の母君です。わたくしたちの味方にはなりませんが、表立って敵対するつもりもない――そう言伝てくださいました」
私が情報の信ぴょう性を疑っていたことは、すっかり見抜かれていたらしい。
私は苦笑しながら、小さくうなずいた。
「さて……これからのことですけど」
第二王妃殿下が改まって背筋を伸ばした。
その途端に、扉が強く叩かれた。
当然ながら、正妃殿下はアーサー殿下を王位継承者として推している。
なのに、第二王妃殿下と私へここまで良くしてくださる理由がわからない。
「それはねえ」
第二王妃殿下がふふっと笑った。
手招きをされたので殿下の隣に腰を下ろすと、耳元に顔を寄せられた。
「ジニーが一度も、アーサー殿下を貶めるようなことを言わなかったから、だそうよ。伝令役の侍女が言伝てくれたの」
「どういうことですの……?」
「そのままよ」
第二王妃殿下は、どこか楽しげに口元を吊り上げた。
「あなたもモルドレッドも、今まで第一王子派の貴族や令嬢たちに、アーサー殿下の悪い噂を流したことはあった?」
「ありません。だって、アーサー殿下の問題って、国王陛下を能力で洗脳したことくらいではありませんか。それ以外は品行方正で、穏やかで、政治能力も高くて、すらりと背の高い好青年ですもの。まあ、その『国王陛下を能力で洗脳した』という一点が最悪なのですけど」
「本当にねえ。そんなことをしなくたって、アーサー殿下ならまっとうな手段で王位を継承できたでしょうに。……たとえ継承できても、脅威が消えるわけではないから、こんな暴挙に出たのでしょうけど」
「脅威?」
アーサー殿下が、あんな暴挙に出なければならないほどの脅威とは何だろう。
もちろんモルドレッド殿下は有能ではあるけれど、アーサー殿下がここまで警戒するほどの脅威には見えない。そもそもモルドレッド殿下は廃嫡して叙爵の上で今後は地方政治を支えていくおつもりだった。
……それでも排除しなければならないほどの脅威が、モルドレッド殿下にあるのだろうか。
「知らぬは本人ばかり、というやつね。モルドレッド一人なら、私が言うのもなんですけれど、そこまで脅威ではありません。そうなってしまったのは、あなたがいるからよ。ジェニファー・ヴォーティガン。……本当に、何もわかっていない顔をしているわねえ」
きょとんとしていると、第二王妃殿下に声を上げて笑われた。
私にどんな脅威が?
ただの囚われの、健気で儚い姫君ではないですか。
「あなたの後ろには、最大の敵国であるゲルソンとも対等に渡り合えるヴォーティガン一家がついているわ。それに、あなた自身の能力である『鼓舞』もね。本気で使えば、この城の兵士全員を狂戦士へ変えられるでしょう」
「……その気になれば、ですけど」
「あなた一人でも、ヴォーティガン卿が鍛え上げた戦士ですものね。戦乙女として先頭に立たれたら、アーサー殿下など木端微塵です」
さすがに、否定しづらかった。
ヴォーティガン領の兵士はもちろん、離宮の兵士たちもヴォーティガン領と同じ訓練を取り入れている。私だって体が鈍らないように朝晩の訓練は続けていた。
モルドレッド殿下が捕らえられた原因の一端は、間違いなく私にもあった。
「ともかく」
考え込んでいると、第二王妃殿下がぱん、と手を叩いた。
「そういうわけですから、正妃殿下がくださった情報は信用して大丈夫ですよ。正妃殿下は、あくまでアーサー殿下の母君です。わたくしたちの味方にはなりませんが、表立って敵対するつもりもない――そう言伝てくださいました」
私が情報の信ぴょう性を疑っていたことは、すっかり見抜かれていたらしい。
私は苦笑しながら、小さくうなずいた。
「さて……これからのことですけど」
第二王妃殿下が改まって背筋を伸ばした。
その途端に、扉が強く叩かれた。



