「ひい、疲れた」
街の散策とアグラヴェイン夫妻との食事を終えたあと、モルドレッド殿下は客間のソファで伸びていた。
私は机を挟んだ向かいのソファで、街歩きの途中にいただいたお茶をゆっくり飲んでいた。
街を散策する際には、アグラヴェイン侯爵家のご令息とご令嬢が案内してくださったのだけれど、お二人は街の人々によく知られていた。そのせいで、私と殿下が何者なのかまであっという間に知れ渡ってしまい、かなりの騒ぎになったのだ。
収拾がつかなくなりかけたところで、モルドレッド殿下がご自身の能力である「抑制」を使って街の人々を落ち着かせ、ようやく穏やかに散策できるようになった。
その後の食事の席でも、興奮冷めやらぬご令嬢と、置いていかれたことに拗ねているアグラヴェイン侯爵家の二番目のご令嬢に、
「モルドレッド殿下はジェニファー様のどこをお慕いされているの?」
「ジェニファー様は?」
「モルドレッド殿下の御髪の手入れはやっぱりジェニファー様が?」
「殿下のお召し物はジェニファー様がお選びに?」
と、次々に質問を浴びせられた。主に私へ。
殿下はアグラヴェイン卿と談笑しながらも、私のことが気になっていたらしく、そわそわと視線を向けてきたり、込み入った質問には割って入ったりと落ち着かないご様子だった。
その結果、今はソファに沈み込むようにして力尽きていらっしゃる。
ソファの隣には殿下の補佐官が肩をすくめていた。
「お疲れ様です、殿下。ですが、疲れ果てた甲斐はありました」
「……あった、かな?」
殿下は顔も上げずに、言った。
「ええ。ヴォーティガン嬢も夫人へ、さりげなく『アーサー殿下の動きに不穏な点があること』『モルドレッド殿下にも王位継承の意思がまったくないわけではないこと』『国王陛下が、まだアーサー殿下へ完全に決めているわけではないこと』を伝えてくださいましたし」
「さすがだ、ジニー。愛してる」
「私もお慕いしております。うまくできておりましたでしょうか? お恥ずかしながら、貴族の子女でありながら、ああいった駆け引きはあまり得意ではなくて」
「完璧ではありませんでしたが、問題ありません。そもそもアグラヴェイン婦人ご自身、中立のお立場ですからね」
補佐官は眼鏡を直しながら言った。
そもそも王都近郊にお住まいの婦人方なら、私に権謀術数の才がないことくらい、皆さまご存じだ。お茶会でも婦人方に心配されるくらいだし。
私にできるのは、剣を取って先頭に立つことくらいだ。それでも、振るえる剣の種類は多いほうがいい。
「殿下、このお茶おいしいですよ。殿下も召し上がりますか?」
「君がそう言うのなら、いただこうかな」
私たちの戦いは、まだ始まったばかりだ。そのうち少しずつ慣れていくしかない。
そうでも考えなければ、国家への反逆など続けていられなかった。
街の散策とアグラヴェイン夫妻との食事を終えたあと、モルドレッド殿下は客間のソファで伸びていた。
私は机を挟んだ向かいのソファで、街歩きの途中にいただいたお茶をゆっくり飲んでいた。
街を散策する際には、アグラヴェイン侯爵家のご令息とご令嬢が案内してくださったのだけれど、お二人は街の人々によく知られていた。そのせいで、私と殿下が何者なのかまであっという間に知れ渡ってしまい、かなりの騒ぎになったのだ。
収拾がつかなくなりかけたところで、モルドレッド殿下がご自身の能力である「抑制」を使って街の人々を落ち着かせ、ようやく穏やかに散策できるようになった。
その後の食事の席でも、興奮冷めやらぬご令嬢と、置いていかれたことに拗ねているアグラヴェイン侯爵家の二番目のご令嬢に、
「モルドレッド殿下はジェニファー様のどこをお慕いされているの?」
「ジェニファー様は?」
「モルドレッド殿下の御髪の手入れはやっぱりジェニファー様が?」
「殿下のお召し物はジェニファー様がお選びに?」
と、次々に質問を浴びせられた。主に私へ。
殿下はアグラヴェイン卿と談笑しながらも、私のことが気になっていたらしく、そわそわと視線を向けてきたり、込み入った質問には割って入ったりと落ち着かないご様子だった。
その結果、今はソファに沈み込むようにして力尽きていらっしゃる。
ソファの隣には殿下の補佐官が肩をすくめていた。
「お疲れ様です、殿下。ですが、疲れ果てた甲斐はありました」
「……あった、かな?」
殿下は顔も上げずに、言った。
「ええ。ヴォーティガン嬢も夫人へ、さりげなく『アーサー殿下の動きに不穏な点があること』『モルドレッド殿下にも王位継承の意思がまったくないわけではないこと』『国王陛下が、まだアーサー殿下へ完全に決めているわけではないこと』を伝えてくださいましたし」
「さすがだ、ジニー。愛してる」
「私もお慕いしております。うまくできておりましたでしょうか? お恥ずかしながら、貴族の子女でありながら、ああいった駆け引きはあまり得意ではなくて」
「完璧ではありませんでしたが、問題ありません。そもそもアグラヴェイン婦人ご自身、中立のお立場ですからね」
補佐官は眼鏡を直しながら言った。
そもそも王都近郊にお住まいの婦人方なら、私に権謀術数の才がないことくらい、皆さまご存じだ。お茶会でも婦人方に心配されるくらいだし。
私にできるのは、剣を取って先頭に立つことくらいだ。それでも、振るえる剣の種類は多いほうがいい。
「殿下、このお茶おいしいですよ。殿下も召し上がりますか?」
「君がそう言うのなら、いただこうかな」
私たちの戦いは、まだ始まったばかりだ。そのうち少しずつ慣れていくしかない。
そうでも考えなければ、国家への反逆など続けていられなかった。



