人質令嬢、第二王子と国家反逆を狙う

「ただいま戻ったよ」

「おかえりなさいませ、殿下」


 昼食を終えたあと、俺は離宮へ戻って執務室へ向かった。

 ジニーが待っていてくれた。けれど、政務官や侍女たちもいるから、軽く挨拶を交わすだけで我慢する。


「会議はいかがでございましたか?」


 目の前までやって来たジニーが、小さく首を傾げた。柔らかな髪が夏の光を受けて、ふわりと揺れる。


「んー、うーん……」


 どう説明すればいいのかわからず、つられるように俺も首を捻った。

 斜め後ろに控える補佐官も、たぶん俺と似たような困り顔をしている。

「一応、俺の意見は通った」

「一応ですか」

「いや、意見としてはちゃんと通った。だけど、父上が妙にらしくなかったんだ」


 俺はジニーと並んで、応接セットのソファへ腰を下ろした。

 胸の奥が妙に落ち着かず、気づけばジニーへぴたりと寄り添うように座っていた。

 補佐官は何も言わず、慣れた様子で自分の席へ下がっていった。


「殿下?」

「議題は街道整備についてだったんだ。それで、着手する時期をどうするかとか、街道整備より治水を優先すべきだとかで議論になってさ」

「想定通りですわね」

「うん。兄上は治水を優先したいと言っていて、それで誰かが俺にも意見を求めたんだ。だから、必要な場所で必要なことをすればいいって答えたら、そのまま話がまとまった」


 ジニーが、不思議そうな顔で俺を見つめた。

 夏の風がそよそよと吹き込み、彼女の髪をやさしく揺らした。

 窓の外から咲き誇る花々の香りが漂い、噴水の水が跳ねる音がする。


 落ち着かなくて、膝の間で指をもてあそんだ。


「父上はさ、即決しないんだよ」

「……そういえば、そうでしたわね。一度は持ち帰る方でした」


 ジニーが目を伏せた。

 彼女の細い指先が顎に触れた。


「地方視察に君を同伴したいって父上に伝えたときも、そうだったよな。どんな案件でも、一度持ち帰って財務官や政務官、兄上たちと本当に可能か検討する。今まではずっとそうだった……なのに今回は、その場で決めたんだ。しかも、一切反論もせずに」


 思い返せば思い返すほど、おかしな点ばかり浮かんでくる。

 最後に浮かべた穏やかな笑みでさえ、どこか胡散臭く見えてくる。

 俺の父上は、もっと落ち着いていて、淡々と理を積み重ねるような人だった。

 何事にも動じず、理でもって政治を動かす人だったのに。


 それに、兄上の様子も妙だった。

 あれだけ議論が白熱していたのに、会議のあいだ一度たりとも兄上と目が合わなかったのは不自然すぎる。

 ……なのに、その不自然さに誰も何も声を上げなかった。


「……殿下」

「ん」


 気づけば、ジニーが不安そうに俺を見つめていた。


「しゃんとなさいませ、殿下」

「……うん、そうだったな。悪い、少し動揺してた」


 兄を、止めなくては。