亡国の悪役令嬢、呪われたショタ王子に拾われる

 ぐっすり眠って体力を回復させた翌朝、わたしたち援軍部隊はさっそく魔石鉱山の中へと入ることとなった。

 ロミオ率いる旧エルゼアの部隊は、魔石鉱山から出てくる魔獣を狩るのが中心だったという。
 それだけでも毎日、時間帯に関係なく断続的に鉱山の外へ出てくる魔獣がいるらしい。

 出てくる魔獣を迎え討つだけでは埒が明かない。
 魔獣の出口となっている門を閉じ、封印しなおすのが我々の部隊の目標だ。
 鉱山内がいまどうなっているのかは未知数。ヘタすると、大量の魔獣たちが所狭しと蠢ているかもしれない。

「ここからは接近戦を強いられる。味方同士で傷つけ合わないよう心がけてくれ。繰り返すが、くれぐれも魔法は使わないように」
「はい!」
 隊長の指示にみんなが気合いのこもった返事をする。

 狭くて暗い坑道では、わたしの得意な弓はもう使えないだろう。
 長剣や槍を振り回すのも危険だ。
 わたしは武器を短剣に持ち替えた。

「任せてちょうだい。接近戦も得意よ!」
 なんなら素手で魔核を抉り出してやる。
 わたしも気合十分で鉱山内に足を踏み入れた。

 ひんやりした空気が頬を撫でる。奥からは魔獣の唸り声のような音も聞こえてくる。
 各自、携帯用の小さなランタンを腰にぶら下げているが、お世辞にも視界が良好とは言えない。
 
 鉱山内部の詳しい地図を受け取ったらしく、目指す方向ならわかっている。
 まずやるべきは、洞穴内を明るくすること。暗闇のままでは戦えない。
 立入禁止区域だった洞穴側は、ランタンが設置されていない。
 わたしたちは岩肌に杭を打ち込み、そこへランタンを引っかけていく。

 バリケードらしき場所まで辿り着いた。
 木製の柵が燃やされたように黒く焦げて焼け落ちている。
 予想通り、魔法の炎で焼いたのだろう。

 ここから先の地図も一応あるものの、長年確認すらしていなかったため、どうなっているかわからないという。
「最短ルートで門を目指そうと思う。警戒を怠るな」
 隊長の説明に頷いた。
 洞穴は一本道ではなく、横穴もたくさんある。
 その中で、最短ルートを見定めてランタンを設置していくようだ。

「来たぞ!」
 作業中、鋭い声に振り返ると、通路を埋め尽くすような巨大な影が前方から出てくるところだった。
 わたしたちは手を止めて武器をかまえる。
 
「落ち着け、額だ!」
「よし、仕留めた。早く魔核を……」
 わたしの立つ位置からは離れているためよく見えないが、やり取りから察するにあっさり終わったらしい。

 魔獣が単体なら、遠慮なく戦えるように離れておいたほうがいいかもしれない。
 そう思いながら短剣をしまおうとした時だった。
 左側からカサカサとなにかが動くような音が聞こえた。

「横穴に警戒して!」
 わたしの声に、緊張を解きかけていた隊員たちが再び武器をかまえる。
 間髪を入れずに横穴から大きなクモ型の魔獣が飛び出してきた。
 一体ではなく数体、続々と現れる。
 
「糸に足を取られるな。腹を狙え!」
「まだ出てくるぞ!」

 怒号が響き渡る中、わたしも狙いすました一撃でクモを仕留める。
 しかし、腹に刺した短剣を抜き魔核を取り出そうと体を屈めた時、横から体当たりをくらってよろめいた。
「おっと!」
 クモかと思ったら隊員だった。
 さらには、頭の上をヒュン!と刃先がかすめていく。

 危険すぎるわ!

 案の定、この混戦でケガ人が出た。
 血の匂いを漂わせると魔獣を呼び寄せてしまう。
 隊員たちの安全を最優先して、この日はこれで撤退となった。

 バリケードの少し先までランタンを設置できた。
 それが計画通りなのか、進捗が遅れているのかすらよくわからない。
 魔獣を警戒しつつ作業をし、視界が悪い中で安全を確保しながら戦わねばならない緊張感と疲労の蓄積は、我々の予想以上に過酷なものだった。