亡国の悪役令嬢、呪われたショタ王子に拾われる

 馬車は国境を通過し、森を抜けてアドラ王国へと入っていく。
 いまいち実感はないけれど、ついに母国を出国してしまった。
 一抹の感傷とともに、わたしはこれまでの人生を振り返った。

 わたしの祖父は、いわゆる『異世界転生者』だった。
 異世界で暮らしていた前世の記憶を持ったまま生まれた人間を、そう呼ぶらしい。
 異世界転生者は、この世界にはない様々な文化や知識をもたらす貴重な存在であるという。
 祖父の前世は『花火師』だったと聞いた。
 花火師とは、打ち上げ花火を作りそれを打ち上げる専門職らしい。
 火薬を詰めた球を打ち上げて破裂させることで、夜空に巨大な花の模様を描くアーティストだ。

『花火大会へ向かう途中トラックに轢かれてのう。その心残りがワシを転生させたのかもしれん』
 あっけらかんと語る祖父だったが、彼が母国に転生するまで少なくともこの大陸には火薬を精製できる者はいなかった。
 若かりし頃の祖父は、この世界で再び花火を打ち上げたいと思ったらしい。
 安定した黒色火薬を作れるようになるまで試行錯誤を繰り返し、大人になるまでずっと変人扱いされていたようだ。
 
『幸い実家が裕福な商家で、三男坊が放蕩を繰り返しても両親は笑っておった』
 その放蕩息子が夜空に見事な花火を咲かせ観衆を喜ばせることができるようになった頃、国王が彼を召喚した。
 火薬の技術をよこせと言われたらしい。
 祖父は頑なにそれを拒否しつづけた。
 転生者として、火薬技術の進歩が後になにを引き起こすか知っていたからだという。
 
 しかし、いくら諭したところで周囲の人たちはピンとこない。
『鉱山の岩盤を爆破で崩せれば効率が上がるんだがなぁ』
 その通り、火薬は上手く使えば採掘や漁をラクにする役目を果たす。
『陛下が、協力してくれれば叙爵も辞さないと言ってきたぞ!』
 家族の懐柔も始まり、最後は折れる形で了承したようだ。
『首を縦に振った決め手はのう、すでによその大陸では火薬が使われていると知ったからなんじゃ』
 別の転生者がもたらしたものだろうと祖父は推察していた。
 使用範囲を限定して軍事利用は防衛のみにする約束と、火薬の成分や配合に関してはモナーク家から門外不出とするきまりを取り付けて国王からの提案を了承し、かわりに伯爵位を賜ったのだ。