——五年後。竜の里にあるこぢんまりとした一軒家。
「こうしてシリウス王子は再び魔獣を封印し、若々しい姿のまま翼竜に乗って城へ帰還しました。今度こそアドラの王にと懇願されるも、またもや『玉座には興味がない』と皆に告げ、旅立っていきました。しかし、シリウス王子はひとりぼっちではありません。彼の隣には美しく勇ましい戦乙女がいたのです。ふたりはいまもどこかで旅を続けていることでしょう。めでたしめでたし」
わたしは本をパタンと閉じた。
ベッドの上で物語を聞いていた息子のアッシュは、いつのまにか眠ってしまったようだ。
父親譲りの柔らかいプラチナブロンドの髪をそっと撫でる。
三歳になったばかりのアッシュは、この里で生まれた。
キューちゃんの仲間を探し求めて竜の里へ辿り着いた時、里の人たちはわたしたちとキューちゃんの親密な関係を見て歓迎してくれた。
すでに身重だったわたしは里で出産し、そのままここに居ついている。
シリウスはいま、翼竜やその卵を狙う不届きな輩から里を守る仕事をしている。
山間にひっそり存在する、地図には記されていない秘境。
自然が溢れ、翼竜たちと共生する生活は、毎日とても刺激的で飽きない。
キューちゃんは仲間とすぐに打ち解け、元気に飛び回っている。アッシュとも本当の兄弟のように仲がいい。
アッシュがぐっすり眠っているのを確認して、わたしは静かに寝室を出る。
「またそれを読み聞かせていたのか」
ソファーに腰かけ剣を磨いていたシリウスが苦笑する。
自分のことが書かれている本は、さすがに恥ずかしいらしい。
わたしも『美しく勇ましい戦乙女』の部分を読む時だけは複雑な感情になるのだから、無理もないだろう。
昔から寝物語として人気の英雄王子の伝説に、第二章が加わった。
この新装版を、先日フランチェスカが送ってきてくれた。大陸中でベストセラーになっているという。
主人公が自分の父親だとアッシュが気づくのはいつだろうか。
フランチェスカとロミオの間にも、すでに子どもがふたりいる。
旧エルゼア領をしっかり導いているようだ。
「ルルーニャから手紙が届いたのよ」
今日届いたばかりの手紙を棚から取りだした。
「サミュエルがルルーニャの近衛に任命されたのですって!」
「それはサミュエルにとっては災難だな」
シリウスが肩を揺らして笑う。この人はやっぱり笑い上戸のままだ。
「そうかしら」
あの頃サミュエルには女っ気がまったくなかったし、いまだに独身だ。
わたしは、彼も意外とまんざらではないんじゃないかという気もしている。
明日ルルーニャに、引き続き応援していると返事を書こう。
ライアスはいまだにあきらめきれないらしく、アドラに戻ってほしいと要請する書簡が定期的に届く。
しかし、シリウスにはその気がないらしく固辞しつづけている。
「これからもこの里で暮らしたいわね」
「マリア、家族になってくれてありがとう」
シリウスの甘い微笑みに胸が熱くなる。
それはこっちのセリフだ。
戦争で父と兄を失い、天涯孤独になった。そんなわたしを拾ってくれたのがシリウスなのだから。
「それはわたしだって同じよ。ありがとうシリウス」
わたしはシリウスの隣に腰かけて、膨らんできたお腹を撫でた。
もうすぐ家族が増える予定だ。
「マリア、愛している」
「わたしも愛しています。これからもずっと」
わたしたちの唇がそっと重なった。
「こうしてシリウス王子は再び魔獣を封印し、若々しい姿のまま翼竜に乗って城へ帰還しました。今度こそアドラの王にと懇願されるも、またもや『玉座には興味がない』と皆に告げ、旅立っていきました。しかし、シリウス王子はひとりぼっちではありません。彼の隣には美しく勇ましい戦乙女がいたのです。ふたりはいまもどこかで旅を続けていることでしょう。めでたしめでたし」
わたしは本をパタンと閉じた。
ベッドの上で物語を聞いていた息子のアッシュは、いつのまにか眠ってしまったようだ。
父親譲りの柔らかいプラチナブロンドの髪をそっと撫でる。
三歳になったばかりのアッシュは、この里で生まれた。
キューちゃんの仲間を探し求めて竜の里へ辿り着いた時、里の人たちはわたしたちとキューちゃんの親密な関係を見て歓迎してくれた。
すでに身重だったわたしは里で出産し、そのままここに居ついている。
シリウスはいま、翼竜やその卵を狙う不届きな輩から里を守る仕事をしている。
山間にひっそり存在する、地図には記されていない秘境。
自然が溢れ、翼竜たちと共生する生活は、毎日とても刺激的で飽きない。
キューちゃんは仲間とすぐに打ち解け、元気に飛び回っている。アッシュとも本当の兄弟のように仲がいい。
アッシュがぐっすり眠っているのを確認して、わたしは静かに寝室を出る。
「またそれを読み聞かせていたのか」
ソファーに腰かけ剣を磨いていたシリウスが苦笑する。
自分のことが書かれている本は、さすがに恥ずかしいらしい。
わたしも『美しく勇ましい戦乙女』の部分を読む時だけは複雑な感情になるのだから、無理もないだろう。
昔から寝物語として人気の英雄王子の伝説に、第二章が加わった。
この新装版を、先日フランチェスカが送ってきてくれた。大陸中でベストセラーになっているという。
主人公が自分の父親だとアッシュが気づくのはいつだろうか。
フランチェスカとロミオの間にも、すでに子どもがふたりいる。
旧エルゼア領をしっかり導いているようだ。
「ルルーニャから手紙が届いたのよ」
今日届いたばかりの手紙を棚から取りだした。
「サミュエルがルルーニャの近衛に任命されたのですって!」
「それはサミュエルにとっては災難だな」
シリウスが肩を揺らして笑う。この人はやっぱり笑い上戸のままだ。
「そうかしら」
あの頃サミュエルには女っ気がまったくなかったし、いまだに独身だ。
わたしは、彼も意外とまんざらではないんじゃないかという気もしている。
明日ルルーニャに、引き続き応援していると返事を書こう。
ライアスはいまだにあきらめきれないらしく、アドラに戻ってほしいと要請する書簡が定期的に届く。
しかし、シリウスにはその気がないらしく固辞しつづけている。
「これからもこの里で暮らしたいわね」
「マリア、家族になってくれてありがとう」
シリウスの甘い微笑みに胸が熱くなる。
それはこっちのセリフだ。
戦争で父と兄を失い、天涯孤独になった。そんなわたしを拾ってくれたのがシリウスなのだから。
「それはわたしだって同じよ。ありがとうシリウス」
わたしはシリウスの隣に腰かけて、膨らんできたお腹を撫でた。
もうすぐ家族が増える予定だ。
「マリア、愛している」
「わたしも愛しています。これからもずっと」
わたしたちの唇がそっと重なった。



