三日後——。
シリウスはゆっくり瞼を開いた。
徐々に意識を覚醒させながら、琥珀色の目を左右に動かして周囲を窺う。
一瞬、どういう状況なのかさえ理解できなかったが、ここは自分の部屋に自分のベッドだ。
いつも時間になったら起こしてくれるサミュエルがいない。
彼の名を呼ぼうとして、咄嗟に声が出ないほど喉がカラカラに渇いていると気づいた。
「んん……?」
体を起こそうと左腕に力を入れたシリウスは、痛みに顔をゆがめた。
魔獣に噛まれたのだと思い出して、ハッと左腕に視線を走らせる。
包帯が巻かれているが、腫れは引いたようだ。ジンジンした痺れと熱はもうない。
窓に目を向ければ、カーテンは開いていて外は明るい。
どれぐらい眠っていたのだろう。まだ頭が上手く働かないということは、相当長く眠っていたのかもしれない。
シリウスが軽く頭を振っていると、カチャリとドアが開いた。
サミュエルが顔を覗かせる。
「シリウス様、起きていらしたのですね!」
上半身を起こしているシリウスに気づいたサミュエルは、慌てた様子でベッドに駆け寄った。
「おかげんは……」
その言葉をさえぎってシリウスがかすれた声で問う。
「正直に言え。俺は何日寝ていた」
サミュエルは言いにくそうに視線をさまよわせた。
「三日です」
「三日……だと?」
シリウスの顔がみるみる険しくなる。
その様子に震えあがりながら、サミュエルが弁明する。
「大声でライアス殿下を怒鳴りつけて興奮したせいで、倒れられたではありませんか」
言われてみればそうだったかもしれない。
シリウスはこめかみを押さえて記憶を手繰り寄せた。
ライアスに向かって火薬を寄こせと怒鳴りつけたことは、なんとなく覚えている。
「熱が大変高くて危険だということで、鎮静剤を使ったのです。ゆっくりお休みになっていたおかげで、むしろ治癒が早いと侍医が言っていました」
「そうか……」
シリウスは左手の指を動かしたり拳を握ったりしてみた。痛みはまだ残っているが、問題ない。
城に帰還した直後は腫れがひどくて指もろくに動かせなかった。
それを思えば、たしかに劇的に回復している。治療効果を促進するための睡眠だったのなら仕方ない。
「侍医を呼んで参ります」
逃げるように退室するサミュエルの背中を見送りながら、シリウスはマリアも呼んでほしいと言おうか迷ってやめた。
「まずはさっぱりして、食事が先だな」
猛烈な空腹を感じるのも元気になった証拠だろう。
シリウスは再び横になった。
この時の自分が随分のんびりしていたとシリウスが気づいたのは、食事をすませた後。
侍医の診察で湯あみの許可が下り、体を綺麗にした。食事も終える頃には、窓の外はもう夕焼け空が広がっていた。
「ライアスとマリアを呼んでくれ。火薬の話の続きをしたい」
シリウスは、背筋をしゃんと伸ばして執務机に座る。
少年の体には不相応な立派な机だ。この部屋も机も、英雄王子と呼ばれていた頃からずっと使っている。
机を挟んでおけば、ライアスに掴みかかることなく冷静に話せるだろう——そんなことを考えていたシリウスは、サミュエルの返答に戸惑った。
「マリア様は、いらっしゃいません」
「俺がマリアの部屋を訪ねたほうがいいってことか?」
小首を傾げるシリウスに、サミュエルは思いもよらないことを告げた。
「マリア様は、魔石鉱山に向かわれました」
シリウスは息を呑み、目を大きく見開いた。
シリウスはゆっくり瞼を開いた。
徐々に意識を覚醒させながら、琥珀色の目を左右に動かして周囲を窺う。
一瞬、どういう状況なのかさえ理解できなかったが、ここは自分の部屋に自分のベッドだ。
いつも時間になったら起こしてくれるサミュエルがいない。
彼の名を呼ぼうとして、咄嗟に声が出ないほど喉がカラカラに渇いていると気づいた。
「んん……?」
体を起こそうと左腕に力を入れたシリウスは、痛みに顔をゆがめた。
魔獣に噛まれたのだと思い出して、ハッと左腕に視線を走らせる。
包帯が巻かれているが、腫れは引いたようだ。ジンジンした痺れと熱はもうない。
窓に目を向ければ、カーテンは開いていて外は明るい。
どれぐらい眠っていたのだろう。まだ頭が上手く働かないということは、相当長く眠っていたのかもしれない。
シリウスが軽く頭を振っていると、カチャリとドアが開いた。
サミュエルが顔を覗かせる。
「シリウス様、起きていらしたのですね!」
上半身を起こしているシリウスに気づいたサミュエルは、慌てた様子でベッドに駆け寄った。
「おかげんは……」
その言葉をさえぎってシリウスがかすれた声で問う。
「正直に言え。俺は何日寝ていた」
サミュエルは言いにくそうに視線をさまよわせた。
「三日です」
「三日……だと?」
シリウスの顔がみるみる険しくなる。
その様子に震えあがりながら、サミュエルが弁明する。
「大声でライアス殿下を怒鳴りつけて興奮したせいで、倒れられたではありませんか」
言われてみればそうだったかもしれない。
シリウスはこめかみを押さえて記憶を手繰り寄せた。
ライアスに向かって火薬を寄こせと怒鳴りつけたことは、なんとなく覚えている。
「熱が大変高くて危険だということで、鎮静剤を使ったのです。ゆっくりお休みになっていたおかげで、むしろ治癒が早いと侍医が言っていました」
「そうか……」
シリウスは左手の指を動かしたり拳を握ったりしてみた。痛みはまだ残っているが、問題ない。
城に帰還した直後は腫れがひどくて指もろくに動かせなかった。
それを思えば、たしかに劇的に回復している。治療効果を促進するための睡眠だったのなら仕方ない。
「侍医を呼んで参ります」
逃げるように退室するサミュエルの背中を見送りながら、シリウスはマリアも呼んでほしいと言おうか迷ってやめた。
「まずはさっぱりして、食事が先だな」
猛烈な空腹を感じるのも元気になった証拠だろう。
シリウスは再び横になった。
この時の自分が随分のんびりしていたとシリウスが気づいたのは、食事をすませた後。
侍医の診察で湯あみの許可が下り、体を綺麗にした。食事も終える頃には、窓の外はもう夕焼け空が広がっていた。
「ライアスとマリアを呼んでくれ。火薬の話の続きをしたい」
シリウスは、背筋をしゃんと伸ばして執務机に座る。
少年の体には不相応な立派な机だ。この部屋も机も、英雄王子と呼ばれていた頃からずっと使っている。
机を挟んでおけば、ライアスに掴みかかることなく冷静に話せるだろう——そんなことを考えていたシリウスは、サミュエルの返答に戸惑った。
「マリア様は、いらっしゃいません」
「俺がマリアの部屋を訪ねたほうがいいってことか?」
小首を傾げるシリウスに、サミュエルは思いもよらないことを告げた。
「マリア様は、魔石鉱山に向かわれました」
シリウスは息を呑み、目を大きく見開いた。



