人質令嬢、第二王子と国家反逆を狙う

 貴族の一覧への書き込みを終えて、俺は補佐官と共に王宮に向かった。

 兄上はまだ謁見の間にいるらしく、俺は今度は裏手からそちらへ入った。


「モルドレッド、どうしたんだ?」


 薄暗い柱の陰から姿を見せた俺に、兄上はわずかに目を見開いて声をかけてきた。


「さっき、地方視察の話をしただろ? 行き先の何カ所か、兄上に先に声をかけておいてほしくて」

「ああ、そういうことか。もちろん構わない。少し待ってくれ。父上」


 兄上は父上へ二言三言ささやき、それからこちらへ戻ってきた。

 父上の様子は、重厚な椅子の背もたれに隠れてよく見えなかった。

 兄上の補佐官も交えて、連絡の順序などを相談した。


「ありがとうございました、兄上。助かります」

「たいしたことじゃないさ。……ところで、ヴォーティガン嬢とはうまくやっているかい?」

「な、なんですか急に……。先日もプロポーズを断られたばかりですよ」

「なぜ? あんなに仲睦まじいのに」


 心底不思議そうに眉をひそめる兄上へ、俺は苦笑を返した。


「国王陛下がお許しにならないだろうから、だそうですよ。俺としては、政治的にも悪い話じゃないとは考えてるんですけど」

「そうだな。モルドレッドは、僕が戴冠したら地方政治にも関わるようになる。だから地方随一の権力を持つヴォーティガン家と縁があるのは、悪くないはずなんだけど……」


 兄上は父上の背を見て肩を竦めた。

 父上はヴォーティガン郷が第二王子という後ろ盾を得ることを、決して良しとはしないだろう。


「まあ、頑張れよ。欲しいものがあるなら、どんな手を使ってでも手に入れるべきだ」

「……兄上にも、そのように欲するものがあるのですか?」


 少し意外だった。

 兄上は穏やかで、でも間違いなく優秀な人物だ。

 欲しいものなら、たいてい手に入りそうな人なのに。

 兄上は父上の背へ視線を向けたまま、囁くような声で言った。


「そりゃあ、僕にもあるよ。どうしても欲しいものの一つくらいね」

「それは……?」

「んー、秘密」


 そう言ってこちらを振り向き、笑みを浮かべた兄上は、ぞっとするほど綺麗だった。