サマーバケーションも終わり、朝の空気にひんやりとした秋の気配が混じり始めていた。
私、ジェニファー・ヴォーティガンは、第二王妃殿下とモルドレッド殿下と三人で朝食をとっていた。
「バケーション前にお茶会でご一緒した令嬢が、果物を送ってくださいましたの。こちらなのですが……」
第二王妃殿下に果物を薦めていると、静かな朝を踏み荒らすようなどかどかとした足音が廊下から響いてきた。
侍女の短い悲鳴と執事の怒声が続き、次の瞬間、食堂のドアが勢いよく開いた。
現れたのは衛兵で、王家の紋章入りの一枚の紙を掲げていた。
「モルドレッド・ドレイク第二皇子殿下、国家反逆の容疑により、ご同行を願います」
隣で、第二王妃殿下が小さく息を飲んだ。
とっさにモルドレッド殿下を見ると、目を見開いている。
「事情をご説明ください」
私は手にしたままだったフォークを、静かに皿の脇へ置いて口を開いた。
モルドレッド殿下も同じように、フォークとナイフを音も立てず皿へ置いた。
それと同時に、衛兵たちの影から細身の男性がするりと姿を現す。
……アーサー殿下だ。
「朝早くから騒がせて申し訳ない。おはようございます、第二王妃様、モルドレッド、ヴォーティガン嬢」
アーサー殿下は、この場には似つかわしくない明るい声で挨拶をした。
「兄上、これは?」
モルドレッド殿下は逆に押し殺したような低い声をアーサー殿下に向けた。
真顔でまっすぐアーサー殿下を見上げているのに、机の下で握られたこぶしには、白く骨が浮き出ていた。
「この罪状のとおりだよ。残念だ、モルドレッド。まさか君がゲルソンと通じていたとはね」
アーサー殿下が言い終えると同時に、第二王妃殿下が勢いよく立ち上がった。
「そんなわけ――っ」
「ここに、モルドレッドのサインの入った手紙があるんですよ、第二王妃様。ご子息をかばいたいお気持ちは、痛いほどわかりますがね」
アーサー殿下は、見せつけるように紙をひらひらとかざした。
そこには、モルドレッド殿下のサインと、ゲルソンの名がはっきり記されていた。
「モルドレッド殿下」
私はモルドレッド殿下を見た。
けれど、殿下は私を見ようとしない。
だったら――。
腰を浮かしかけた瞬間、モルドレッド殿下の手が素早く私を制した。
「承知しました、兄上」
「殿下!?」
「母上、ジニー」
モルドレッド殿下は落ち着いた表情のまま、ゆっくりと第二王妃殿下と私を見た。
「ちょっと、兄上と父上と話をしてくるよ。とにかく、なにが起きたか確認しないと」
「ですが」
思わず言い募る私に、殿下はにこりと微笑み、静かに立ち上がった。
「ジニー。ここで騒いで、君にまで何かあったら俺は耐えられない。だから、ね。待っていてくれ」
モルドレッド殿下の背中が間に入り、アーサー殿下と衛兵たちの顔が見えなくなった。
第二王妃殿下は向かいの席で、今にも噛みつきそうな目で衛兵たちを睨んでいた。
「我が弟ながら、理解が早くて助かるよ。もっとも……モルドレッドをいつまで弟と呼べるかはわからないけど」
ドレスに隠した懐刀の柄へ、指先が吸い寄せられるように伸びた。
「やめるんだ、ジニー」
柄を握る前にモルドレッド殿下の鋭い声が響いた。
「じゃあ、行ってくるよ。母上、ジニーを頼みます。彼女に何かあったら、俺、ヴォーティガン卿に殺されちゃうから」
「行ってらっしゃいませ……第二王子殿下」
第二王妃殿下は唇を強くかみしめたまま、ゆっくり頭を下げた。
私もそれに倣う。
どかどかと耳障りな足音を響かせながら、アーサー殿下と衛兵たちはモルドレッド殿下を連れて去っていった。
足音が完全に遠ざかったころ、第二王妃殿下はどさりと椅子へ座り込み、侍女が慌てて駆け寄った。
「ブランデーを持ってきてちょうだい。一番強いものを」
「で、殿下……?」
「少し落ち着かせてちょうだいね、ジニー。ジニーには温かいお茶を」
「かしこまりました、奥様」
私、ジェニファー・ヴォーティガンは、第二王妃殿下とモルドレッド殿下と三人で朝食をとっていた。
「バケーション前にお茶会でご一緒した令嬢が、果物を送ってくださいましたの。こちらなのですが……」
第二王妃殿下に果物を薦めていると、静かな朝を踏み荒らすようなどかどかとした足音が廊下から響いてきた。
侍女の短い悲鳴と執事の怒声が続き、次の瞬間、食堂のドアが勢いよく開いた。
現れたのは衛兵で、王家の紋章入りの一枚の紙を掲げていた。
「モルドレッド・ドレイク第二皇子殿下、国家反逆の容疑により、ご同行を願います」
隣で、第二王妃殿下が小さく息を飲んだ。
とっさにモルドレッド殿下を見ると、目を見開いている。
「事情をご説明ください」
私は手にしたままだったフォークを、静かに皿の脇へ置いて口を開いた。
モルドレッド殿下も同じように、フォークとナイフを音も立てず皿へ置いた。
それと同時に、衛兵たちの影から細身の男性がするりと姿を現す。
……アーサー殿下だ。
「朝早くから騒がせて申し訳ない。おはようございます、第二王妃様、モルドレッド、ヴォーティガン嬢」
アーサー殿下は、この場には似つかわしくない明るい声で挨拶をした。
「兄上、これは?」
モルドレッド殿下は逆に押し殺したような低い声をアーサー殿下に向けた。
真顔でまっすぐアーサー殿下を見上げているのに、机の下で握られたこぶしには、白く骨が浮き出ていた。
「この罪状のとおりだよ。残念だ、モルドレッド。まさか君がゲルソンと通じていたとはね」
アーサー殿下が言い終えると同時に、第二王妃殿下が勢いよく立ち上がった。
「そんなわけ――っ」
「ここに、モルドレッドのサインの入った手紙があるんですよ、第二王妃様。ご子息をかばいたいお気持ちは、痛いほどわかりますがね」
アーサー殿下は、見せつけるように紙をひらひらとかざした。
そこには、モルドレッド殿下のサインと、ゲルソンの名がはっきり記されていた。
「モルドレッド殿下」
私はモルドレッド殿下を見た。
けれど、殿下は私を見ようとしない。
だったら――。
腰を浮かしかけた瞬間、モルドレッド殿下の手が素早く私を制した。
「承知しました、兄上」
「殿下!?」
「母上、ジニー」
モルドレッド殿下は落ち着いた表情のまま、ゆっくりと第二王妃殿下と私を見た。
「ちょっと、兄上と父上と話をしてくるよ。とにかく、なにが起きたか確認しないと」
「ですが」
思わず言い募る私に、殿下はにこりと微笑み、静かに立ち上がった。
「ジニー。ここで騒いで、君にまで何かあったら俺は耐えられない。だから、ね。待っていてくれ」
モルドレッド殿下の背中が間に入り、アーサー殿下と衛兵たちの顔が見えなくなった。
第二王妃殿下は向かいの席で、今にも噛みつきそうな目で衛兵たちを睨んでいた。
「我が弟ながら、理解が早くて助かるよ。もっとも……モルドレッドをいつまで弟と呼べるかはわからないけど」
ドレスに隠した懐刀の柄へ、指先が吸い寄せられるように伸びた。
「やめるんだ、ジニー」
柄を握る前にモルドレッド殿下の鋭い声が響いた。
「じゃあ、行ってくるよ。母上、ジニーを頼みます。彼女に何かあったら、俺、ヴォーティガン卿に殺されちゃうから」
「行ってらっしゃいませ……第二王子殿下」
第二王妃殿下は唇を強くかみしめたまま、ゆっくり頭を下げた。
私もそれに倣う。
どかどかと耳障りな足音を響かせながら、アーサー殿下と衛兵たちはモルドレッド殿下を連れて去っていった。
足音が完全に遠ざかったころ、第二王妃殿下はどさりと椅子へ座り込み、侍女が慌てて駆け寄った。
「ブランデーを持ってきてちょうだい。一番強いものを」
「で、殿下……?」
「少し落ち着かせてちょうだいね、ジニー。ジニーには温かいお茶を」
「かしこまりました、奥様」



