とはいえ、こちとら人質なので、気軽にサマーバケーションの旅行へ出かけるわけにもいかない。
手が空いた第二王妃殿下と庭の手入れに勤しんだり、正妃殿下が王宮の中庭に設えた花壇でお茶をご一緒したりするくらいだ。
それ以外の時間は、モルドレッド殿下の執務室で政務を手伝ったり、疲れ気味の殿下をよしよししたりして過ごしていた。いつもより仕事が少ない分、殿下と顔を合わせる時間も増えている。
そんなある日。モルドレッド殿下の執務室で年度後期の予算案に目を通していると、第二王妃殿下が神妙な面持ちでやって来た。
「ジニー、あなたミランダ・ガレス嬢を知ってる?」
「はい、先日のお茶会でご一緒しましたわ。ミランダ様に何か?」
「連絡がつかないのよ」
「え……?」
第二王妃殿下の説明によると、こういうことだった。
バケーション明けに正妃殿下主催の社交パーティが開催される。
規模の大きいパーティなので第二王妃殿下も準備を手伝っており、ここ数日は招待客の整理を行っていた。
ガレス一家は、バケーションが終われば自領へ戻られる。だから今のうちに参加の可否を確認しておきたいらしいのだけど、どうにも連絡がつかないらしい。
「ガレス一家全員に連絡がつかないのですか?」
顔色を曇らせた第二王妃殿下に問い返すと、殿下はかすかに首を横に振った。
「いえ、ご当主と婦人にはお返事いただいたの。でもミランダ嬢のことだけは、気にしないでくれと……」
「気にしないでくれ……とは?」
意味が分からず、思わず聞き返してしまった。
奥の机で仕事をしていたモルドレッド殿下も、いつの間にか手を止め、静かに第二王妃殿下の言葉を待っていた。
「ええ。ミランダ嬢は伏せっているから、気にしないでくれと繰り返すばかりなの。お見舞いも、お見舞いの品をお贈りするのも断られてしまったし」
第二王妃殿下は眉をひそめ、私へ視線を向けた。
「ジニーは先日のお茶会でミランダ嬢とご一緒したでしょう? だから、なにか変わったことはなかったか聞きに来たのよ」
「いえ、特には……」
ほとんど反射のように答えていた。
顎に手を当てて記憶をたどってみたけれど、お茶会の場でミランダ嬢と大した話をした覚えはなかった。
最初に挨拶を交わし、ガレス領の特産だという柑橘をいただいたので、侍女に頼んで飾り切りにして出してもらった。
他の令嬢たちがその柑橘をとても気に入り、産地の話を聞いていたのを、私は少し離れた場所から眺めていたくらいだ。
帰り際にも挨拶を交わしたけれど、そのときも特に違和感はなかったはずだ。
「はい、思い返してみましても、ミランダ嬢とはこれといったお話をしておりませんし、特に違和感もございませんでした」
違和感を覚えるほど親しく話したわけではないとお伝えすると、第二王妃殿下は難しい面持ちのまま頷かれた。
「そうなのね……わかりました。こちらでももう少し確認してみます」
第二王妃殿下は裾を揺らしながら、足早に執務室を出ていかれた。
私は扉が完全に閉まるまで、静かに頭を下げたまま待っていた。
伏せていた視界の端に、見慣れた長靴が入った。
「ご令嬢が消息不明?」
モルドレッド殿下が、低く落ち着いた声で問いかけてきた。
顔を上げ、そのまま振り返った。
「そこまで深刻なお話なのかは、まだわかりかねますが……」
けれど、第二王妃殿下がわざわざ確認にいらっしゃるほどのことなのだ。
窓の外では風にあおられた木々が大きくざわめき、重たい色の雲が空一面に広がっていた。
手が空いた第二王妃殿下と庭の手入れに勤しんだり、正妃殿下が王宮の中庭に設えた花壇でお茶をご一緒したりするくらいだ。
それ以外の時間は、モルドレッド殿下の執務室で政務を手伝ったり、疲れ気味の殿下をよしよししたりして過ごしていた。いつもより仕事が少ない分、殿下と顔を合わせる時間も増えている。
そんなある日。モルドレッド殿下の執務室で年度後期の予算案に目を通していると、第二王妃殿下が神妙な面持ちでやって来た。
「ジニー、あなたミランダ・ガレス嬢を知ってる?」
「はい、先日のお茶会でご一緒しましたわ。ミランダ様に何か?」
「連絡がつかないのよ」
「え……?」
第二王妃殿下の説明によると、こういうことだった。
バケーション明けに正妃殿下主催の社交パーティが開催される。
規模の大きいパーティなので第二王妃殿下も準備を手伝っており、ここ数日は招待客の整理を行っていた。
ガレス一家は、バケーションが終われば自領へ戻られる。だから今のうちに参加の可否を確認しておきたいらしいのだけど、どうにも連絡がつかないらしい。
「ガレス一家全員に連絡がつかないのですか?」
顔色を曇らせた第二王妃殿下に問い返すと、殿下はかすかに首を横に振った。
「いえ、ご当主と婦人にはお返事いただいたの。でもミランダ嬢のことだけは、気にしないでくれと……」
「気にしないでくれ……とは?」
意味が分からず、思わず聞き返してしまった。
奥の机で仕事をしていたモルドレッド殿下も、いつの間にか手を止め、静かに第二王妃殿下の言葉を待っていた。
「ええ。ミランダ嬢は伏せっているから、気にしないでくれと繰り返すばかりなの。お見舞いも、お見舞いの品をお贈りするのも断られてしまったし」
第二王妃殿下は眉をひそめ、私へ視線を向けた。
「ジニーは先日のお茶会でミランダ嬢とご一緒したでしょう? だから、なにか変わったことはなかったか聞きに来たのよ」
「いえ、特には……」
ほとんど反射のように答えていた。
顎に手を当てて記憶をたどってみたけれど、お茶会の場でミランダ嬢と大した話をした覚えはなかった。
最初に挨拶を交わし、ガレス領の特産だという柑橘をいただいたので、侍女に頼んで飾り切りにして出してもらった。
他の令嬢たちがその柑橘をとても気に入り、産地の話を聞いていたのを、私は少し離れた場所から眺めていたくらいだ。
帰り際にも挨拶を交わしたけれど、そのときも特に違和感はなかったはずだ。
「はい、思い返してみましても、ミランダ嬢とはこれといったお話をしておりませんし、特に違和感もございませんでした」
違和感を覚えるほど親しく話したわけではないとお伝えすると、第二王妃殿下は難しい面持ちのまま頷かれた。
「そうなのね……わかりました。こちらでももう少し確認してみます」
第二王妃殿下は裾を揺らしながら、足早に執務室を出ていかれた。
私は扉が完全に閉まるまで、静かに頭を下げたまま待っていた。
伏せていた視界の端に、見慣れた長靴が入った。
「ご令嬢が消息不明?」
モルドレッド殿下が、低く落ち着いた声で問いかけてきた。
顔を上げ、そのまま振り返った。
「そこまで深刻なお話なのかは、まだわかりかねますが……」
けれど、第二王妃殿下がわざわざ確認にいらっしゃるほどのことなのだ。
窓の外では風にあおられた木々が大きくざわめき、重たい色の雲が空一面に広がっていた。



