人質令嬢、第二王子と国家反逆を狙う

 バケーション目前のその日、俺、モルドレッド・ドレイクは父上と兄上と共に政策会議に参加していた。

 今、白熱している議題は街道整備についてだった。

 主だった貴族が治める土地であれば王都からの街道も整備されているが、爵位が低かったり税収が少なかったりすると、どうしても後回しにされてしまう。


「バケーションを過ぎれば観光客の往来は減るのだから、街道の整備は急がなくてもよいのでは?」

「秋になれば収穫祭等で商人の行き来が活発になる。そんなときに街道が整備で通れないのは困る」

「寒期になれば病が流行る。医師や薬の搬送を考えたら早急に対応すべきだ」


 父上は玉座に深く腰掛けたまま、静かに議論を見守っていた。

 これはいつものことだ。父上が口を挟めばどうしても議論がそちらへ引っ張られてしまうからと、基本的には最後のまとめ程度しか言葉を挟まない。

 兄上は議題によって立場を変えるが、今日は街道整備を急ぐ必要はないという側で、時折静かに発言していた。


「街道の必要性は重々承知だが、それより先に治水を進めるべきでしょう。せっかく作った道も流されてしまっては元も子もない」

「おっしゃるとおりです、殿下。春先の洪水で病も流行りますし、治安の悪化も懸念されます。そちらを優先すべきでしょう」

「モルドレッド殿下は、どうお考えですかな?」

「わたしは――」


 俺はゆっくりと、居並ぶ貴族たちの顔を見回した。

 期待に満ちた顔、懸念をにじませる顔、不審そうな顔、面白がっている顔。そしてこちらを見ない兄上と、何を見据えているのか分からない父上の顔。


「地域によって対応を変えればよろしいかと。山岳地帯に連なる地域は早急に治水を進めないと、例年のように雪解けによる洪水が懸念されます。ですが、南部では秋の豊穣祭で商人が出入りしますから、バケーションが終わったらすぐに街道の整備に入ればよろしいのではないかと考えます」


 父上が静かにこちらへ視線を向けた。

 なのに目が合っている感覚がなく、背筋がぞわりと粟立った。

 兄上は相変わらず、瞬きすら少ない静かな目で父上を見つめていた。


「ふむ、よいのではないかね」


 父上は、殊の外明るい声でそう言った。


「地域により求めるものが違うのは当然だ。北部、東部、南部、西部、それぞれで進めたい事柄を提出するように。財務官と精査して予算を割り当てる。取りまとめは……」


 父上は各地域の主だった貴族たちの名を順に呼び上げた。

 四人はうやうやしく頭を下げる。

 父上が穏やかに微笑み、それを合図に会議は終わった。




「さすがはモルドレッド殿下。素晴らしいご意見でした」


 声をかけてきたのは西部の貴族だった。治める土地が先日の視察の行路に入っていなかったこともあって、これまであまり話したことはない。だが、たしか母の出身地にほど近い地域を治めていたはずだ。


「……ありがとうございます。先日の視察での経験が生きました」

「それはなにより。ぜひ、視察でのお話をお聞かせください」

「はい。わたしにも卿のお話を聞かせてください。たしか、西部の海に近い地域をお治めでしたね」

「ご存知でしたか。いやはや、小さな領地ではありますが――」


 さらに何人かの貴族が集まってきて、そのまま連れ立って昼食へ向かった。

 会議室を出る前に振り返ったが、父上も兄上も他の貴族たちに囲まれ、その姿はほとんど見えなかった。

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