亡国の悪役令嬢、呪われたショタ王子に拾われる

「申し訳ございません。私の人選ミスでした」
 隊長が深々と頭を下げる。

 ユザックの断罪や王妃への報復は後回しでいい。
 シリウスがここへやってきた目的は、マリアとともに魔獣を封印しなおすことなのだから。

 次にシリウスが瞼を開いた時、その目から怒りや憂いは消えていた。

「王妃は見かけによらず老獪だ。誰を選んでいても、愛国心やら家族愛やらにつけこんで上手く操ろうとしたはずだ。おまえはそうならないでくれ、信用している」
 だから気に病むなと、シリウスは隊長の肩に手を置いた。
「マリアは二階から飛び降りたって死なないって言っていたから、きっと生きている」

 ただの願望ではない。
 待っていると言い残したマリアが、こんなことで命を落とすとはどうしても思えない。
 
「どのあたりで落ちたのか地図を見せてくれないか」
 シリウスに促された隊長は、テーブルに地図を広げた。
「我々は最短距離で門を目指していました。印をつけている箇所にランタンを設置しています」
 隊長がルートを指さしながら説明していく。

「この地図には高低差が記されていないため、現地に着くまでここに深い縦穴があると気づきませんでした」

 隊長の指先を見つめていたシリウスは、過去の記憶を手繰り寄せてふむ、と頷いた。
「この細道の先は行き止まりだから、引き返して正解だったな」
「地図上ではここが門への最短ルートのように見えますが……?」

 シリウスが地図から顔を上げる。
「最短ルートは、この縦穴のほうだ。つまり、マリアはいまごろ門に辿り着いているかもしれない」

 そこからのシリウスの行動は早かった。
「サミュエルはここに残れ。俺はマリアを迎えにいく」
「いや、しかし……」
 腰にランタンと長剣を携え、たったひとりで鉱山へ入ると言うシリウスを、サミュエルは引き留めようとする。

「私もお供いたします!」
 シリウスは、食い下がるサミュエルへ向かって苦笑した。
「大柄のおまえを、あいつに運ばせるのは酷だ」
「あいつ、とは……?」

 シリウスはその問いに答えず、鉱山の入り口で指笛を吹いた。
 ピイィィィッ!という甲高い音が洞穴に吸い込まれていく。
 
 ほどなくして、ぬうっと顔を出した翼竜を見て皆が泡を食って武器をかまえようとした。
 それをシリウスは手で制す。
「俺の友人だ。手荒な真似はやめてくれ」

「キュウウン!」
 翼竜が甘えた様子でシリウスの顔を舐める。
「待たせたな。随分大きくなったじゃないか」
「キュウ!」

 隊員たちもサミュエルも、眼前で繰り広げられている光景が信じられないとでもいわんばかりの顔で茫然としている。

 シリウスは翼竜の首をやさしく撫でた。
「なあ、マリアを知らないか?」
 すると、翼竜がからかうように鼻でシリウスの胸を小突く。
「キュウ~!」
 シリウスは、この反応から翼竜がマリアに会っていると確信を得た。

「俺をマリアのもとへ連れていってくれないか」
「キュッ!」
 もちろんだとでも言いたげに翼竜が胸を張る。
 シリウスはその背中に飛び乗った。

「そういうわけだから、行ってくる」
 サミュエルに一瞥をくれて、シリウスと翼竜は鉱山の中へと消えていく。
 その姿はまさに、伝説の英雄王子そのものだった。