亡国の悪役令嬢、呪われたショタ王子に拾われる

 運命のあの日。
 わたしは学校の中庭でロミオと鉢合わせた。こちらはひとり、彼の両脇には女子生徒がいる。
 ロミオはその女子生徒たちにいいところを見せてやろうと思ったのか、立ち止まってわたしを指さした。
『おまえみたいな爆弾令嬢のことなど、一生愛する気はないからな!』
 また始まった。いっそ無視してくれればいいのに、どうしていちいち突っかからすにはいられないのか。

 いつもは無表情で無言のまま踵を返すわたしがにんまり笑ったものだから、ロミオの表情が一瞬こわばった。
『まあ、ロミオ様。わたしは爆弾令嬢ではなく伯爵令嬢ですわ!』
 ポケットから破裂玉を取り出し、彼の足元の地面めがけて思い切り投げつけた。

 パーン!
 大きな破裂音が中庭に響き渡った。
 ロミオは、引き連れていた女子生徒とともに尻もちをつき青ざめている。
『な、な、なんてことを……!』
 ブルブル震えながらかろうじてそれだけ言った。
『命拾いしましたわね』
 わたしは長い巻き毛をバサッと後ろへ払い、実にすがすがしい気分で颯爽とその場を後にした。

 この時わたしは、爽快でやり切った気分だった。
 その後になにが待ち受けているか予想していたし、実家に多大な迷惑をかけるであろう覚悟もあった。
 しかし、それを上回る晴れやかさがあった。
『もっと早く、こうしておけばよかったんだわ』

 意気揚々と実家へ帰り、ロミオに破裂玉を投げつけてやったことを報告すると、兄は笑って称賛してくれた。
『よくやった! あいつのみっともない姿を見たかったな』
 父には微妙な顔をさせてしまったが、叱られはしなかった。

 殺傷能力がなかったとはいえロミオに火薬を投げつけたのだ。本来ならば、反逆罪や傷害罪に問われて即刻処刑されてもおかしくない。
 わたしがそうならなかったのは、国王がモナーク伯爵家の怒りを買うことを恐れて処分を保留したためだ。
 ロミオは「早く処刑しろ」と喚いていたようだが、国王が頑としてそれを了承せず、わたしは塔へ幽閉された。
 アドラ王国との戦況が悪化の一途をたどる中、爆弾の製造を一手に引き受けている我が家まで敵に回せばどうなるか、国王はわかっていたのだろう。

 モナーク伯爵家から勘当されたわたしだったが、幽閉中の待遇は悪くなかった。
 そして、幽閉から三日後に母国は敗戦した。
 貴族学校で、騎士科の生徒たちが順番に戦地へ送り込まれているのは知っていたのだが。
『実戦経験を積むためらしい』
 普通科のわたしたちは、国境地帯が焼け野原になり国が傾いているとは知らずに、呑気にそんな話をしていた。
『わたくし、婚約者の彼に無事を祈る刺しゅう入りのハンカチを渡しましたわ』
 危機感など持たず、むしろ喜色を浮かべて自慢げに語っていたあのご令嬢は、いまどうしているだろう。
 わたしだって、ロミオの態度が気に入らないからといって破裂玉で仕返ししている場合ではなかったのだ。
 その報いとして、わたしは大事な家族を失ったのだろう。
 
 馬車に揺られながら物思いに耽っていたわたしは、妙に静かだと思いながら視線をシリウスに戻した。
 さっきまで笑い転げていたはずなのに、声が聞こえない。
 シリウスは目をショボショボさせて居眠り寸前の様子だ。

 仕方ない、偉そうに振る舞っていても子どもだもの。
 と思っていたら、サミュエルがシリウスの肩を揺さぶった。
「シリウス様、目をお覚ましください」

 シリウスがハッとした様子で姿勢を正した。
 寝かせてあげればいいのにと思ったが、わたしがなにか言える立場ではないこともわかっている。
 お昼寝したら夜眠れなくなるからってやつかしら……? やっぱり子どもね。
 笑いをこらえるわたしの目の前で、シリウスは両腕を上に伸ばしあくびをしていた。