亡国の悪役令嬢、呪われたショタ王子に拾われる

「爆竹とは、細い竹筒の中に少量の火薬を入れて爆発させる仕組みです。竹の破裂音が加わるので、音量を出すにはこれが一番とのことです」
 シリウスは、サミュエルの説明に頷きながら耳を傾ける。
「火薬の存在を伏せているため、少人数で作業しています。完成までもう少しです」
「音量はまちがいないのか?」
「実際にマリア様が作った爆竹で音を確認しております。音が大きいだけで安全性も問題ありません」
 サミュエルは自信満々に頷いた。

 ふたりは城を出て、裏手の工房へ向かった。
 すでに昼の気配は消え去り、西の空のほんのわずかな隙間にだけオレンジ色が残っている。
 シリウスの足取りは、三日間寝込んでいたとは思えぬほど軽い。
 明日にしようと進言するサミュエルに、いますぐ爆竹を見せろと迫ったのだ。

「火薬は湿気に弱いと聞いたので、細心の注意を払って……」
 ランタンを持ち説明を続けるサミュエルが途中で口を噤んで立ち止まった。
 前方に浮かび上がる工房のシルエットは、ドアが開け放たれているように見える。

「シリウス様。少々こちらでお待ちを」
 言うや否や、サミュエルが脱兎のごとく駆けだした。
 シリウスも言いつけを守らず後に続く。

「なんてことだ……」
 工房の中をランタンで照らしたサミュエルが愕然としている。

 竹筒が床に散らばり木桶がひっくり返っている。床は水浸しだ。
 たったいま、火薬は湿気に弱いという話をしていたというのにこれは——。

「派手に台無しにしてくれたな」
 サミュエルの大きな背中越しに中を見ていたシリウスが呆れた声で肩をすくめた。
「用心はしていたんだろう?」
「もちろんです。施錠はしっかりしていました」
 サミュエルは拳を強く握る。
 
 ライアスが火薬を手に入れたことや、それをマリアに渡したこと、呪いを解くための爆弾を作っていること。すべて王妃には筒抜けだろう。
 サミュエルの行動を監視していれば、どこで作業をしているかも容易にわかったはずだ。
 施錠の有無など関係ない。王妃が命令を下しているのだから。

「国家の一大事になるかもしれないのに」
「おっしゃる通りです」
 声を落とすふたりの間に失望感が広がる。

 狩り大会で魔獣に襲われ多数の負傷者を出したのだ。
 魔獣再来の噂はすでに庶民にまで広まっているだろう。
 討伐部隊は魔獣の残党を倒しながら森を進んでいると聞いてはいるが、まだちっとも安心できない。
 その状況でシリウスの解呪阻止に執念を燃やす王妃の行動は、もはや病的ですらある。

「ひとまずライアスに報告だな」
 ふたりは工房を後にした。