人質令嬢、第二王子と国家反逆を狙う

 自室へ戻り、私は机についた。

 侍女を呼んで便箋を用意させ、ペンを取った。

 簡単な挨拶を記したあと、手が止まった。

 私の手紙はすべて検閲されている。特に父宛てのものは、入念に。

 ならば母に? それとも弟か、あるいは隠居している祖父母か。

 けれど便箋をどれだけ見つめても、今の状況を綴る言葉は出てこなかった。


 気づけばペン先が乾いてしまっていて、私は諦めて便箋もペンも引き出しへ片付けた。

 窓の外では、傾いた陽が離宮の白い壁をオレンジ色に染めていた。

 窓辺に立つと、中庭ではモルドレッド殿下が補佐官と並んで歩いているのが見えた。


 ふと、殿下が顔を上げた。

 目が合う。

 私はいつもどおりに微笑んで手を振った。

 殿下は何か言いかけるように口を開き、それから静かに閉じた。

 そのまま目を伏せ、離れていってしまった。

 補佐官が私に会釈して殿下を追っていく。


 うん、大丈夫。私はまだ待てる。……寂しいけれど。

***

 何日か後、少し時間が空いた私は、離宮の資料室へ向かった。

 歴代貴族の家系図や派閥を記した資料、それから社交パーティの参加者一覧を棚から引っ張り出してきた。

 第一王子派、第二王子派、正妃派、第二王妃派、それから私と親交のある令嬢たち。

 一つひとつ目を通しながら頭へ叩き込んでいく。たぶん、記録は残さないほうがいい。

 侍女たちには、さりげなく噂話を集めてもらっていた。

 第一王子派はどう動いているのだろう。……第一王子本人は。

 私は黙々と手を動かし続ける。

 きっとその辺りのことはモルドレッド殿下が調べているだろう。

 私がすべきは、備えることだ。


 いつでも殿下の力となれるように。