庭園では、俺の妖精ことジェニファー・ヴォーティガンが、咲き誇る花々を静かに眺めていた。
夏の終わりを告げる涼しい風が、彼女のふわりとした髪を優しく揺らしている。
「ジニー、ただいま」
できるだけ明るい声をかけると、彼女はぱっと振り返り、大きな瞳をまん丸に見開いた。
「モルドレッド殿下……、おかえりなさいませ!!」
腕を広げると、ジニーがパッと飛び込んできた。
柔らかくて温かくて、甘い花みたいな香りがした。
ようやく帰ってこられたのだと、胸の奥がじんわり緩んだ。
「いや、忙しかったんだ」
「お話を聞かせてくださいませ」
ジニーの手を取り、庭園の隅に置かれた白いベンチまでゆっくりエスコートした。
控えていた侍女が、すぐにお茶と菓子を近くの丸テーブルへ並べてくれた。
その中には、俺がジニーへの土産に買ってきた焼き菓子も混ざっていた。
「……ってわけで、補佐官と頭を突き合わせながら、毎日ひたすら帳簿をめくってはメモを取り続けてきたよ」
「それはそれは……お疲れ様でございました」
「君にそう言ってもらえるだけで、疲れなんて吹き飛ぶよ。この焼き菓子、最近ゲルソンで流行ってるらしくてさ。味見したらかなりおいしかったから、ジニーにも食べてほしかったんだ」
ジニーの皿に、侍女が焼き菓子を乗せた。
彼女は目を輝かせながら焼き菓子を頬張り、口元についた欠片をぬぐうと、恥ずかしそうに視線をそらした。
「ジニーのほうは、何か変わったことはあった?」
「いいえ、とくには。……ただ、朝晩の訓練の際に、一緒に訓練している兵の方々が送り迎えをしてくださるようになりまして」
「今までしてたっけ?」
ジニーは首を横に振った。
そんな役目があるなら、俺が真っ先に名乗り出ていたはずだ。
「理由を聞いても、『近頃は物騒ですから』とか、『姫様に何かあったら殿下に叱られちまうんで』としかおっしゃらなくて」
「まあ、君に何かあったら暴れるけども」
ジニーは口を閉ざして、庭園へ視線を向けていた。
夏の終わりの日差しが、母上自慢の庭園へ眩しいほど降り注いでいる。
「最近、周囲が静かすぎる気がするのです。……私たちが何をしても、誰も反対なさいませんし、声すら上げない……それって、普通のことだったかしら」
「どうかな」
王宮へ戻った時の違和感が、ふいに脳裏をよぎった。
やけに少ない警備兵。
ぼんやりした表情の父上。
安堵した顔で俺を出迎えた、離宮の兵士たち。
嫌な予感が胸の奥に沈み、無意識に唇をかんだ。
夏の終わりを告げる涼しい風が、彼女のふわりとした髪を優しく揺らしている。
「ジニー、ただいま」
できるだけ明るい声をかけると、彼女はぱっと振り返り、大きな瞳をまん丸に見開いた。
「モルドレッド殿下……、おかえりなさいませ!!」
腕を広げると、ジニーがパッと飛び込んできた。
柔らかくて温かくて、甘い花みたいな香りがした。
ようやく帰ってこられたのだと、胸の奥がじんわり緩んだ。
「いや、忙しかったんだ」
「お話を聞かせてくださいませ」
ジニーの手を取り、庭園の隅に置かれた白いベンチまでゆっくりエスコートした。
控えていた侍女が、すぐにお茶と菓子を近くの丸テーブルへ並べてくれた。
その中には、俺がジニーへの土産に買ってきた焼き菓子も混ざっていた。
「……ってわけで、補佐官と頭を突き合わせながら、毎日ひたすら帳簿をめくってはメモを取り続けてきたよ」
「それはそれは……お疲れ様でございました」
「君にそう言ってもらえるだけで、疲れなんて吹き飛ぶよ。この焼き菓子、最近ゲルソンで流行ってるらしくてさ。味見したらかなりおいしかったから、ジニーにも食べてほしかったんだ」
ジニーの皿に、侍女が焼き菓子を乗せた。
彼女は目を輝かせながら焼き菓子を頬張り、口元についた欠片をぬぐうと、恥ずかしそうに視線をそらした。
「ジニーのほうは、何か変わったことはあった?」
「いいえ、とくには。……ただ、朝晩の訓練の際に、一緒に訓練している兵の方々が送り迎えをしてくださるようになりまして」
「今までしてたっけ?」
ジニーは首を横に振った。
そんな役目があるなら、俺が真っ先に名乗り出ていたはずだ。
「理由を聞いても、『近頃は物騒ですから』とか、『姫様に何かあったら殿下に叱られちまうんで』としかおっしゃらなくて」
「まあ、君に何かあったら暴れるけども」
ジニーは口を閉ざして、庭園へ視線を向けていた。
夏の終わりの日差しが、母上自慢の庭園へ眩しいほど降り注いでいる。
「最近、周囲が静かすぎる気がするのです。……私たちが何をしても、誰も反対なさいませんし、声すら上げない……それって、普通のことだったかしら」
「どうかな」
王宮へ戻った時の違和感が、ふいに脳裏をよぎった。
やけに少ない警備兵。
ぼんやりした表情の父上。
安堵した顔で俺を出迎えた、離宮の兵士たち。
嫌な予感が胸の奥に沈み、無意識に唇をかんだ。



