大人の姿に戻ったシリウスは、すうすう気持ちよさそうな寝息を立ててぐっすり眠っている。
男性にしてはきめの細かいつるりとした肌は、まるで彫刻のようだ。
その寝顔を眺めつつ窓の外の警戒も怠らずに過ごしていると、馬の蹄のような音が聞こえた。
だんだん近づいてくる。
どうしよう、魔獣だろうか。窓からはよく見えない。
小屋の中に人間がいるとわかれば窓を割ってでも侵入を試みるのか、あるいは素通りするのかもよくわからない。
判断に困るならシリウスを起こしたほうがいいだろう。
声をかけよう思った時、ドアがトントンとノックされた。
まさか丁寧にノックする魔獣はいないだろう。
となれば——。
ドアノブがカチャリと音を立て、ゆっくり開いたドアから顔を覗かせたのはサミュエルだった。
髪は乱れジャケットがところどころ破けているが、大きなケガはなさそうだ。
よかった! 無事だったのね!
彼はキョロキョロと小屋の中を見回し、わたしたちの姿を認めると茶褐色の目を大きく見開いた。
静かに、という意味をこめて、わたしは人差し指を立てる。
無言で頷いたサミュエルは、足音を立てぬよう静かに入ってきた。
「遅くなりました。魔獣を倒した後、馬を一頭探して連れてきました」
サミュエルが小声で囁く。
蹄はその音だったのかとホッとした。
「ありがとう。シリウスは、出血は止まっているけど腫れがひどくなってきているの」
馬で早く運んだほうがいい。
さすがサミュエル、気が利くわね!
「火事はどうなったのかしら?」
「大丈夫です。魔法で調整しているのか、いまのところ延焼はしていません」
起こさぬよう小声で話しているつもりだったが、シリウスが身じろぎして目を覚ました。
再び体が小さくなって少年の姿に戻る。
「……嫌な声が聞こえると思ったらサミュエルか」
くわっとあくびをして体を起こした。
「せっかくマリアの膝枕で寝ていたのに、野暮なヤツだな」
わたしはギョッとしてシリウスを見る。
そんなことを言っている場合か。
「膝枕ぐらいいくらでもするわ! 早く帰って手当をしましょ」
それなのにサミュエルは恭しく頭を下げた。
「無粋な真似をして失礼いたしました」
もうっ! 真面目なんだから!
「サミュエルが馬を連れてきてくれたのよ。行きましょう」
小屋の外へ出ると二頭の馬が待っていた。
空を見上げると煙がたなびいているものの、燃え盛っている様子ではない。
一頭の馬にシリウスとサミュエルが、もう一頭にわたしが乗って沢伝いに駆ける。
風に乗って、ふたりが魔獣について話している声が聞こえる。
「……きっと魔獣はもっと増える」
「封印が破られたということですか?」
「そうとしか考えられない。門を閉じないといけない。ライアスを問い詰めないと……」
聞き間違えではないとしたら、いまシリウスはライアスの名前を出した。
魔獣の出現とライアスが関係しているってこと?
しかしここでシリウスの声が途切れた。
サミュエルの胸に体を預けている様子から察するに、また熱が上がってきたのかもしれない。
ほどなくして急に視界が開けた。
「やった! 森を抜けたわね」
遠くに見える王城の位置から察するに、随分と西側に出てしまったようだ。
それでも、無事に森を抜けられてホッとする。
わたしはサミュエルと頷き合った。
シリウスは目を開けているものの、彼の腕の中でぐったりしている。
「急ぎましょう」
わたしたちは王城を目指し、馬の腹を蹴った。
男性にしてはきめの細かいつるりとした肌は、まるで彫刻のようだ。
その寝顔を眺めつつ窓の外の警戒も怠らずに過ごしていると、馬の蹄のような音が聞こえた。
だんだん近づいてくる。
どうしよう、魔獣だろうか。窓からはよく見えない。
小屋の中に人間がいるとわかれば窓を割ってでも侵入を試みるのか、あるいは素通りするのかもよくわからない。
判断に困るならシリウスを起こしたほうがいいだろう。
声をかけよう思った時、ドアがトントンとノックされた。
まさか丁寧にノックする魔獣はいないだろう。
となれば——。
ドアノブがカチャリと音を立て、ゆっくり開いたドアから顔を覗かせたのはサミュエルだった。
髪は乱れジャケットがところどころ破けているが、大きなケガはなさそうだ。
よかった! 無事だったのね!
彼はキョロキョロと小屋の中を見回し、わたしたちの姿を認めると茶褐色の目を大きく見開いた。
静かに、という意味をこめて、わたしは人差し指を立てる。
無言で頷いたサミュエルは、足音を立てぬよう静かに入ってきた。
「遅くなりました。魔獣を倒した後、馬を一頭探して連れてきました」
サミュエルが小声で囁く。
蹄はその音だったのかとホッとした。
「ありがとう。シリウスは、出血は止まっているけど腫れがひどくなってきているの」
馬で早く運んだほうがいい。
さすがサミュエル、気が利くわね!
「火事はどうなったのかしら?」
「大丈夫です。魔法で調整しているのか、いまのところ延焼はしていません」
起こさぬよう小声で話しているつもりだったが、シリウスが身じろぎして目を覚ました。
再び体が小さくなって少年の姿に戻る。
「……嫌な声が聞こえると思ったらサミュエルか」
くわっとあくびをして体を起こした。
「せっかくマリアの膝枕で寝ていたのに、野暮なヤツだな」
わたしはギョッとしてシリウスを見る。
そんなことを言っている場合か。
「膝枕ぐらいいくらでもするわ! 早く帰って手当をしましょ」
それなのにサミュエルは恭しく頭を下げた。
「無粋な真似をして失礼いたしました」
もうっ! 真面目なんだから!
「サミュエルが馬を連れてきてくれたのよ。行きましょう」
小屋の外へ出ると二頭の馬が待っていた。
空を見上げると煙がたなびいているものの、燃え盛っている様子ではない。
一頭の馬にシリウスとサミュエルが、もう一頭にわたしが乗って沢伝いに駆ける。
風に乗って、ふたりが魔獣について話している声が聞こえる。
「……きっと魔獣はもっと増える」
「封印が破られたということですか?」
「そうとしか考えられない。門を閉じないといけない。ライアスを問い詰めないと……」
聞き間違えではないとしたら、いまシリウスはライアスの名前を出した。
魔獣の出現とライアスが関係しているってこと?
しかしここでシリウスの声が途切れた。
サミュエルの胸に体を預けている様子から察するに、また熱が上がってきたのかもしれない。
ほどなくして急に視界が開けた。
「やった! 森を抜けたわね」
遠くに見える王城の位置から察するに、随分と西側に出てしまったようだ。
それでも、無事に森を抜けられてホッとする。
わたしはサミュエルと頷き合った。
シリウスは目を開けているものの、彼の腕の中でぐったりしている。
「急ぎましょう」
わたしたちは王城を目指し、馬の腹を蹴った。



