亡国の悪役令嬢、呪われたショタ王子に拾われる

「魔石鉱山に火薬が残っているかもしれないと語ったのも聞いていたのですね?」
「その通りだ」
 火薬を欲しがるシリウスに、もしもまだ残っているとしたら魔石鉱山の中だと話した記憶がある。

 どうせエルゼアは併合されるのだから、残された火薬はいつか見つかるはずだ。それをもとに火薬の製造方法を研究するなり、使い切ってしまうなり、好きにすればいいと思っていたから、聞かれてはならない話だとも思っていなかった。
 ただ、アドラに魔石鉱山での禁忌の知識がなかったことは、わたしの誤算で落ち度でもある。

「火薬を手に入れてどうなさるおつもりだったのですか?」
「私と父と母とでは目的がちがう」
 ライアスは紅茶をひと口飲んでから続けた。
「父は火薬を研究したいと考えている。母は、シリウスの呪いが解けるのを恐れている。でも私は、彼の呪いを解きたいと思っているんだ。だから先回りして入手するために人を送った」

 魔石鉱山はエルゼアとアドラの国境地帯にある。
 魔石とは、魔力がこめられた石の総称。魔道具の材料となるほか、灯りの代わりにしたり、保温したり冷凍の状態を維持したりと、なにかと役に立つ鉱石だ。
 アドラは魔法が使える人が多いため、魔石に類似した物もいくらでも作れる。
 しかしエルゼアではとても重宝されていた。

 魔石は、かつて魔獣が多く生息していた地域で採掘される。
 魔獣たちの魔力を吸収した石が魔石となるためだ。
 いま「魔石鉱山」と呼ばれている一帯の魔獣を封じたのは、もちろん英雄王子シリウス。
 だからエルゼアでも、魔獣の脅威を払拭してくれたシリウスの英雄譚は人気だった。

「その使いにやった人たちが、鉱山の中で魔法を使ってしまったのですね?」
 責めるような冷たい声色になったかもしれない。
 ライアスは顔を青くして首を横に振る。
「言い訳ばかりに聞こえるかもしれないが、わざとではなかったんだ」
「でも、結果的に魔獣の封印を解いてしまったことに変わりはありません」

 正直、なんてことをしてくれたんだと思っている。
 知らなかった、わざとではないという言い訳で許される話ではない。

 魔石は吸収した魔力の放出もできる不思議な鉱石だ。
 その魔石がたくさん埋まっている場所で大量の魔法を使用すればどうなるか。
 飽和状態になった魔石が一斉に魔力を放出すれば、爆発に近い現象が起きる。
 だから魔石鉱山の周辺は、魔法の使用が厳禁だ。

 しかし、アドラ王国の者たちは魔石鉱山になじみがないため、それを知らなかったのだろう。
 少し過去の文献を調べればわかりそうなものだが、誰よりも先に火薬を手に入れようと逸るばかりにそれを怠ったにちがいない。
 結果、鉱山の最奥に封印された魔獣たちを解き放つに至った。
 もちろん、狩猟大会開催の時点で、解き放たれた魔獣が森伝いにアドラ王城のすぐそばまでやってきているとは、予想だにしなかったのだろう。
 
 目を伏せたライアスが静かに語る。
「すべて私の失態だと認めよう。知らなかったなんて言い訳でごまかせる話でないことも承知している。鉱山に向けて討伐隊を派遣する準備を進めているところだ」
 
 ライアスが夜遅くまで処理に追われていたのは、この件も含まれていたはずだ。
 労ってあげたいところだが、自業自得だと呆れる気持ちのほうが大きい。
 頼りない人だ。だから王妃は、シリウスの呪いが解けるのを恐れているのだろう。

「どうしてシリウス様があなたを嫌っているのか、よくわかりました」
 面と向かって母親を諫めることもできず、なにかあれば対応はドタバタ。
 とりあえず反省していると殊勝な態度を示せば、王太子という立場的に相手はそれ以上不満を言いにくい。それを知っていて、すぐに自分の非を認めるのだ。
 王妃に強固に守られている王太子であるがゆえにできる甘ったれた芸当だろう。ひとことで言うと、ズルい。

 ライアスは困ったように苦笑する。
「小さい頃は、よく一緒に遊んでくれたんだけどね」
 その話なら、シリウスからも聞いた。
 兄王子が年を取らず、いつのまにか自分のほうが大きくなっていると気づいた時、ライアスはなにを思ったのだろう。
 想像すると少し胸が疼く。

「それで、火薬は手に入ったのですか?」
「ああ。導火線のついた爆弾をひとつ持ち帰ってきている」
 それだけの火薬があれば、シリウスの呪いを解くのに十分な量かもしれない。

「シリウス様の呪いを解きたいとおっしゃったのが本心であるなら、その爆弾をわたしにください。彼の呪いを解きます」
 嫌とは言わせない。
 わたしはライアスを真っすぐ見つめ、語気を強めて言い切った。