亡国の悪役令嬢、呪われたショタ王子に拾われる

 国境を越えると魔石鉱山が見えてきた。
 魔石鉱山は山岳地帯の端にある大きな岩山だ。
 黒い山肌をむき出しにした鉱山に近づくにつれ、生々しい戦闘の痕が散見されるようになった。
 真新しい焼け焦げたような痕跡があり、鼻を突くひどく嫌な匂いもする。

 夕方、ようやく前方に数張りの野営テントが見えた。
 その前に立っていた騎士がこちらに気づいて駆け寄ってくる。
 疲弊の色の濃い顔がパッと明るくなった。
「援軍のみなさんですね。お待ちしておりました!」
 隊長が簡単な挨拶を交わす。
「さっそく、そちらの指揮官と話がしたい」

 一番大きな野営テントから出てきたのはロミオだった。
 松葉杖をついていて、ライトブラウンの髪の女性に支えられている。ロミオの新たな婚約者となったフランチェスカだ。

「お待ちしてました」
「ロミオ総督みずから指揮を執っておられましたか」
 
 隊長と笑顔で握手を交わしていたロミオが、後ろに控える隊員たちへ視線を走らせた。
 わたしと目が合うと、二度見した後「ヒッ!」と小さく喉を鳴らす。
 また投げ飛ばされるとでも思ったのだろうか。
 後ずさろうとしてよろめいたロミオを、フランチェスカが献身的に支えた。

 野営テントを割り当てられたわたしたちは、中で休むこととなった。
 ところが、わたしはフランチェスカに呼び止められた。
「マリア様はこちらへいらしてください」
「はい?」
 隊長と副隊長はいま、別テントでロミオとの作戦会議をしているところだ。
 もしや、わたしも同席させてもらえるんだろうか……と思いながらついていったら、ちがっていた。

「マリア様は女性ですので、こちらのテントでわたくしと一緒に過ごしましょう」
 案内されたテント内には、メイドらしき女性もいる。
「ありがとうございます!」
 この緊急事態にそこまで気を遣ってもらえるとは、さすがはしっかり者と定評のあるフランチェスカだ。

 ここまでの旅程では、いつどこから魔獣が襲ってくるかわからなかった。
 そのため、昼夜を問わず輪番制で短めの睡眠をとりながら移動してきた。魔法が使える隊員が浄化してくれたから体は清潔感を保てていたし、女性はわたしだけだったけれど、まったく気にしていなかった。

「マリア様、お久しぶりです」
「再会できて光栄です」
 あらためてお互い挨拶を交わす。
 フランチェスカとは、両国の戦争が始まる前に会ったことがある。
 留学生を歓迎する催しに、わたしもロミオの婚約者として参加していたためだ。
 それに、わたしのほうは気づかなかったけれど、先日アドラで開かれた調印式と舞踏会に彼女も参加していたにちがいない。