【プロローグ】 夕暮れの保健室、七つの空白
生徒たちが下校し、保健室の片づけや日誌の記入も終わるこの時間。
心の中で張りつめていたものが、ゆるゆるとほどけてくる。
消毒液のツンとする匂いが薄れ、窓から入る夕暮れの匂いと混ざり合う、一日の終わりの気配。
今日も、この春入学してきた子供達が、不慣れな環境に馴染めずに数人やってきた。
一学期は、この後ゴールデンウィーク明けまでこんな日が長く続くだろう。
でも、今日はもう店仕舞い。
あとは鍵を閉めて職員室に必要なものを提出すれば終わりなのだが、カーテン越しに射す琥珀色の夕陽と、遠くで響くローテンポな下校の音楽が、私をこの場に押し留める。
私はソファにややだらしなく体を沈め、白衣のポケットからスマホを取り出した。
インスタグラムのアイコンを押し、とあるグループのプロフィールページを開く。
卒業アルバム。
この春巣だっていった女の子が、私もこのグループの仲間に入れてくれたのだ。
画面をスクロールすると、学校の中の様々な場所で撮られた写真が並んでいる。
図書室、体育館、理科室、学食、保健室、音楽室、そして天文ドーム。
七つの場所で、それぞれの場所にふさわしいポーズで、女の子が一人ずつ写っている。
ある子はピースサインで、ある子は、はにかんで。
七人の女の子。みんな、いい笑顔だ。
……けれど。
本当は、もっといたはずだ。
そのフレームの中に。
写真の中の彼女たちの隣には、必ず不自然な「空白」がある。
誰かと肩を組んでいるような空間。誰かと見つめ合っているような余白。
レンズには映らないけれど、そこにはもっと、『誰か』がいたはずだ。
少し前の私にも、その子たちが見えていた。
彼女たちの姿が見えなくなったことは寂しい気もするけど、きっと『よかった』と思うべきなのだろう。
そのお陰で私も後悔と自責の念がいくぶん和らいでいる。
なにせ、彼女らは、写真に写っている七人の子たちと一緒に、「卒業」できたのだから。
私は事の成り行きをすべて知っているわけではない。
だけど、スマホに映し出された写真から、そこに書かれた『ありがとう』というコメントから
……そして、女の子たちの口々から伝え聞いた言葉を頼りに、
その物語が淡い色合いの映像を伴って再現される。
スマホをローテーブルに置き、背もたれに深く身を沈め、目を閉じた。
瞼の裏に、あの懐かしい図書室の扉が浮かぶ。
私の追想は、チャイムの響きから始まる――。
〇
キンコーン カンコーン ♪
廊下に響き渡る二時間目開始のチャイム。
建て替えられたばかりの校舎は、少し薬っぽい匂いがして、照明も明るすぎる。それが私の足取りを余計に重くさせた。
「起立、礼」
「お願いしまーす」
先生はすでに教室に入り、英語の授業が始まろうとしている。
『一年四組』と表示された教室のドア。
今日は、やっとここまで来れた。
おとといは昇降口まで。
その前の日は学校の正門まで。
でも。
このドア一枚の隔たりは、厚すぎる。
これ以上は無理。
クラスの入口の前に立って、十五分過ぎた。
やっぱり、帰ろう。
そして明日からは、もう……
「こんにちは、高峯さん」
振り向くと白衣の女の人が立っていた。
窓から入ってくる風に長い髪が揺れている。
眼鏡の下の瞳が優しく微笑んでいる。
養護の瀬川先生だ。
「こ、こんにちは」
「今日は、ここまで来れたんだ。えらい!」
「で、でもこれ以上は……」
「いいよいいよ、無理しなくって。もう、お家帰る?」
「そうしようかなって思って」
「そう……ちょっとだけ、寄ってかない?」
返事を聞かずに先生は歩き出す。
釣られて、後をついていく。
階段を降りるとき、一度だけ先生は私を振り返った。そして安心したかのように微笑む。
二人で一階の奥に向かう。
先生は突き当りのドアを開け、私を先に通した。
「ここには、よく来る? ……ごめん、よく来てた?」
「いいえ、図書室はあまり利用してませんでした」
そこは、しんと静まりかえり、かすかに本がいっぱい置いてある場所独特の匂いを感じる。
「いい匂いよね」
そう言って保健の先生は目を閉じ、なにかを嗅ぎとろうと顔を少し上げた。
窓の外では、まだツクツクボウシが鳴いているが、ここは別世界のように涼しい。
「確か、『バニリン』っていったかな」
「バニリン……ですか?」
「うん、本がだんだん古くなって化学変化が起きて、バニラのような甘い香りがしてくるんだって」
言われてみれば。
そんなに嫌いじゃない……というか不思議にその匂いが私を落ち着かせた。
入口付近には貸出カウンターとお勧め書籍の本棚があり、八つのテーブルが並ぶ閲覧コーナーを、ぐるりと書架が囲んでいる。
瀬川先生は、カウンターに寄りかかり、私に向き合う。
「もしよかったらだけど……ここね、授業中は誰もいないから自由に使っていいよ。保健室も飽きちゃったろうし」
「ありがとうございます」
「本は好きかしら?」
「マンガとかラノベとか読むくらいで……本格的な小説とかは、ちょっと」
「いいじゃない! 私も好きよ。ホラーとか、百合とか、シスターフッドとか、ロマンシスとか」
「え?」
「あ、それからね、意外とココ、マンガもラノベも充実してるのよ」
「そうなんですか?」
「誰かさんの功績でね……あ、そうだ、忘れてた。ココね、あなたの先輩がひとりいるんだった」
そう言った先生の瞳には、ちょっといたずらっぽさが感じられた。
「センパイ?」
「その子、ときどきココに来るけど、気になるようだったら、時間調整してもらうから」
「?」
養護の先生はそう言って、図書室を後にした。ココに来たときは、一応LINE頂戴ね、とだけ言葉を残して。
さて、どうしよう。
いつでも帰っていいよって言われたけど。
実はここに来たのは、入学して学内の施設の見学会があった時以来かも知れない。
この後どうするか決めかねながら、書架を見て回る。
文学、経済、科学、社会、スポーツ、健康と保健、地域と環境など、いろいろなジャンルの本が整理されて並んでいる。
書架コーナーの一番奥まったところに少しスペースが空いていて、四人掛けのテーブルが置かれている。
その上には何冊かの本が無造作に置かれ、奥の椅子には一人の女子生徒が座っていた……いや、正確に言うと、テーブルに突っ伏して寝ていた。
うちの学校の制服はブレザーだけど、なぜかその子はセーラー服を着ていた。よその学校の生徒だろうか?
私は彼女の睡眠の邪魔をしないように……正直に言えばこの子との接触を避けたくて、図書室を出ようと入口に向かう。
少し慌てていたので、閲覧コーナーのテーブルに置いてあったカバンを持った時に椅子にぶつけてしまい、ガタリと大きな音をたててしまった。
「あれ、誰かいるのかな?」
奥から声がした。
少し迷ったが、声のする方に一歩二歩戻った。
「邪魔をしちゃってごめんなさい」
セーラー服の女子生徒は、おっとっとと言いながらよろけ気味に立ち上がり、寝ぼけ眼をこすった。
「いーのいーの。ココはみんなの図書室なんだから」
短めの髪を横で一つ結びにした女の子がニコリと笑って近づいてきた。
「ところで。授業中なのに、キミは何でココにいるのかな?」
「あ、あの、瀬川先生、保健の先生にここを案内されて……」
「瀬川ちゃん、いや先生! そっか、君もボクと同類かあ!」
その子はニッと笑って、カバンを持ってない方の私の手をとって無理やり握手した。
彼女の手の感触は、ちょっと不思議だった。柔らかく、涼やか。まるで外の暑さを知らないかのような。
「ボクの名前は、大野朝陽、アサヒだよ。二年生。よろしく」
「わ、私は、高峯円花、マドカ。一年です」
彼女に倣って自己紹介をした。
握手していた手をほどき、彼女は席を勧めた。
「散らかってるけど、よかったらココ座って」
そう言うと彼女は私よりも先に腰かけ、目の前にごちゃごちゃと置いてあった本を両手で寄せ集め、テーブルの一角に追いやった。装丁や表紙を見ると、全部ラノベだ。
「ねえ、マドカ。キミはどんな本が好きかな?」
いきなり名前で呼ばれ、少しびっくりする。
「マンガとかラノベとか読むくらいで……本格的な小説とかは、ちょっと」
瀬川先生からの質問と同じ返事をした。
「おー、仲間! それはちょうどよかった」
彼女は笑みをこぼしながら、周りの書架を見回した。
よく見ると――いや、よく見なくても書架の側面に『マンガ・ラノベコーナー』と手作り、手書きのプレートが貼ってあり、その棚にはマンガとラノベがずらりと並んでいる。そこには手作りのPOPもぶら下がっていて『BLビギナーには、これがおススメ!』とか『ついに出た! 五年ぶり〇〇先生の新作』とか書かれている。
「ココの棚はね、ほとんどボクが本を集めて、このコーナーを作ったんだ」
そう言って書架のハンドルに手を置き、胸を張った。
「この本、大野さんが買った、ということですか?」
「まさか! ちゃんと図書購入の希望を学校に出して注文しているよ――それからボクのことはアサヒでいいよ。あと、タメ口でOK!」
「……わかった。図書室って、希望を言えば、読みたい本を買ってくれるの?」
「うん、もちろん。実はね、貸出カウンターに購入のリクエストを出す用紙が置いてあるんだけどね。ほとんど利用されてないから、ボクがどんどん希望を出しちゃうんだ。学校では決められた予算を使わなくちゃいけないみたいだし」
「あの、大野さん……アサヒって、図書委員とかやってるの?」
「そうだよ。ボクは図書委員長。各クラスから一人ずつ図書委員が選ばれてると思うけど、誰も委員長はやりたがらないから、しょうがないなーって手を挙げたら、委員長になっちゃった……そうだマドカ、キミ副委員長やらない? そんな状況なんで、副委員長のなり手がいなかったんだ」
「え! 私、図書委員でもないし、それに学校にどれだけ来れるかわからないし……」
たしか、私のクラスの図書委員は既に決まっているはずだ。
「いーからいーから! 図書委員って必ずクラス一人って決まってるわけじゃないし、来れる時だけ来て手伝ってくれればいいよ。ボクも最初そうだったし。よかったら、図書室担当の先生に話しとくから」
なんか、その子の勢いに呑まれて、私は図書室の副委員長になってしまった。不登校生なんだけど。
その日から私は、調子がいい時は『図書室』に登校し、アサヒと本の整理をしたり、蔵書のマンガやラノベを読んだり、お喋りをしたりした。調子が悪い時は保健室で瀬川先生と言葉少なに会話をしたり、ベッドを借りて体を休め、もっと調子が悪い時は学校を休んだ。
「先生、ひとつ聞いてもいいですか?」
「うん、なーに?」
保健室のベッドに寝たまま、私はパソコンに向かっている先生に尋ねる。
「図書室の先輩……大野さんのことですけど」
「あー、アサヒちゃんね、彼女がとうかした?」
「この学校の生徒ですよね? 制服が違うし」
銀縁のメガネごしに先生は私を見つめた。そして、いたずらっぽく微笑んだ。
「もちろん、うちの学校の生徒よ」
「そうですか……でも、校内であまり見かけないし」
「あら、あなたもそんなに学校の中うろつく方じゃないでしょ?」
確かにそうだ。学校の中を歩けない自分が少し情けない。
「ところでマドカさん、嘘って悪いことだと思う?」
唐突な質問だ。なんて答えていいのやら。
「私はね。『優しい嘘』ってあると思うんだ」
「優しい嘘?」
先生がうなずく。
「まあ、大概の女の子は、それがうまいと思うけどね」
アサヒのことと、なにか関係があるのだろうか?
「だからね、あなたもうまくだまされて」
「え?」
「あなたも嘘に救われる時がきっとくる」
今ひとつ要領を得なかったが、瀬川先生の確信に満ちた話しっぷりに、この会話を続けてもしょうがないような気がした。それに眠くなってきたので、私は布団を深く被り、目を閉じた。
◯
昼休みや放課後、本を探したり自習をする生徒で込み合うこともあり、そんなときは図書室の隣の小さな倉庫に退避し、アサヒと一緒にお弁当を食べたりおしゃべりをした。狭い空間で二人きりになるのはちょっと恥ずかしくてドキドキした。
本の貸出・返却はその日の当番の図書委員の生徒たちがやってくれている。
「ねえアサヒ、一つ聞いていい?」
二人で書架の間でめいめい本を読んでいるとき、どうしても聞いてみたいことがあって声をかけてみた。
アサヒは読んでいる本から視線を上げ、私に顔を向けたが、ちょっと表情がこわばっている。
「あ、そんな大した話しじゃないよ……今もそうだけど、アサヒって割りと同じ本を何回も読んでない?」
彼女の表情が緩んだ。
「ああ、なんだそんなことか……それはね、終わりたくないから」
「……終わりたくないって?」
「物語ってさあ、結局『おしまい』ってなるじゃない?」
「まあ確かに」
「ボクはね、それがさみしいんだ……」
「さみしい?」
「うん、なんかその本のなかに一人、取り残されたようで……特にいいお話だと余計にね」
その感覚は私にはよくわからなかったが、彼女が時々見せる寂しそうな表情に、思い当たるものがあった。
彼女は読んでいた本を閉じて、前を向いた。
「だから、物語の終わりが近づいたら、また『お気に入り』の場所から読み始めるんだ……このお話がずっと続きますようにって思って」
「そうなんだ。私はどちらかと言うと、最期まで読んで、その余韻を楽しむ方だから」
「うん、普通はそういうもんだよね……ボクが変なのかもね」
物語を終わらせたくない。この気持ちはどこから来るものなのだろうか。
そうやって、私はアサヒの隣に居場所を見つけ、いつの間にか少しずつだけど、学校に行ける日が増えていった。
ある日。
アサヒは書架の棚の高い所にある本をとろうとして脚立に乗っていた。
「おっと!」
「危ない!」
彼女はバランスを崩し、よろけた。私はあわてて手を広げ受け止めた。
その時の不思議な感触。
全く重さを感じなかった。一瞬、アサヒの体が私の両手をすり抜けたように思えた。
少し遅れてから彼女の体の感触と重さをずしりと感じた。
あの時――握手したときと同じ感触だった。
彼女の顔がすぐ目の前にあった。私の表情を見てか、アサヒは何となく気まずそうに笑った。
「ごめんごめん」
「ほ、ほんと……気をつけてよね」
私は今起きたことに対して、何も気づいていないフリをした……なんとなくそうした方がいいと思ったから。
それから数日たって、テーブルに座り、山積みされたラノベ本を前にしてご機嫌そうなアサヒに提案した。
「ねえ、一緒に写真撮ってもいい?」
私は何かを試したかったのかもしれない。
「ああ、いいよ」
彼女の反応は、拍子抜けするほどに普通だった。
私は手を伸ばして、二人とラノベ本がフレームに入るようにしてシャッターを押した。
チェックすると……アサヒも私もちゃんと写真に写っている。
そのあと、セルフタイマーを使ったりして、図書室の中をあちこち移動して、何枚か撮った。
「ありがとう、よかったらインスタとかでシェアするから、ユーザーネームとか教えてもらえる?」
「サンキュー……でも、インスタのアカウントはまだ無いから、今度作って教えるから、そのとき、ヨロシク」
「わ、わかた……でスマホは、持ってるのね?」
「うん、モチロン!」
そう言って、スカートのポケットから、ピンクのスマホを取り出して見せた。
奥の四人がけのテーブルでアサヒと話題の新刊について話してたら、お昼休みが始まるチャイムを聞き逃してしまっていた。
図書室のドアががらりと開く。
パタパタと足音が聞こえたので、慌てて倉庫に隠れようとしたけど、アサヒはニコリと笑ってそのまま座っている。
私も座り直す。
女子生徒たちが、図書室の奥にやってきた。
「ねえねえ、見て! ほら、ココ、マンガとかいっぱいあるでしょ?」
「POPとか貼ってあって楽しいね」
「ほんとだー! 知らなかった。借りて行こっか?」
本棚の陰から姿を現したのは、三人の女子。クラスメイトだ。いつも明るく賑やかで、クラスのムードメーカーという存在。……要は私が苦手とする、というか怖く感じるタイプだ。
テーブルに座っている私に気づき、三人の視線が集まる。不思議とアサヒには目もくれない。
「あれっ、高峯さん?」
「……こんにちは……久しぶり」
「へー、クラスで見かけなかったけど、こんなところにいたんだ」
「うん……図書委員をやらせてもらっているの」
「ふーん、高峰さんって図書委員だったっけ?」
「……う、うん、最近委員にしてもらったの」
彼女たちの言葉に、嫌みとか、からかいみたいなのは感じられなかった。
「ココいいね! ワタシの好みの本が充実しているし、お勧めがわかりやすいし……なんか隠れ家みたいだし」
アサヒが手のひらを上に向け、『どうぞ』のポーズをとる。
「ほら、マドカ。今読んでいた、お勧めの本を紹介してやんなよ……キミは図書室の副委員長なんだし」
アサヒが私を見つめる。
その眼差しに促され、席を立ち、自分で注文した新刊本をみんなに案内した。
アサヒはテーブルから離れる。
席が四つでき、私とクラスメイトが腰かけた。
三人は遠慮することなく本を手にとりパラパラとページをめくりながら私に質問してきた。つっかえながらも説明をしていると、だんだんとみんなの好みもわかってきたので、書架に連れていって、目ぼしい本を紹介した。
いつの間にか、アサヒの姿は図書室にはなかった。
◯
それから、彼女らは三人で、時にはクラスの別の子も連れてやってきては本を借り、あのテーブルで感想を言いあったり、全然関係ない話をした。となりの男子校のイケメン話だったり、アイドルグループだったり。
「ねえ高峰さん……マドカちゃん。クラスにも、もっと来てみたら。こうやって話していると思ったよか、その大丈夫そうだし、それに何かあったらアタシたちがサポートするからさ」
ふと会話が途切れたときに仲良しグループメンバーの一人が私に提案してきた。他の子もうんうんとうなずいている。もちろん彼女たちは私が学校になかなか来れない、来ても教室に入れないという状況はわかているはずだ。
その日はアサヒも図書室に来ていて、少し離れた書架に寄りかかり、私たちの話を聞きながら、腕を組んでうんうんとうなずいていた。
そんな会話をした翌週。
少しだけ、風に涼しさが混ざるようになって。季節が変わりつつあることに気づく。
久しぶりに図書室の奥のテーブル席に座っているアサヒの姿があった。
熱心にラノベを読んでいて、私が近づいたのに気づかない。そのまま向かいの席に腰かける。
ようやく私の存在に気づいた彼女は本を開いたまま顔を上げ、やあ、と言って微笑んだ。
これからの会話、あまり面白いものになりそうにないな、と予感しつつ私は口を開く。
「最近、あまり図書室に来ないね」
「そうかな?」
「うるさくしちゃってごめんね……ここは図書室なのに。それにあなたの場所なのに」
「いやいや、図書委員長としては、利用してくれる人が増えるのは大変喜ばしいことだよ。それにココはボクの縄張りってわけでもないし」
「ひょっとして私に気を遣ってる?」
「ううん、全然」
「でも、目に見えてアサヒはここに来なくなった」
彼女は、開いている本のページに視線を落とした。
「ボクもそれなりに忙しいからね」
「嘘!」
思わずその言葉を口に出してしまった。
出したついでに、聞いてはいけない質問が口をつく。
「じゃあアサヒ、あなたはここにいないときって、いったいどこで何をしているの?」
彼女は、本のページを見つめたままだ。
バカだ。私は。
前にもこんな過ちを犯して、それで友達関係が悪化して学校に来れなくなったんだ。
「ごめん、今聞いたことは忘れて……答えなくていい」
彼女はじっと黙っている。
私の後悔の念はどんどん強くなる。
バタン。
急に大きな音がした。
アサヒが読んでいた本を閉じた音だ。
そして彼女はエヘヘと笑って口を開いた。
「ああ、この本も、さすがにもう飽きちゃったなあ」
「え?」
「もう繰り返し何度も何度も読んじゃったし」
そう言って本をテーブルの真ん中まで押した。
「よし、この物語はもう、おしまい!」
「え!?」
彼女が何を言いたいのかわからなかった。
「だからボクは図書室に来なくてもいいなって思っていたんだ」
「そ、そんな……」
「それにさ、マドカとこうしているのも、もういいかなあって」
今、何て言った?
「な、なんでそんなこと言うの?」
「なんかね、もういろいろ終わりでいいかなって考えている」
「ど、どういうこと?」
「図書委員長は、マドカに譲る。だから、クラスメイトが楽しく過ごせる場所にしてほしいな」
「そ、それなら、アサヒも一緒にやろうよ」
「いや、ボクには無理なんだ」
「……どうして?」
だめだ。
このまま会話を続けていくと、このまま質問を重ねていくと、終わってしまうんだ……アサヒと私の物語が。
うすうす感じる。彼女がわざとそう仕向けていることを。
でも、なぜ?
私は、この流れに乗っちゃいけないんだ。だから、口をつぐんだ。
「マドカ、君はいい方に向かっている。顔色がぜんぜんよくなったし、友達と話していても抵抗感はなさそうだし……だから、この部屋とうまく利用して、少しずつ教室にも行けるようになってほしい」
多分、それがアサヒの本当の気持ちなんだろう……でも。
私はもう一つだけ質問することにした。
「ありがとう、アサヒ。でもね、大事なことを脇に置いてない?」
「……なんだろう? それ」
そう言って彼女は物を自分の横に置くようなゼスチャーをしてみせた。
「わかってるでしょ?」
涙がこらえられなくなった。
「私の気持ち……それからアサヒ、あなたの気持ち」
涙をこぼす私のことをしばらく見つめていたが、アサヒは席を立ち、読んでいた本を書架に戻した。
そしてこう言った。
「ありがとう。君の気持ちはすごくうれしいよ……で、でも。ボクが君に感じている気持ちは、き、君のそれとは違うと思う」
アサヒはじゃあね、と言って図書室から出ていってしまった。
◯
秋のしっとりとした空気から、冷えて乾いたものに変わり、図書室独特の『バニリン』の匂いも薄れたような気がする。
私の学校生活の場は相変わらず図書室が中心だったけど、少しずつ教室で過ごせる時間が長くなってきた。
わかっていた。
いや、最初はよくわからなかった。
瀬川先生が言った、優しい嘘。
そして、アサヒがついた優しい嘘。
彼女の姿がここ、図書室から見えなくなって、ようやく気づいた。
◯
久しぶりに保健室を訪ねた。
こう間が空くと、ノックするのにも勇気がいる。
「はい、どうぞ」
ドアを開けた生徒が私であると確認して事務机に腰かけていた先生が立ち上がってメガネごしにニッコリと微笑んだ。
「久しぶりね、高峰さん……ちょっと寂しかったわ……あ、いけないいけない! 養護の教師がそんなこといっちゃダメよね。今のは聞かなかったことにして」
そう言いながらもちょっとおどけた口調だった。
「でもね、ほんと少し安心してる……て言っても、無理は禁物だからね。困ったらいつでも相談に来てね」
そう言って、席に座るように勧め、小さなペットボトルの水を二つクーラーから取り出し、一つを手渡してくれた。
「はい、ありがとうございます……なので相談に来ました」
「そう、体調はどんな感じ?」
私は両手で持っているペットボトルを見つめる。
たぶん先生はなんのためにここに来たのか、気づいているはずだ。
「アサヒ……大野朝陽さんとは、どうやっったら会えるんですか?」
瀬川先生は私の質問をうなずきながら聞き、ペットボトルの水を一口含んだ。
「そうよね。それ、聞きたいところよね」
「はい……でも、アサヒが何者なのかなんて聞きません。ただ……ただ会いたいだけです」
先生は、もう一口水を飲んだ。
「その気持ち、すごくわかるけど残念ながら、答えられないわ」
「どうしてですか? 答えちゃいけないことなんですか?」
「そうじゃなくてね、彼女気まぐれだから、会えるか会えないか、いつ会えるかなんて保証ができないの」
「……じゃあ、もう会えなってことも」
最悪、そういうこともあるのでは覚悟していたけど、それが現実味を帯びてくるとおびてくると、すごく恐い。
瀬川先生は私のとなりに来て背をなでてくれた。そしてささやく。
「多分だけどね、また会いにきてくれるんじゃないかな」
「……いいです。慰めていただかなくても」
「ううん、そうじゃなくてね」
そう言って先生は私の背から手を離し、事務机に向かった。一番上の引き出しから何かを取り出し、戻ってきた。
「まだ冬になる前、大野さんがここに来てね、『もしマドカがここに来たら渡してください』って預かったの……読んでみて」
先生がテーブルの上に置いたのは、薄いピンク色の表紙の大学ノートだった。
私はそのノートを受け取り、保健室を後にした。
廊下の隅にあるベンチに腰を下ろす。
膝の上には、先輩から託された薄いピンク色のキャンパスノート。
表紙をめくると、そこには見覚えのある、丸っこくて少し癖のある文字がびっしりと並んでいた。
インクの匂い。そして、微かにあの図書室のバニラの香りがした気がした。
『マドカへ。 直接言うと泣いちゃいそうだから、ここに書いておくね。
こないだは「飽きた」なんて言ってごめん。あれは嘘だ。
本当はね、マドカと一緒に過ごした放課後が、ボクの止まっていた時間の中で一番、眩しくて楽しかったんだ。
ずっとこのまま、キミと図書室で本を読んでいたかった。
でも、それじゃダメなんだ。ボクは、このままじゃ卒業できないから』
文字が、少しだけ滲んでいるように見えた。
『ボクには、やり残したことがあるんだ。
ボクはずっと本を「読む側」だった。この図書室にたくさんの物語を読んできた。
でもね、本当はずっと憧れていたんだ。
誰かが作った世界に逃げ込むんじゃなくて、ボク自身の手で、物語を創ってみたいって。 それも、たった一人で書く孤独な独白じゃなくて、友達と笑い合いながら紡ぐ、最高にハッピーな「共作」を。
だからね、マドカ、お願いがある。
ボクと一緒に、物語を作ってほしい』
私は息を飲む。
先輩の願い。それは、私たちがこれから紡ぐ「交換日記」のことだ。
『マドカ、キミの言葉で、このノートの続きを書いてくれ。
そして、書き終わったら体育館の更衣室のロッカーに隠してほしい。
きっとそこで、次の「主人公」が待っているから。
それともう一つ。アナログ派のボクが、頑張って用意したものがあるんだ。
インスタのアカウントを作ってみたんだよ(やり方は瀬川ちゃんに教わった!)。
ユーザーネームは、「 ××××××××××××××× 」。
さっき撮ったボクらの記念写真、そこにアップしてくれないかな?
「コラボコレクション」だっけ?――これも瀬川ちゃんのウケウリだけど――それでボクを招待してほしいんだ。
アルバムの名前は――「十四人の卒業アルバム」。
あ、ノートも書かれる物語のタイトルも同じ「十四人の卒業アルバム」だよ。
キミたち七人の女の子と、ボクたち七人。
合わせて十四人。
キミたちが三年生になって、このノートの物語と、そのアルバムが完成した時……「やり残したこと」は全部終わる。
そしたら、一緒に卒業式をしよう
待ってるよ。
ボクたちの物語が、ハッピーエンドになる日を。
元図書委員長のアサヒより』
読み終えた瞬間、視界が歪んだ。
ノートの上に、ぽつりと滴が落ちて、アサヒという文字を濡らす。
私は袖で乱暴に涙を拭うと、スマホを取り出した。
アサヒのユーザーネームを入力する。 画面の中に、まだ誰もいない、フォロワー0人のアカウントが現れた。
アイコンは、図書室の窓から見える、琥珀色の夕焼け空だった。
図書室で撮った、あの写真数枚を選択し、新しいコレクションを作り、コラボ招待を送った。
アサヒはこれを見てくれるのだろうか。
十四人の卒業アルバム。
その最初の1ページ目が、今、私の手で作られようとしている。
(第一話 了)
生徒たちが下校し、保健室の片づけや日誌の記入も終わるこの時間。
心の中で張りつめていたものが、ゆるゆるとほどけてくる。
消毒液のツンとする匂いが薄れ、窓から入る夕暮れの匂いと混ざり合う、一日の終わりの気配。
今日も、この春入学してきた子供達が、不慣れな環境に馴染めずに数人やってきた。
一学期は、この後ゴールデンウィーク明けまでこんな日が長く続くだろう。
でも、今日はもう店仕舞い。
あとは鍵を閉めて職員室に必要なものを提出すれば終わりなのだが、カーテン越しに射す琥珀色の夕陽と、遠くで響くローテンポな下校の音楽が、私をこの場に押し留める。
私はソファにややだらしなく体を沈め、白衣のポケットからスマホを取り出した。
インスタグラムのアイコンを押し、とあるグループのプロフィールページを開く。
卒業アルバム。
この春巣だっていった女の子が、私もこのグループの仲間に入れてくれたのだ。
画面をスクロールすると、学校の中の様々な場所で撮られた写真が並んでいる。
図書室、体育館、理科室、学食、保健室、音楽室、そして天文ドーム。
七つの場所で、それぞれの場所にふさわしいポーズで、女の子が一人ずつ写っている。
ある子はピースサインで、ある子は、はにかんで。
七人の女の子。みんな、いい笑顔だ。
……けれど。
本当は、もっといたはずだ。
そのフレームの中に。
写真の中の彼女たちの隣には、必ず不自然な「空白」がある。
誰かと肩を組んでいるような空間。誰かと見つめ合っているような余白。
レンズには映らないけれど、そこにはもっと、『誰か』がいたはずだ。
少し前の私にも、その子たちが見えていた。
彼女たちの姿が見えなくなったことは寂しい気もするけど、きっと『よかった』と思うべきなのだろう。
そのお陰で私も後悔と自責の念がいくぶん和らいでいる。
なにせ、彼女らは、写真に写っている七人の子たちと一緒に、「卒業」できたのだから。
私は事の成り行きをすべて知っているわけではない。
だけど、スマホに映し出された写真から、そこに書かれた『ありがとう』というコメントから
……そして、女の子たちの口々から伝え聞いた言葉を頼りに、
その物語が淡い色合いの映像を伴って再現される。
スマホをローテーブルに置き、背もたれに深く身を沈め、目を閉じた。
瞼の裏に、あの懐かしい図書室の扉が浮かぶ。
私の追想は、チャイムの響きから始まる――。
〇
キンコーン カンコーン ♪
廊下に響き渡る二時間目開始のチャイム。
建て替えられたばかりの校舎は、少し薬っぽい匂いがして、照明も明るすぎる。それが私の足取りを余計に重くさせた。
「起立、礼」
「お願いしまーす」
先生はすでに教室に入り、英語の授業が始まろうとしている。
『一年四組』と表示された教室のドア。
今日は、やっとここまで来れた。
おとといは昇降口まで。
その前の日は学校の正門まで。
でも。
このドア一枚の隔たりは、厚すぎる。
これ以上は無理。
クラスの入口の前に立って、十五分過ぎた。
やっぱり、帰ろう。
そして明日からは、もう……
「こんにちは、高峯さん」
振り向くと白衣の女の人が立っていた。
窓から入ってくる風に長い髪が揺れている。
眼鏡の下の瞳が優しく微笑んでいる。
養護の瀬川先生だ。
「こ、こんにちは」
「今日は、ここまで来れたんだ。えらい!」
「で、でもこれ以上は……」
「いいよいいよ、無理しなくって。もう、お家帰る?」
「そうしようかなって思って」
「そう……ちょっとだけ、寄ってかない?」
返事を聞かずに先生は歩き出す。
釣られて、後をついていく。
階段を降りるとき、一度だけ先生は私を振り返った。そして安心したかのように微笑む。
二人で一階の奥に向かう。
先生は突き当りのドアを開け、私を先に通した。
「ここには、よく来る? ……ごめん、よく来てた?」
「いいえ、図書室はあまり利用してませんでした」
そこは、しんと静まりかえり、かすかに本がいっぱい置いてある場所独特の匂いを感じる。
「いい匂いよね」
そう言って保健の先生は目を閉じ、なにかを嗅ぎとろうと顔を少し上げた。
窓の外では、まだツクツクボウシが鳴いているが、ここは別世界のように涼しい。
「確か、『バニリン』っていったかな」
「バニリン……ですか?」
「うん、本がだんだん古くなって化学変化が起きて、バニラのような甘い香りがしてくるんだって」
言われてみれば。
そんなに嫌いじゃない……というか不思議にその匂いが私を落ち着かせた。
入口付近には貸出カウンターとお勧め書籍の本棚があり、八つのテーブルが並ぶ閲覧コーナーを、ぐるりと書架が囲んでいる。
瀬川先生は、カウンターに寄りかかり、私に向き合う。
「もしよかったらだけど……ここね、授業中は誰もいないから自由に使っていいよ。保健室も飽きちゃったろうし」
「ありがとうございます」
「本は好きかしら?」
「マンガとかラノベとか読むくらいで……本格的な小説とかは、ちょっと」
「いいじゃない! 私も好きよ。ホラーとか、百合とか、シスターフッドとか、ロマンシスとか」
「え?」
「あ、それからね、意外とココ、マンガもラノベも充実してるのよ」
「そうなんですか?」
「誰かさんの功績でね……あ、そうだ、忘れてた。ココね、あなたの先輩がひとりいるんだった」
そう言った先生の瞳には、ちょっといたずらっぽさが感じられた。
「センパイ?」
「その子、ときどきココに来るけど、気になるようだったら、時間調整してもらうから」
「?」
養護の先生はそう言って、図書室を後にした。ココに来たときは、一応LINE頂戴ね、とだけ言葉を残して。
さて、どうしよう。
いつでも帰っていいよって言われたけど。
実はここに来たのは、入学して学内の施設の見学会があった時以来かも知れない。
この後どうするか決めかねながら、書架を見て回る。
文学、経済、科学、社会、スポーツ、健康と保健、地域と環境など、いろいろなジャンルの本が整理されて並んでいる。
書架コーナーの一番奥まったところに少しスペースが空いていて、四人掛けのテーブルが置かれている。
その上には何冊かの本が無造作に置かれ、奥の椅子には一人の女子生徒が座っていた……いや、正確に言うと、テーブルに突っ伏して寝ていた。
うちの学校の制服はブレザーだけど、なぜかその子はセーラー服を着ていた。よその学校の生徒だろうか?
私は彼女の睡眠の邪魔をしないように……正直に言えばこの子との接触を避けたくて、図書室を出ようと入口に向かう。
少し慌てていたので、閲覧コーナーのテーブルに置いてあったカバンを持った時に椅子にぶつけてしまい、ガタリと大きな音をたててしまった。
「あれ、誰かいるのかな?」
奥から声がした。
少し迷ったが、声のする方に一歩二歩戻った。
「邪魔をしちゃってごめんなさい」
セーラー服の女子生徒は、おっとっとと言いながらよろけ気味に立ち上がり、寝ぼけ眼をこすった。
「いーのいーの。ココはみんなの図書室なんだから」
短めの髪を横で一つ結びにした女の子がニコリと笑って近づいてきた。
「ところで。授業中なのに、キミは何でココにいるのかな?」
「あ、あの、瀬川先生、保健の先生にここを案内されて……」
「瀬川ちゃん、いや先生! そっか、君もボクと同類かあ!」
その子はニッと笑って、カバンを持ってない方の私の手をとって無理やり握手した。
彼女の手の感触は、ちょっと不思議だった。柔らかく、涼やか。まるで外の暑さを知らないかのような。
「ボクの名前は、大野朝陽、アサヒだよ。二年生。よろしく」
「わ、私は、高峯円花、マドカ。一年です」
彼女に倣って自己紹介をした。
握手していた手をほどき、彼女は席を勧めた。
「散らかってるけど、よかったらココ座って」
そう言うと彼女は私よりも先に腰かけ、目の前にごちゃごちゃと置いてあった本を両手で寄せ集め、テーブルの一角に追いやった。装丁や表紙を見ると、全部ラノベだ。
「ねえ、マドカ。キミはどんな本が好きかな?」
いきなり名前で呼ばれ、少しびっくりする。
「マンガとかラノベとか読むくらいで……本格的な小説とかは、ちょっと」
瀬川先生からの質問と同じ返事をした。
「おー、仲間! それはちょうどよかった」
彼女は笑みをこぼしながら、周りの書架を見回した。
よく見ると――いや、よく見なくても書架の側面に『マンガ・ラノベコーナー』と手作り、手書きのプレートが貼ってあり、その棚にはマンガとラノベがずらりと並んでいる。そこには手作りのPOPもぶら下がっていて『BLビギナーには、これがおススメ!』とか『ついに出た! 五年ぶり〇〇先生の新作』とか書かれている。
「ココの棚はね、ほとんどボクが本を集めて、このコーナーを作ったんだ」
そう言って書架のハンドルに手を置き、胸を張った。
「この本、大野さんが買った、ということですか?」
「まさか! ちゃんと図書購入の希望を学校に出して注文しているよ――それからボクのことはアサヒでいいよ。あと、タメ口でOK!」
「……わかった。図書室って、希望を言えば、読みたい本を買ってくれるの?」
「うん、もちろん。実はね、貸出カウンターに購入のリクエストを出す用紙が置いてあるんだけどね。ほとんど利用されてないから、ボクがどんどん希望を出しちゃうんだ。学校では決められた予算を使わなくちゃいけないみたいだし」
「あの、大野さん……アサヒって、図書委員とかやってるの?」
「そうだよ。ボクは図書委員長。各クラスから一人ずつ図書委員が選ばれてると思うけど、誰も委員長はやりたがらないから、しょうがないなーって手を挙げたら、委員長になっちゃった……そうだマドカ、キミ副委員長やらない? そんな状況なんで、副委員長のなり手がいなかったんだ」
「え! 私、図書委員でもないし、それに学校にどれだけ来れるかわからないし……」
たしか、私のクラスの図書委員は既に決まっているはずだ。
「いーからいーから! 図書委員って必ずクラス一人って決まってるわけじゃないし、来れる時だけ来て手伝ってくれればいいよ。ボクも最初そうだったし。よかったら、図書室担当の先生に話しとくから」
なんか、その子の勢いに呑まれて、私は図書室の副委員長になってしまった。不登校生なんだけど。
その日から私は、調子がいい時は『図書室』に登校し、アサヒと本の整理をしたり、蔵書のマンガやラノベを読んだり、お喋りをしたりした。調子が悪い時は保健室で瀬川先生と言葉少なに会話をしたり、ベッドを借りて体を休め、もっと調子が悪い時は学校を休んだ。
「先生、ひとつ聞いてもいいですか?」
「うん、なーに?」
保健室のベッドに寝たまま、私はパソコンに向かっている先生に尋ねる。
「図書室の先輩……大野さんのことですけど」
「あー、アサヒちゃんね、彼女がとうかした?」
「この学校の生徒ですよね? 制服が違うし」
銀縁のメガネごしに先生は私を見つめた。そして、いたずらっぽく微笑んだ。
「もちろん、うちの学校の生徒よ」
「そうですか……でも、校内であまり見かけないし」
「あら、あなたもそんなに学校の中うろつく方じゃないでしょ?」
確かにそうだ。学校の中を歩けない自分が少し情けない。
「ところでマドカさん、嘘って悪いことだと思う?」
唐突な質問だ。なんて答えていいのやら。
「私はね。『優しい嘘』ってあると思うんだ」
「優しい嘘?」
先生がうなずく。
「まあ、大概の女の子は、それがうまいと思うけどね」
アサヒのことと、なにか関係があるのだろうか?
「だからね、あなたもうまくだまされて」
「え?」
「あなたも嘘に救われる時がきっとくる」
今ひとつ要領を得なかったが、瀬川先生の確信に満ちた話しっぷりに、この会話を続けてもしょうがないような気がした。それに眠くなってきたので、私は布団を深く被り、目を閉じた。
◯
昼休みや放課後、本を探したり自習をする生徒で込み合うこともあり、そんなときは図書室の隣の小さな倉庫に退避し、アサヒと一緒にお弁当を食べたりおしゃべりをした。狭い空間で二人きりになるのはちょっと恥ずかしくてドキドキした。
本の貸出・返却はその日の当番の図書委員の生徒たちがやってくれている。
「ねえアサヒ、一つ聞いていい?」
二人で書架の間でめいめい本を読んでいるとき、どうしても聞いてみたいことがあって声をかけてみた。
アサヒは読んでいる本から視線を上げ、私に顔を向けたが、ちょっと表情がこわばっている。
「あ、そんな大した話しじゃないよ……今もそうだけど、アサヒって割りと同じ本を何回も読んでない?」
彼女の表情が緩んだ。
「ああ、なんだそんなことか……それはね、終わりたくないから」
「……終わりたくないって?」
「物語ってさあ、結局『おしまい』ってなるじゃない?」
「まあ確かに」
「ボクはね、それがさみしいんだ……」
「さみしい?」
「うん、なんかその本のなかに一人、取り残されたようで……特にいいお話だと余計にね」
その感覚は私にはよくわからなかったが、彼女が時々見せる寂しそうな表情に、思い当たるものがあった。
彼女は読んでいた本を閉じて、前を向いた。
「だから、物語の終わりが近づいたら、また『お気に入り』の場所から読み始めるんだ……このお話がずっと続きますようにって思って」
「そうなんだ。私はどちらかと言うと、最期まで読んで、その余韻を楽しむ方だから」
「うん、普通はそういうもんだよね……ボクが変なのかもね」
物語を終わらせたくない。この気持ちはどこから来るものなのだろうか。
そうやって、私はアサヒの隣に居場所を見つけ、いつの間にか少しずつだけど、学校に行ける日が増えていった。
ある日。
アサヒは書架の棚の高い所にある本をとろうとして脚立に乗っていた。
「おっと!」
「危ない!」
彼女はバランスを崩し、よろけた。私はあわてて手を広げ受け止めた。
その時の不思議な感触。
全く重さを感じなかった。一瞬、アサヒの体が私の両手をすり抜けたように思えた。
少し遅れてから彼女の体の感触と重さをずしりと感じた。
あの時――握手したときと同じ感触だった。
彼女の顔がすぐ目の前にあった。私の表情を見てか、アサヒは何となく気まずそうに笑った。
「ごめんごめん」
「ほ、ほんと……気をつけてよね」
私は今起きたことに対して、何も気づいていないフリをした……なんとなくそうした方がいいと思ったから。
それから数日たって、テーブルに座り、山積みされたラノベ本を前にしてご機嫌そうなアサヒに提案した。
「ねえ、一緒に写真撮ってもいい?」
私は何かを試したかったのかもしれない。
「ああ、いいよ」
彼女の反応は、拍子抜けするほどに普通だった。
私は手を伸ばして、二人とラノベ本がフレームに入るようにしてシャッターを押した。
チェックすると……アサヒも私もちゃんと写真に写っている。
そのあと、セルフタイマーを使ったりして、図書室の中をあちこち移動して、何枚か撮った。
「ありがとう、よかったらインスタとかでシェアするから、ユーザーネームとか教えてもらえる?」
「サンキュー……でも、インスタのアカウントはまだ無いから、今度作って教えるから、そのとき、ヨロシク」
「わ、わかた……でスマホは、持ってるのね?」
「うん、モチロン!」
そう言って、スカートのポケットから、ピンクのスマホを取り出して見せた。
奥の四人がけのテーブルでアサヒと話題の新刊について話してたら、お昼休みが始まるチャイムを聞き逃してしまっていた。
図書室のドアががらりと開く。
パタパタと足音が聞こえたので、慌てて倉庫に隠れようとしたけど、アサヒはニコリと笑ってそのまま座っている。
私も座り直す。
女子生徒たちが、図書室の奥にやってきた。
「ねえねえ、見て! ほら、ココ、マンガとかいっぱいあるでしょ?」
「POPとか貼ってあって楽しいね」
「ほんとだー! 知らなかった。借りて行こっか?」
本棚の陰から姿を現したのは、三人の女子。クラスメイトだ。いつも明るく賑やかで、クラスのムードメーカーという存在。……要は私が苦手とする、というか怖く感じるタイプだ。
テーブルに座っている私に気づき、三人の視線が集まる。不思議とアサヒには目もくれない。
「あれっ、高峯さん?」
「……こんにちは……久しぶり」
「へー、クラスで見かけなかったけど、こんなところにいたんだ」
「うん……図書委員をやらせてもらっているの」
「ふーん、高峰さんって図書委員だったっけ?」
「……う、うん、最近委員にしてもらったの」
彼女たちの言葉に、嫌みとか、からかいみたいなのは感じられなかった。
「ココいいね! ワタシの好みの本が充実しているし、お勧めがわかりやすいし……なんか隠れ家みたいだし」
アサヒが手のひらを上に向け、『どうぞ』のポーズをとる。
「ほら、マドカ。今読んでいた、お勧めの本を紹介してやんなよ……キミは図書室の副委員長なんだし」
アサヒが私を見つめる。
その眼差しに促され、席を立ち、自分で注文した新刊本をみんなに案内した。
アサヒはテーブルから離れる。
席が四つでき、私とクラスメイトが腰かけた。
三人は遠慮することなく本を手にとりパラパラとページをめくりながら私に質問してきた。つっかえながらも説明をしていると、だんだんとみんなの好みもわかってきたので、書架に連れていって、目ぼしい本を紹介した。
いつの間にか、アサヒの姿は図書室にはなかった。
◯
それから、彼女らは三人で、時にはクラスの別の子も連れてやってきては本を借り、あのテーブルで感想を言いあったり、全然関係ない話をした。となりの男子校のイケメン話だったり、アイドルグループだったり。
「ねえ高峰さん……マドカちゃん。クラスにも、もっと来てみたら。こうやって話していると思ったよか、その大丈夫そうだし、それに何かあったらアタシたちがサポートするからさ」
ふと会話が途切れたときに仲良しグループメンバーの一人が私に提案してきた。他の子もうんうんとうなずいている。もちろん彼女たちは私が学校になかなか来れない、来ても教室に入れないという状況はわかているはずだ。
その日はアサヒも図書室に来ていて、少し離れた書架に寄りかかり、私たちの話を聞きながら、腕を組んでうんうんとうなずいていた。
そんな会話をした翌週。
少しだけ、風に涼しさが混ざるようになって。季節が変わりつつあることに気づく。
久しぶりに図書室の奥のテーブル席に座っているアサヒの姿があった。
熱心にラノベを読んでいて、私が近づいたのに気づかない。そのまま向かいの席に腰かける。
ようやく私の存在に気づいた彼女は本を開いたまま顔を上げ、やあ、と言って微笑んだ。
これからの会話、あまり面白いものになりそうにないな、と予感しつつ私は口を開く。
「最近、あまり図書室に来ないね」
「そうかな?」
「うるさくしちゃってごめんね……ここは図書室なのに。それにあなたの場所なのに」
「いやいや、図書委員長としては、利用してくれる人が増えるのは大変喜ばしいことだよ。それにココはボクの縄張りってわけでもないし」
「ひょっとして私に気を遣ってる?」
「ううん、全然」
「でも、目に見えてアサヒはここに来なくなった」
彼女は、開いている本のページに視線を落とした。
「ボクもそれなりに忙しいからね」
「嘘!」
思わずその言葉を口に出してしまった。
出したついでに、聞いてはいけない質問が口をつく。
「じゃあアサヒ、あなたはここにいないときって、いったいどこで何をしているの?」
彼女は、本のページを見つめたままだ。
バカだ。私は。
前にもこんな過ちを犯して、それで友達関係が悪化して学校に来れなくなったんだ。
「ごめん、今聞いたことは忘れて……答えなくていい」
彼女はじっと黙っている。
私の後悔の念はどんどん強くなる。
バタン。
急に大きな音がした。
アサヒが読んでいた本を閉じた音だ。
そして彼女はエヘヘと笑って口を開いた。
「ああ、この本も、さすがにもう飽きちゃったなあ」
「え?」
「もう繰り返し何度も何度も読んじゃったし」
そう言って本をテーブルの真ん中まで押した。
「よし、この物語はもう、おしまい!」
「え!?」
彼女が何を言いたいのかわからなかった。
「だからボクは図書室に来なくてもいいなって思っていたんだ」
「そ、そんな……」
「それにさ、マドカとこうしているのも、もういいかなあって」
今、何て言った?
「な、なんでそんなこと言うの?」
「なんかね、もういろいろ終わりでいいかなって考えている」
「ど、どういうこと?」
「図書委員長は、マドカに譲る。だから、クラスメイトが楽しく過ごせる場所にしてほしいな」
「そ、それなら、アサヒも一緒にやろうよ」
「いや、ボクには無理なんだ」
「……どうして?」
だめだ。
このまま会話を続けていくと、このまま質問を重ねていくと、終わってしまうんだ……アサヒと私の物語が。
うすうす感じる。彼女がわざとそう仕向けていることを。
でも、なぜ?
私は、この流れに乗っちゃいけないんだ。だから、口をつぐんだ。
「マドカ、君はいい方に向かっている。顔色がぜんぜんよくなったし、友達と話していても抵抗感はなさそうだし……だから、この部屋とうまく利用して、少しずつ教室にも行けるようになってほしい」
多分、それがアサヒの本当の気持ちなんだろう……でも。
私はもう一つだけ質問することにした。
「ありがとう、アサヒ。でもね、大事なことを脇に置いてない?」
「……なんだろう? それ」
そう言って彼女は物を自分の横に置くようなゼスチャーをしてみせた。
「わかってるでしょ?」
涙がこらえられなくなった。
「私の気持ち……それからアサヒ、あなたの気持ち」
涙をこぼす私のことをしばらく見つめていたが、アサヒは席を立ち、読んでいた本を書架に戻した。
そしてこう言った。
「ありがとう。君の気持ちはすごくうれしいよ……で、でも。ボクが君に感じている気持ちは、き、君のそれとは違うと思う」
アサヒはじゃあね、と言って図書室から出ていってしまった。
◯
秋のしっとりとした空気から、冷えて乾いたものに変わり、図書室独特の『バニリン』の匂いも薄れたような気がする。
私の学校生活の場は相変わらず図書室が中心だったけど、少しずつ教室で過ごせる時間が長くなってきた。
わかっていた。
いや、最初はよくわからなかった。
瀬川先生が言った、優しい嘘。
そして、アサヒがついた優しい嘘。
彼女の姿がここ、図書室から見えなくなって、ようやく気づいた。
◯
久しぶりに保健室を訪ねた。
こう間が空くと、ノックするのにも勇気がいる。
「はい、どうぞ」
ドアを開けた生徒が私であると確認して事務机に腰かけていた先生が立ち上がってメガネごしにニッコリと微笑んだ。
「久しぶりね、高峰さん……ちょっと寂しかったわ……あ、いけないいけない! 養護の教師がそんなこといっちゃダメよね。今のは聞かなかったことにして」
そう言いながらもちょっとおどけた口調だった。
「でもね、ほんと少し安心してる……て言っても、無理は禁物だからね。困ったらいつでも相談に来てね」
そう言って、席に座るように勧め、小さなペットボトルの水を二つクーラーから取り出し、一つを手渡してくれた。
「はい、ありがとうございます……なので相談に来ました」
「そう、体調はどんな感じ?」
私は両手で持っているペットボトルを見つめる。
たぶん先生はなんのためにここに来たのか、気づいているはずだ。
「アサヒ……大野朝陽さんとは、どうやっったら会えるんですか?」
瀬川先生は私の質問をうなずきながら聞き、ペットボトルの水を一口含んだ。
「そうよね。それ、聞きたいところよね」
「はい……でも、アサヒが何者なのかなんて聞きません。ただ……ただ会いたいだけです」
先生は、もう一口水を飲んだ。
「その気持ち、すごくわかるけど残念ながら、答えられないわ」
「どうしてですか? 答えちゃいけないことなんですか?」
「そうじゃなくてね、彼女気まぐれだから、会えるか会えないか、いつ会えるかなんて保証ができないの」
「……じゃあ、もう会えなってことも」
最悪、そういうこともあるのでは覚悟していたけど、それが現実味を帯びてくるとおびてくると、すごく恐い。
瀬川先生は私のとなりに来て背をなでてくれた。そしてささやく。
「多分だけどね、また会いにきてくれるんじゃないかな」
「……いいです。慰めていただかなくても」
「ううん、そうじゃなくてね」
そう言って先生は私の背から手を離し、事務机に向かった。一番上の引き出しから何かを取り出し、戻ってきた。
「まだ冬になる前、大野さんがここに来てね、『もしマドカがここに来たら渡してください』って預かったの……読んでみて」
先生がテーブルの上に置いたのは、薄いピンク色の表紙の大学ノートだった。
私はそのノートを受け取り、保健室を後にした。
廊下の隅にあるベンチに腰を下ろす。
膝の上には、先輩から託された薄いピンク色のキャンパスノート。
表紙をめくると、そこには見覚えのある、丸っこくて少し癖のある文字がびっしりと並んでいた。
インクの匂い。そして、微かにあの図書室のバニラの香りがした気がした。
『マドカへ。 直接言うと泣いちゃいそうだから、ここに書いておくね。
こないだは「飽きた」なんて言ってごめん。あれは嘘だ。
本当はね、マドカと一緒に過ごした放課後が、ボクの止まっていた時間の中で一番、眩しくて楽しかったんだ。
ずっとこのまま、キミと図書室で本を読んでいたかった。
でも、それじゃダメなんだ。ボクは、このままじゃ卒業できないから』
文字が、少しだけ滲んでいるように見えた。
『ボクには、やり残したことがあるんだ。
ボクはずっと本を「読む側」だった。この図書室にたくさんの物語を読んできた。
でもね、本当はずっと憧れていたんだ。
誰かが作った世界に逃げ込むんじゃなくて、ボク自身の手で、物語を創ってみたいって。 それも、たった一人で書く孤独な独白じゃなくて、友達と笑い合いながら紡ぐ、最高にハッピーな「共作」を。
だからね、マドカ、お願いがある。
ボクと一緒に、物語を作ってほしい』
私は息を飲む。
先輩の願い。それは、私たちがこれから紡ぐ「交換日記」のことだ。
『マドカ、キミの言葉で、このノートの続きを書いてくれ。
そして、書き終わったら体育館の更衣室のロッカーに隠してほしい。
きっとそこで、次の「主人公」が待っているから。
それともう一つ。アナログ派のボクが、頑張って用意したものがあるんだ。
インスタのアカウントを作ってみたんだよ(やり方は瀬川ちゃんに教わった!)。
ユーザーネームは、「 ××××××××××××××× 」。
さっき撮ったボクらの記念写真、そこにアップしてくれないかな?
「コラボコレクション」だっけ?――これも瀬川ちゃんのウケウリだけど――それでボクを招待してほしいんだ。
アルバムの名前は――「十四人の卒業アルバム」。
あ、ノートも書かれる物語のタイトルも同じ「十四人の卒業アルバム」だよ。
キミたち七人の女の子と、ボクたち七人。
合わせて十四人。
キミたちが三年生になって、このノートの物語と、そのアルバムが完成した時……「やり残したこと」は全部終わる。
そしたら、一緒に卒業式をしよう
待ってるよ。
ボクたちの物語が、ハッピーエンドになる日を。
元図書委員長のアサヒより』
読み終えた瞬間、視界が歪んだ。
ノートの上に、ぽつりと滴が落ちて、アサヒという文字を濡らす。
私は袖で乱暴に涙を拭うと、スマホを取り出した。
アサヒのユーザーネームを入力する。 画面の中に、まだ誰もいない、フォロワー0人のアカウントが現れた。
アイコンは、図書室の窓から見える、琥珀色の夕焼け空だった。
図書室で撮った、あの写真数枚を選択し、新しいコレクションを作り、コラボ招待を送った。
アサヒはこれを見てくれるのだろうか。
十四人の卒業アルバム。
その最初の1ページ目が、今、私の手で作られようとしている。
(第一話 了)



