人質令嬢、第二王子と国家反逆を狙う

 そんな落ち着かない日々を何日か過ごした、ある日の早朝だった。

 俺はいつもより早起きをした。

 身支度を整えて訓練場に行くと、ジニーが師匠と組み手をしていた。

 今日は迷わず、まっすぐ彼女のもとへ向かった。


「組み手中に悪いんだけど、師匠、彼女とこの場をお借りしても?」

「ああ、構わんよ」


 師匠は俺が訓練用の軽装をまとっているのを見てうなづいた。


「ジニー、剣を持ってくれるかい」

「かしこまりました」


 ジニーもうなずき、いつも訓練で使っている手馴染みの木剣を取り出した。

 朝靄の残る早い時間だからか、訓練場の周囲に人影はなかった。

 師匠も何かを察したのか席を外してくれた。

 いるのはジニーと俺付きの侍女、それから、たぶんどこかで様子をうかがっている母上の間者くらいだろう。


 俺はジニーと向かい合って木剣を構えた。


「三つ数えたら始めよう。一、二の、三」


 数え終えるのと同時に、ジニーが一直線に踏み込んできた。


 先日、彼女と師匠が手合わせしているのを見ていたが、実際に向かい合うとあの剣はもっと速く見える。

 木剣が軽いおかげでどうにか受けきれているが、それでも攻めへ転じる余裕はなかった。

 ジニーはまっすぐに俺を見ていた。

 なら、俺もまっすぐ彼女にぶつかるしかない。

 受け止めた剣を、脚に力を込めて無理やり跳ね返す。

 すぐ次の一撃が飛んでくる。反射的に下がりそうになる足をこらえ、剣で受けた。


 決着は一瞬だった。俺の木剣は弾き飛ばされ、気づけばジニーの剣先が喉元を捉えていた。


「ねえ、ジニー」

「はい、陛下」


 喉元へ剣を突きつけたまま、ジニーは鈴を転がすような声で答えた。


「兄上を失脚させて、この国を俺と君で乗っ取っちゃおうか」


 そういうと彼女は微笑んで剣を引いた。


「承知いたしました。我が力、お使いくださいませ」


 剣の代わりに差し伸べられた手を取る。

 握った手は華奢で細いのに、剣を握り続けた硬さがあった。俺の大好きな彼女の手だった。



 いつの間にか訓練場には朝日が差し込み、兵たちも少しずつ顔を出し始めていた。


「おはようございます、殿下、姫様」

「おはよう。今日もよろしく」

「では、わたくしどもは一度戻りましょうか」


 剣を拾って片付けをしていたら、兵士に呼び止められた。


「殿下、何かいいことありました?」

「うん。あったよ。そのうち君たちにも報告する」

「ついにプロポーズ成功ですか? 盛大に祝わせてもらいます」

「違いますわよ……」


 二人で離宮へ戻り、それぞれ湯浴みを済ませてから朝食をとった。

 母上からも


「二人とも、何かいいことでもありました?」


 と聞かれたけど、笑ってごまかしておく。

 俺からすれば、あれはもうプロポーズを受け入れてもらえたようなものだったが、彼女の中では違うらしい。


 それに、これで終わりじゃない。始まりなのだ。