人質令嬢、第二王子と国家反逆を狙う

 春が終わるころ、地方への視察が始まった。

 まずは王都から馬車で二日ほどの領地へと向かう。

 王都に近い地域ほど国王陛下や第一王子殿下への支持が厚いから、そこではやんわりと現在の国政への疑念を口にする程度にとどめる予定だった。


「まー、俺今まで王位継承の意思はないって表明してたからさ」

「そうですわねえ」

「ジニー? 顔色が悪いよ。少し休もうか」


 向かいに座る殿下が、心配そうに身を乗り出して私を覗き込んだ。


「いえ、大丈夫です。少し疲れが出ているだけですわ」

***

 ……そう。殿下と作戦会議をして以来、お茶会続きで私はすっかり疲れ果てていた。
 第二王妃殿下に、


「視察前に皆様へご挨拶を差し上げたいです」


 とお伝えしたところ、連日のようにお茶会へ参加することになったのだ。

 ここ数日はモルドレッド殿下に泣きついて、頃合いを見て迎えに来てもらっていたのだけれど、それはそれで婦人方の興味を引いてしまい、かえって引き上げ損ねることもあった。

***

 窓の外へ目を向けると、街道沿いの景色は初夏の日差しに照らされてまぶしかった。

 青々と茂った木々が街道に影を落とし、風に合わせてゆらゆらと揺れていた。

「殿下、少し窓を開けてもいいですか?」

「もちろん」


 侍女が動くより早く、モルドレッド殿下が窓を開けてくださった。

 青い草の匂いが、少し熱を帯びた風と一緒に吹き込んできた。


「……いい匂い。もうすぐ夏ですわねえ」

「俺、ジニーのそういうところ好きだよ」


 モルドレッド殿下は、愛しむように目を細めて私を見ていた。


「な、なんですか急に」

「今日、俺いつもと違う香水つけてるんだけど気づいた? 俺の香水には気づかないくせに、季節のにおいには気づくんだもんなあ」


 殿下は拗ねたように唇を尖らせ、窓の外へ視線を向けた。

 一体、何をおっしゃっているのでしょう。


「気づいておりましたよ。その香水、私が選ばせていただきましたので」

「えっ、母上ではなく?」

「私です。ちなみに、そのお召し物も、今回お持ちした衣類も、ほとんど私が選んでおります」

「言ってよ!」

「だって私のドレスやアクセサリーは殿下がお選びになったではないですか。私にも殿下のお召し物くらい、選ばせてくださいませ」


 顔を赤くした殿下が、ご自身の袖口を鼻先へ寄せた。


「……なんだか、いつも母上が選ぶものとは系統が違うとは思ってたけどさ。ジニーはこういう香りが好き?」

「いえ、殿下の雰囲気に合うかと考えて選んだだけです。お気に召しましたか?」

「正直、香水の良し悪しはよくわからないんだけどさ」


 殿下は困った顔を私に向けた。


「でも、今度から君が選んで」

「承知いたしました」