ケガ人や疲労が激しい隊員は休ませメンバーを入れ替えていく交代制で、すこしずつ作業を進めていった。
わたしは四日連続で鉱山に入っている。気力も体力もまだまだ十分にある。
順調に進んでいるが、問題は地図と実際の洞穴の形状が異なる箇所が増えたことだ。
「気をつけろ。ここから先は足場が狭いぞ」
最短ルートを選択していった結果、おかしな場所に出てしまった。
大人の男ひとりが通れるぐらいの道幅で、左側には深い穴が空いている。当然、柵などない。
腰につるしたランタンを掲げて照らしてみても底が見えない。
ぽっかり空いた真っ暗闇の空間からは、ヒュウヒュウ不気味な音が聞こえる。
風が吹き抜ける音なのか、それとも魔獣の息遣いなのか。
落ちたらひとたまりもないだろう。
それだけではない。
こんな狭い道で魔獣に襲われたらどうなるか——わたしは、怖気づきそうになる弱気な心を砕くように奥歯を強く噛みしめた。
「この先がどうなっているか見てくる」
ひとりで様子を見にいった隊長が、血相を変えて戻ってきた。
「すまない、コウモリの巣を刺激した!」
奥からギィギィ嫌な鳴き声が聞こえる。
「引き返せ! 前方の横穴へ退避だ!」
あっという間に追いついてきたコウモリを切りつけながら、わたしも横穴へ向かう。
撤退先の横穴でもすでにコウモリとの応戦が始まっている。
もう少しで辿り着く——と思った瞬間、後ろから髪をグイッと引っ張られた。
「ひゃっ!」
この任務中、わたしは自慢の縦カールを封印し、後ろでひとつにまとめて三つ編みにしている。
それをロープかなにかと勘違いされたのかもしれない。
「ちょっと……!」
振り返ったわたしが見たのは、人の髪を掴んでしまったという驚きや焦りの表情ではなかった。
若い騎士の暗く冷たい目つき。そこには明確な殺意が宿っている。
髪を掴まれてそのまま空洞へ落とされる!
どういう行動をとるべきかと考えるより先に体が動いた。
わたしの三つ編みを握っている手を両手で掴み、体をひねって反転させる。
「ぐっ……!」
腕をねじり上げられた形になった相手が、鈍いうめき声をあげてよろめいた。
わたしはすかさず相手を押し倒し、馬乗りになって喉元に短剣を突き付ける。
「どういうつもり?」
ユザックという名の騎士だったと記憶している。
ずっとわたしを遠巻きに睨んでいたひとりで、直接言葉を交わしたことはない。
鉱山作業の初日に、混戦の中で体当たりをしてきたのも彼だった。
あれも偶然を装った意図的な行動だったのだろう。
ユザックはなにも答えない。
わたしに個人的な恨みがあるのか、それとも背後に糸を引いている人物がいるのか。
心当たりが多すぎて正解を導き出せないし、そんな答え合わせに興味はない。
「どうした?」
背後から隊長の声がした。
「ユザックがわたしを穴に落とそうとしました」
隊長がひゅっと喉を鳴らす。
「なぜ……」
ここで、タタタッという軽快な足音が聞こえて、わたしたちは振り返った。
赤い目のなにかが猛スピードで迫ってくる。
「危ないっ!」
狼タイプの魔獣が跳躍して副隊長の首筋に食いつこうとする直前、わたしはその額を短剣で貫いた。
「すまない。助かった」
隊長が青ざめる。
ここで揉めている場合ではない。早く撤退しなければ、どんどん魔獣が集まってくるかもしれない。
「早く行きましょう」
倒れた狼から短剣を引き抜こうとした時、足に強い衝撃を感じた。
穴に向かって体があおむけに投げ出されてはじめて、ユザックに足を蹴られたのだとわかった。
ああ、なんたる不覚!
暗闇へ吸い込まれるように落ちていく。
「マリア!!」
最後に見えたのは、わたしの名を叫ぶ隊長とその横でにやりと笑うユザックの不気味な顔だった。
わたしは四日連続で鉱山に入っている。気力も体力もまだまだ十分にある。
順調に進んでいるが、問題は地図と実際の洞穴の形状が異なる箇所が増えたことだ。
「気をつけろ。ここから先は足場が狭いぞ」
最短ルートを選択していった結果、おかしな場所に出てしまった。
大人の男ひとりが通れるぐらいの道幅で、左側には深い穴が空いている。当然、柵などない。
腰につるしたランタンを掲げて照らしてみても底が見えない。
ぽっかり空いた真っ暗闇の空間からは、ヒュウヒュウ不気味な音が聞こえる。
風が吹き抜ける音なのか、それとも魔獣の息遣いなのか。
落ちたらひとたまりもないだろう。
それだけではない。
こんな狭い道で魔獣に襲われたらどうなるか——わたしは、怖気づきそうになる弱気な心を砕くように奥歯を強く噛みしめた。
「この先がどうなっているか見てくる」
ひとりで様子を見にいった隊長が、血相を変えて戻ってきた。
「すまない、コウモリの巣を刺激した!」
奥からギィギィ嫌な鳴き声が聞こえる。
「引き返せ! 前方の横穴へ退避だ!」
あっという間に追いついてきたコウモリを切りつけながら、わたしも横穴へ向かう。
撤退先の横穴でもすでにコウモリとの応戦が始まっている。
もう少しで辿り着く——と思った瞬間、後ろから髪をグイッと引っ張られた。
「ひゃっ!」
この任務中、わたしは自慢の縦カールを封印し、後ろでひとつにまとめて三つ編みにしている。
それをロープかなにかと勘違いされたのかもしれない。
「ちょっと……!」
振り返ったわたしが見たのは、人の髪を掴んでしまったという驚きや焦りの表情ではなかった。
若い騎士の暗く冷たい目つき。そこには明確な殺意が宿っている。
髪を掴まれてそのまま空洞へ落とされる!
どういう行動をとるべきかと考えるより先に体が動いた。
わたしの三つ編みを握っている手を両手で掴み、体をひねって反転させる。
「ぐっ……!」
腕をねじり上げられた形になった相手が、鈍いうめき声をあげてよろめいた。
わたしはすかさず相手を押し倒し、馬乗りになって喉元に短剣を突き付ける。
「どういうつもり?」
ユザックという名の騎士だったと記憶している。
ずっとわたしを遠巻きに睨んでいたひとりで、直接言葉を交わしたことはない。
鉱山作業の初日に、混戦の中で体当たりをしてきたのも彼だった。
あれも偶然を装った意図的な行動だったのだろう。
ユザックはなにも答えない。
わたしに個人的な恨みがあるのか、それとも背後に糸を引いている人物がいるのか。
心当たりが多すぎて正解を導き出せないし、そんな答え合わせに興味はない。
「どうした?」
背後から隊長の声がした。
「ユザックがわたしを穴に落とそうとしました」
隊長がひゅっと喉を鳴らす。
「なぜ……」
ここで、タタタッという軽快な足音が聞こえて、わたしたちは振り返った。
赤い目のなにかが猛スピードで迫ってくる。
「危ないっ!」
狼タイプの魔獣が跳躍して副隊長の首筋に食いつこうとする直前、わたしはその額を短剣で貫いた。
「すまない。助かった」
隊長が青ざめる。
ここで揉めている場合ではない。早く撤退しなければ、どんどん魔獣が集まってくるかもしれない。
「早く行きましょう」
倒れた狼から短剣を引き抜こうとした時、足に強い衝撃を感じた。
穴に向かって体があおむけに投げ出されてはじめて、ユザックに足を蹴られたのだとわかった。
ああ、なんたる不覚!
暗闇へ吸い込まれるように落ちていく。
「マリア!!」
最後に見えたのは、わたしの名を叫ぶ隊長とその横でにやりと笑うユザックの不気味な顔だった。



