人質令嬢、第二王子と国家反逆を狙う

 暗い訓練場でジニーの背中を見送っていたら、人の気配がして振り返った。

 下働きの少年が俺を見上げている。


「殿下、そろそろ片付けも終わりますので、お部屋へお戻りください」

「あ、ああ」


 踵を返しかけて、もう一度夜空を見上げた。

 さっきまで顔を出していた月は雲に隠れ、その代わりに無数の星が瞬いていた。


 あの星空の中へ、大好きなあの子を自由に放ってやれたらいいのに。

 ジニーが「防人(さきもり)たるヴォーティガン家の者として」というなら、俺はいったいなんなんだろう。



 そのまま立ち尽くしていたら考え込みそうだったけど、そわそわしている下働きの少年に気づき、自室へ向かった。



 月明かりの届かない離宮の廊下は、夜半ということもあってひどく暗かった。

 俺は王国の小さな太陽なんて呼ばれているのに、こんな小さな離宮ひとつ照らせずにいる。

 兄上は王国の小さな太陽から、いったい何になろうとしているんだろう。兄上がその先へ辿り着いたとき、俺と彼女はどうなってしまうんだろう。


「いや、ダメだろ」


 俺が第二王子でいる限り、きっと流されるまま彼女を縛り続けることになる。そんなのは嫌だった。

 部屋に戻り、カーテンの隙間からもう一度夜空を見上げた。

 月は半分くらい、雲から出てきている。


 別に俺に大した野心なんてない。

 ジニーみたいな覚悟もなければ、母上のような度胸もない。

 父上のような経験もなければ、兄上のような胆力もなかった。

 俺にあるのは、地位と諦めの悪さ、それから俺の声に応えてくれる人たちだ。


 なら、やってみるしかないのかもしれない。


 流されて、あの子を失うことだけは耐えられそうにないのだから。

***

 翌日も、俺は何事もない顔で仕事をしていた。

 離宮の執務室で各地域から上がってきた税収を確認し、数字の少ない地域には人を送って状況を調べさせる。地方の貴族からはやり病の報告も届いていたので、応急の医師団へ回しておいた。

 母上から視察の日程確認が入ったので返事をし、それからまた書類に目を通す。

 片づけるべき仕事は山のように積み上がっていた。

 それでも、気づけば何度も窓の外へ視線が向いていた。

 そのたびに補佐官から苦言を飛ばされたが、ほとんど耳に入っていなかった。