人質令嬢、第二王子と国家反逆を狙う

 第二王妃殿下の部屋で、私は二、三日に一度ずつ王妃教育を受けていた。

 人質の私だけど、建前としては地方では難しい淑女教育を施すため、という名目も掲げられていた。

 そのおかげで、モルドレッド殿下と一緒に帝王学を学ばせてもらっていたし、王妃教育も受けさせていただいていた。


 講師は背筋のぴんと伸びた壮年の女性で、厳しいけれど筋の通った方だ。


 「モルドレッド殿下と地方周遊をなさるということですから、地方の歴史と社交の基礎、それから……」


 彼女は今までになく上機嫌な笑顔で、視察まで二か月弱しかない教育計画を立てている。

 話を聞いていると、二、三日に一度どころか、毎日授業を受けなければ間に合わなさそうな勉強量だった。


「ヴォーティガン嬢、ここは踏ん張りどころです、お気張りください」

「ふふ、先生がそうおっしゃるなら、頑張りますわ」


 頷くと、講師はふっと笑みを消し、静かに私へ顔を寄せた。


「ここでヴォーティガン嬢がモルドレッド殿下と共にある姿を見せれば、土地を管理する貴族の方々は、ヴォーティガン嬢を『都合の良い人質』ではなく、『未来の妃殿下となる可能性のある女性』として見るようになります」

「それは……」


 それは、ウーサー陛下やアーサー殿下にとって、脅威になりうるのでは?

 あまり気が進まない。

 けれど講師の女性は、私をまっすぐ見つめ返してきた。


 「そうすることでヴォーティガン家が王家の味方であると周囲に知らしめることも出来ます。ですから今回の帯同は、ヴォーティガン嬢が王家の味方であると示す手段でもあるのです。どちらの面を強調するか、よくお考えくださいませ」


 講師は再び手元の書類をめくり、眉間に皺を寄せながら暦へ予定を書き込んでいった。

 ふと視線を向けると、第二王妃殿下は涼しい顔のまま、さらさらと何かを書き付けていた。


 アーサー殿下の思惑は、私にはやはりわからない。

 わからないが……私が彼にとって脅威になり得る存在だということは、遅ればせながら理解した。

 それに、忙しくなるというのなら、喜んで邁進するつもりだった。

 モルドレッド殿下は、しばらく私に構ってくれなくなりそうだから。


 窓の外を見ると、訓練場では殿下が汗だくになって剣を振っていた。

 しばらくその姿を眺めてから、小さく瞬きをして、私は勉強の予定へ視線を戻した。