翼竜に乗って帰還したわたしたちに、アドラ王城は騒然となった。
王城を守る結界は、魔獣の侵入も許さないらしい。それを翼竜が安々と突破したのだから、慌てるのも当然だろう。
キューちゃんが結界内に入れたのは、もちろんシリウスのおかげだ。
呪いが解けた彼は、有能な魔術師としての力も取り戻した。
「こんな結界ぐらい、どうってことない」
涼しい顔で指をパチンと鳴らしただけで通り抜けた。
王城の広い庭園に着地すると、騎士や魔術師たちが臨戦態勢で駆け寄ってくる。
しかし翼竜の背に乗るシリウスを見て、騎士団長と魔術師長が慌てて止めに入った。
このふたりは、シリウスの正体を知っているようだ。
わたしたちがキューちゃんから下りる様子を、一同が唖然として眺めている。
遅れてライアスとルルーニャも庭園へ出てきた。
「マリア! あなたの活躍は魔法書簡で報告を受けているよ。シリウス兄様の解呪も魔獣のことも、我が国のために尽力してくれてありがとう」
ライアスが笑顔でわたしの手を握る。
「ライアス殿下こそ、火薬を守る約束を果たしていただきありがとうございました」
爆竹を執務室に隠しながら作らせたと聞いている。
万が一の火薬への引火を考えると、なかなかできる決断ではない。頼りない人だと思っていた偏見を撤回せねばならない。
ここで突然、シリウスがわたしたちの間に割って入った。
「俺のマリアに気安く触るな」
憮然とするシリウスを見て、ライアスがにやりと笑う。
「兄様、悋気の強い男は嫌われますよ」
「だから、その気持ち悪い呼び方をやめろ」
ひとしきり笑ったところで、シリウスがスッと表情を引き締めた。
「さてと、おまえの両親を呼んでこい。渋るようなら、翼竜を連れてこっちから挨拶しに行ってやってもいい」
ライアスに伴われて渋々といった様子で出てきた国王夫妻は、苦虫をかみつぶしたような顔をしている。
国王の白髪交じりのハニーブロンドと紫の目、王妃のストロベリーブロンドと青い目は、まさにライアスとルルーニャの両親であると納得の容姿だ。
「シリウス、このたびはご苦労であった。しかし、これはちとやりすぎではないのか」
国王の言葉に王妃も頷いた。
「そもそもあなたには、討伐の命を下していないはずです」
澄ました声が響く。
シリウスが前へ出た。琥珀色の目は、しっかりふたりを見据えている。
「王室の一員として、アドラ王室が魔獣の封印を解き放った責任の尻拭いをしてあげたのですよ。森を焼くような無粋な命令など出さずにスマートにね」
王妃の綺麗な顔が歪むのもおかまいなしに、シリウスは続ける。
「それに、俺は封印完了の報告をしにここへ戻ったわけではありません。シリウス・プルデンシオ・アドラから王位を簒奪し、その罪を隠しつづけた血筋へ仕返しをしにきたんですから」
国王夫妻の顔が同時に引きつった。
周りでは騎士や魔術師が、どういうことだと顔を見合わせている。
「わ、わかった。なにか誤解があるようだ。中で話そうではないか」
途端に国王の声色がおもねるようなものへ変わる。
「いいえ、この場で結構です」
口角を上げたシリウスが胸ポケットからなにかを取りだした。
親指と人差し指で摘まんでいるのは、赤いに紙で包まれた小さな玉。
わたしがここを発つ前に作り、サミュエルに渡しておいたものだ。
シリウスが元の姿に戻ったら、すぐにでも使うだろうと思っていたのだが……。
鉱山内からの脱出の途中、キューちゃんの背中で思いもよらぬことを聞いた。
『まだ使ってないの?』
『ああ。マリアも見たいかと思って』
『やだ……いいこと言うじゃない!』
というわけで、この破裂玉で仕返しをするためにわたしたちは戻ってきたのだ。
シリウスが腕を振り上げ、破裂玉を石畳に叩きつけた。
パーン!と、耳をつんざく派手な音がした。
「ひいっ……!」
国王夫婦がそろって腰を抜かして尻もちをつく。
ロミオの時と同じ反応だ。
本来、国の要人はあらゆる攻撃から身を守るための魔装具を身につけていることが多い。だからそう簡単には傷つけられたりしないのだ。
しかし——これはただ大きな音が鳴っただけ。攻撃ではない。
「あははっ、最高だ」
シリウスがお腹を抱えて笑いだした。
まるでイタズラが大成功した少年のようだ。
「無礼者! 早くこやつを捕らえよ!」
「こんな乱暴な男、英雄を騙る偽物だわっ!」
みっともない姿を晒したまま、国王夫婦は屈辱に声を震わせてシリウスを指さす。
しかし、誰も動こうとはしない。
目じりに滲んだ涙を指で拭い笑いを引っ込めたシリウスが、ふたりへ近づく。
「ひっ!」
さらになにかされると思ったのか、国王夫婦はほうほうの体で逃げようとする。
ところがシリウスがふたりへ差し出したのは、一枚の書簡だった。
「ここに押してある御璽は、本来第七十一代アドラ国王になるはずだった俺専用に作らせたものです。俺が本物であるなによりの証明になると思いますが?」
国王が手を震わせながら書簡を受け取る。
そこには現在の王家がシリウスの名誉を傷つけつづけた事実が記されている。
さらにはこの書簡の永久保存を求め、もしも今後再び危害を加えようとした場合は容赦しないといった内容が盛り込まれているらしい。
「大人に戻ったシリウスを敵に回すと怖いわね」
わたしは思わず独り言ちた。
「どうぞ俺のことは国外追放にでもなんでもしてください。どうせここへは二度と戻るつもりもありませんので」
こちらを振り返ったシリウスがドヤ顔でやってくる。
スカッとしたのはたしかだ。でも……。
「なんだか、ものすごく悪役じみてるわよ?」
するとシリウスは、まるで褒められでもしたかのように笑った。
「お気に召しましたか?」
シリウスが胸に手を当て気取った仕草で言うものだから、わたしも髪をバサッと払って顎をツンと上げた。
「ええ。爆弾令嬢の恋人として、あなたほどふさわしい人はいないわね」
ふたりで額を寄せ合ってクスクス笑った。
王城を守る結界は、魔獣の侵入も許さないらしい。それを翼竜が安々と突破したのだから、慌てるのも当然だろう。
キューちゃんが結界内に入れたのは、もちろんシリウスのおかげだ。
呪いが解けた彼は、有能な魔術師としての力も取り戻した。
「こんな結界ぐらい、どうってことない」
涼しい顔で指をパチンと鳴らしただけで通り抜けた。
王城の広い庭園に着地すると、騎士や魔術師たちが臨戦態勢で駆け寄ってくる。
しかし翼竜の背に乗るシリウスを見て、騎士団長と魔術師長が慌てて止めに入った。
このふたりは、シリウスの正体を知っているようだ。
わたしたちがキューちゃんから下りる様子を、一同が唖然として眺めている。
遅れてライアスとルルーニャも庭園へ出てきた。
「マリア! あなたの活躍は魔法書簡で報告を受けているよ。シリウス兄様の解呪も魔獣のことも、我が国のために尽力してくれてありがとう」
ライアスが笑顔でわたしの手を握る。
「ライアス殿下こそ、火薬を守る約束を果たしていただきありがとうございました」
爆竹を執務室に隠しながら作らせたと聞いている。
万が一の火薬への引火を考えると、なかなかできる決断ではない。頼りない人だと思っていた偏見を撤回せねばならない。
ここで突然、シリウスがわたしたちの間に割って入った。
「俺のマリアに気安く触るな」
憮然とするシリウスを見て、ライアスがにやりと笑う。
「兄様、悋気の強い男は嫌われますよ」
「だから、その気持ち悪い呼び方をやめろ」
ひとしきり笑ったところで、シリウスがスッと表情を引き締めた。
「さてと、おまえの両親を呼んでこい。渋るようなら、翼竜を連れてこっちから挨拶しに行ってやってもいい」
ライアスに伴われて渋々といった様子で出てきた国王夫妻は、苦虫をかみつぶしたような顔をしている。
国王の白髪交じりのハニーブロンドと紫の目、王妃のストロベリーブロンドと青い目は、まさにライアスとルルーニャの両親であると納得の容姿だ。
「シリウス、このたびはご苦労であった。しかし、これはちとやりすぎではないのか」
国王の言葉に王妃も頷いた。
「そもそもあなたには、討伐の命を下していないはずです」
澄ました声が響く。
シリウスが前へ出た。琥珀色の目は、しっかりふたりを見据えている。
「王室の一員として、アドラ王室が魔獣の封印を解き放った責任の尻拭いをしてあげたのですよ。森を焼くような無粋な命令など出さずにスマートにね」
王妃の綺麗な顔が歪むのもおかまいなしに、シリウスは続ける。
「それに、俺は封印完了の報告をしにここへ戻ったわけではありません。シリウス・プルデンシオ・アドラから王位を簒奪し、その罪を隠しつづけた血筋へ仕返しをしにきたんですから」
国王夫妻の顔が同時に引きつった。
周りでは騎士や魔術師が、どういうことだと顔を見合わせている。
「わ、わかった。なにか誤解があるようだ。中で話そうではないか」
途端に国王の声色がおもねるようなものへ変わる。
「いいえ、この場で結構です」
口角を上げたシリウスが胸ポケットからなにかを取りだした。
親指と人差し指で摘まんでいるのは、赤いに紙で包まれた小さな玉。
わたしがここを発つ前に作り、サミュエルに渡しておいたものだ。
シリウスが元の姿に戻ったら、すぐにでも使うだろうと思っていたのだが……。
鉱山内からの脱出の途中、キューちゃんの背中で思いもよらぬことを聞いた。
『まだ使ってないの?』
『ああ。マリアも見たいかと思って』
『やだ……いいこと言うじゃない!』
というわけで、この破裂玉で仕返しをするためにわたしたちは戻ってきたのだ。
シリウスが腕を振り上げ、破裂玉を石畳に叩きつけた。
パーン!と、耳をつんざく派手な音がした。
「ひいっ……!」
国王夫婦がそろって腰を抜かして尻もちをつく。
ロミオの時と同じ反応だ。
本来、国の要人はあらゆる攻撃から身を守るための魔装具を身につけていることが多い。だからそう簡単には傷つけられたりしないのだ。
しかし——これはただ大きな音が鳴っただけ。攻撃ではない。
「あははっ、最高だ」
シリウスがお腹を抱えて笑いだした。
まるでイタズラが大成功した少年のようだ。
「無礼者! 早くこやつを捕らえよ!」
「こんな乱暴な男、英雄を騙る偽物だわっ!」
みっともない姿を晒したまま、国王夫婦は屈辱に声を震わせてシリウスを指さす。
しかし、誰も動こうとはしない。
目じりに滲んだ涙を指で拭い笑いを引っ込めたシリウスが、ふたりへ近づく。
「ひっ!」
さらになにかされると思ったのか、国王夫婦はほうほうの体で逃げようとする。
ところがシリウスがふたりへ差し出したのは、一枚の書簡だった。
「ここに押してある御璽は、本来第七十一代アドラ国王になるはずだった俺専用に作らせたものです。俺が本物であるなによりの証明になると思いますが?」
国王が手を震わせながら書簡を受け取る。
そこには現在の王家がシリウスの名誉を傷つけつづけた事実が記されている。
さらにはこの書簡の永久保存を求め、もしも今後再び危害を加えようとした場合は容赦しないといった内容が盛り込まれているらしい。
「大人に戻ったシリウスを敵に回すと怖いわね」
わたしは思わず独り言ちた。
「どうぞ俺のことは国外追放にでもなんでもしてください。どうせここへは二度と戻るつもりもありませんので」
こちらを振り返ったシリウスがドヤ顔でやってくる。
スカッとしたのはたしかだ。でも……。
「なんだか、ものすごく悪役じみてるわよ?」
するとシリウスは、まるで褒められでもしたかのように笑った。
「お気に召しましたか?」
シリウスが胸に手を当て気取った仕草で言うものだから、わたしも髪をバサッと払って顎をツンと上げた。
「ええ。爆弾令嬢の恋人として、あなたほどふさわしい人はいないわね」
ふたりで額を寄せ合ってクスクス笑った。



