亡国の悪役令嬢、呪われたショタ王子に拾われる

 数日間の馬車での移動を経て、ついにわたしたちはアドラ王国の王城に到着した。
 魔法を司る神にあやかりその名がつけられたアドラ王国は、別名『魔法大国』とも呼ばれている。
 母国エルゼアとはちがい、多くの国民が魔法を使えるという。
 エルゼア軍が苦戦を強いられた理由も魔法のせいだ。なにせ超遠距離からの魔法攻撃や広範囲の殲滅魔法を仕掛けてくるのだから、そんな国に喧嘩を売るほうがどうかしている。
 エルゼア国王は爆弾を手にしたことで、長年目の上のたんこぶだったアドラにやっと対抗できると思ってしまったのだろう。

 ゆっくりスピードを落とした馬車が止まった。
 ドアが開けられ、先に降りたシリウスが手を差し出してくる。
「ほら、降りるぞ」
 ぶっきらぼうな言い方だが、どうやらエスコートしてくれるらしい。
 もしも弟がいたらこんな感じなのだろうかと思いながら、わたしよりも小さな手を取った。
 
 眼前にそびえる白亜の城は、キラキラ輝いていて壮観だ。
 エルゼアの王城も荘厳だと思っていたけれど、大きさときらびやかさでは完全に劣る。
 ふと脳裏に浮かんだエルゼア王城が無惨に焼け落ちてゆく光景に胸が痛んだ。
「アドラのお城は、こんなにも輝いているのね……」
「結界が張ってあるんだ。エルゼアの爆弾でも破られはしない」
 城を見上げるわたしに、シリウスが得意げに説明する。
「なるほど」
 アドラ軍の守りは鉄壁だったというわけか。だから母国は負けたのだろう。

 門から建物へと続くアプローチに、ローブ姿の魔術師たちがいる。
 左右にずらりと並ぶ彼らの作った道を進んでいく間、シリウスはわたしの手を放そうとせずしっかり握ったままだった。
 まるで、自分の大切な客人であると態度で示すように。
 
 そのおかげか、罵詈雑言を浴びせられたり石を投げつけられたりするような過激な歓迎セレモニーはないようだ。
 いや、みんなわたしが誰だかわかっていないのかもしれない。
 わたしが敵国で爆弾を作っていたモナーク伯爵の娘だと知れば、こんなに穏やかな視線を向けられなどしないだろう。
 いくらアドラ側が勝利を収めたからといって、彼らの仲間や家族が爆弾で酷い目に遭っていてもおかしくない。

 わたしが複雑な胸中のまま城の中へ入ろうとした時だった。
「あなたがエルゼアの爆弾令嬢ね? 一度お会いしたいと思っていましたの!」
 甲高い声がした方向へ視線を走らせると、ピンク髪ツインテールに紫色の目、勝ち気な顔立ちのご令嬢がいる。
 年齢は、わたしよりも少し下だろうか。髪型やゴテゴテしたドレスが幼く見える。

「あいつをなんとかしろ」
 シリウスが舌打ちしながら後ろに控えるサミュエルへ指示を出す。
 しかしすでに遅かった。魔術師たちがザワつきはじめたのだ。

「爆弾令嬢ってことは、モナークの娘か!」
「シリウス様はなぜそんな女を……?」
 動揺した声が聞こえる。
 刺すような視線に変わった彼らに非はない。当然の態度だろう。
 
「ルルーニャ様、どうぞこちらへ」
 サミュエルが中へ入るようピンク髪少女を促す。
 彼女はしばしサミュエルを見上げたのち、腕を組んでふんぞり返った。
「嫌よ」
 名前を聞いてピンときた。彼女はアドラ国王の娘、つまりお姫様だ。
 弟のシリウスが、敵国からわたしを連れて帰ってくると聞いたのだろう。
 
 わたしを睨みつける彼女にカーテシーをする。
「ルルーニャ様、わたしは爆弾令嬢ではなく元伯爵令嬢のマリアですわ。歓迎されていないことは承知しております」
「わかっているなら、城の中に入ろうとするんじゃないわよ」

 ルルーニャの言い分はもっともだ。
 わたしだって、なぜこんなにも大勢の魔術師たちに見守られながら堂々と正面玄関から敵国の城へ入らなければならないのか、正直よくわからない。
 だから文句ならシリウスに言ってもらいたい。

 そのシリウスを見やると、眉根を寄せて憮然としている。
「ルルーニャ、いいかげんにしろ」
 姉を呼び捨て!?
 シリウスはギョッとしているわたしの手を引っ張り城の中へと入った。
 そのまま無言でズンズン歩き、階段を上り、渡り廊下を抜けたところにあるドアの前でようやく立ち止まった。