亡国の悪役令嬢、呪われたショタ王子に拾われる

 夜が明けきらぬ早朝の時間帯を選んだのが幸いしたのか、なにごともなく無事に地下牢へ到着した。
 ライアスが、息を切らすシリウスとサミュエルを出迎える。
「随分ドタバタ走ってきましたね。バレますよ?」
「どうだっていい、早速やるぞ」

 シリウスは爆竹を抱えたまま、片手でライアスの胸を押す。
「俺に近づくな、下がっていろ」
 声も表情も硬い。

 おまえは信用ならないと言われたも同然のライアスが苦笑して肩をすくめる。
「神に誓って邪魔立てなどしません。シリウス兄様の解呪の瞬間を見届けさせてください」
「気持ち悪い呼び方をするな」
 シリウスがフンッと鼻を鳴らした。
 
 いま、この地下牢には誰も収監されていないという。
 ちょうどよかった。マリアはそれをもわかった上で、この場所を指定したのだろうか。
「マリア、待っていてくれ」

 サミュエルが牢屋の格子戸に爆竹を引っかけて、竹筒が重ならないように伸ばしていく。
 そのすぐそばにシリウスが立った。

「マリア様が、途切れず鳴り続けるよう導火線の間隔を指南してくださいました」
 同時に破裂すればその分爆発音が響く時間が短くなる。
 それでは単発の爆弾や雷と同じで、呪いの腕輪は一瞬緩んだだけで元に戻ってしまうだろう。

 準備を終えたところで、サミュエルが耳栓を配る。
 これもマリアの指示だという。
 三人とも耳栓も装着したところで、サムアップして頷き合う。

 サミュエルが火をつけて数歩下がった。
 導火線を伝いながら火が最初の爆竹へと向かっていく。
 次の瞬間、バンッ!という強烈な破裂音が狭い地下牢に響き渡った。

 ついでバン、バン、バンッ!と連続で竹筒が破裂していく。
 耳栓をしていても尚、そのすさまじい音にうずくまって両手で耳を塞ぎたくなる。
 ライアスに至っては、破裂のたびに両肩を跳ねさせている。

 白い煙がシリウスの小さな体を包んでいく。
 右手を上げると、腕輪が徐々に解けていくのがハッキリわかった。

「もう少しだ……!」
 シリウスは残りの爆竹を確認した。半分を過ぎたあたりだろうか。
 拳を強く握り、間に合ってくれと藁にもすがる思いで祈る。

 予想を遥かに上回る派手な音と、白く立ち込める煙。
 最後の竹筒が爆ぜ、煙が徐々に消えてゆく中、そこに立っていたのは精悍な体躯の美丈夫。
 かつて英雄王子と呼ばれたシリウス本来の姿だった。
 足元には、金細工の腕輪が落ちている。

 三人同時に耳栓を外して、ふうっと息をついた。
「サミュエル」
 耳慣れない低い声で呼ばれて、サミュエルの反応が少々遅れた。
 眠っている大人の姿ならいつも見ていたが、声を聞くのは初めてだ。

「シリウス殿下、解呪おめでとうございます」
 サミュエルが慌てて跪いた。
 その横をすり抜けて、ライアスがシリウスに抱きつく。
「兄様!」
「やめろ、気持ち悪い」
 離れろと言われても、目じりに涙を浮かべたライアスはなかなか離れようとしなかった。

「それにしても、なんとも心臓に悪い音でしたね……」
 ライアスは胸のあたりをさすりながら、爆竹の残骸をしげしげと眺める。

「あいつ、こんな物騒な爆発物の作り方を知っているくせに、火薬の製法は知らないって本当か?」
「そこがいかにもマリア様らしいではないですか」
 サミュエルの言葉に、シリウスはお日様のような底なしに明るいマリアの笑顔を思い浮かべた。
「たしかにそうだな」

 早くマリアに会いたい。
 シリウスは魔石鉱山へ思いを馳せた。