人質令嬢、第二王子と国家反逆を狙う

 ある日、俺、モルドレッド・ドレイクが王宮の会議へ向かう途中、廊下で兄上に呼び止められた。


「港の視察に行ってくれないかな。もうすぐバケーションが終わるだろう? その後各地で行われる豊穣祭に向けて、ゲルソンとの貿易が盛り上がっているから、港で人手不足らしいんだ」


 ゲルソンは海の向こうにある隣国だ。俺が生まれる頃までは戦争が続いていたらしいが、ここ最近は小康状態が保たれている。

 たしかに、東部貴族からは輸入品を運ぶための街道整備を求める声が上がっていた。


「承知しました、兄上。人夫がどのくらい必要か確認してくればいいかな?」

「うん。あと、運び込まれる物資の内容と一日あたりの総量、それから各地域へどれくらい流れていくかも確認してほしい。ほら、少し前の会議で街道整備の話があっただろう? その優先順位を決めるためだよ」

「わかった。正式な依頼書は?」

「この後の会議で出すよ。それとヴォーティガン嬢にも依頼があってね」

「ジニーに?」


 今まで、兄上がジニーに直接頼み事をすることなんてあっただろうか。

 つい声が低くなってしまう。


 兄上はくすりと笑い、両手を肩の前まで軽く上げてみせた。


「そんなに警戒しなくていい。実は見合いを申し込まれていてさ」

「そんなの、ここ十年ほどずっとじゃないか」

「そうなんだけどさ。そろそろ婚約者の一人くらい決めないとうるさくてね。それで何人かに絞ったから、相手の様子をヴォーティガン嬢に聞きたいんだ。ここ最近、第二王妃殿下と一緒によくお茶会をしているだろう? 女性の目から見て、どんな人柄か教えてほしくてさ」


 筋が通っているような、微妙に誤魔化されているような話だった。

 というか、兄上は母上とジニーがお茶会を開いていることを把握していたのか。


「……わかった。俺から彼女に伝えればいい?」

「頼む。後で第二王妃経由で正式に依頼するから」

「了解」


 小さく頷いて、会議室に向かった。

 ふと振り向くと、窓から射し込む陽光が兄上の足元だけを照らしていた。首から上には影が落ち、少し距離があるだけで、どんな表情をしているのかまるで見えなかった。

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