亡国の悪役令嬢、呪われたショタ王子に拾われる

 周囲を警戒しつつ順調に馬を走らせていたわたしたちだったが、煙の臭いを感じて同時に顔を見合わせた。
「もしかして……森が燃えているの?」
「まずいな。魔獣に襲われた誰かが火魔法を使ったのかもしれない」
 シリウスの顔が険しくなる。

 狩猟大会では魔法の使用は禁止――などと、言っていられる状況ではないのはわかる。
 でも、炎を使えば森の木々に燃え移るおそれがあると判断できなかったのか。
 それとも、魔獣が森から出てしまうのを防ぐために入り口を炎で塞いでいるのか……。
 だとすれば、シリウスがまだ戻ってきていないことを承知の上で火を放ったことになる。

 嫌な予感は的中した。
 さらに進んでいくと、森の入り口へ続く道の前方が赤く燃え盛っているではないか。
 しかも炎はどんどん広がっている。
 これではもう、ここを通り抜けて森の外へは出られない。

「ほかの道を探すしかないわね」
 わたしたちは馬を下りて木立の中へと分け入った。
 煙を吸い込まぬよう、ルルーニャに結んでもらったスカーフを解き口を覆う。

 今朝「準備万端、ハプニングにも陰謀にも屈したりしない!」と、息巻いていたのはとんだ奢りだった。
 とにかく、シリウスを無事に森から脱出させなければならない。

「もう少し西へ行くと水の流れる沢があるはずだ。沢伝いに南下すれば森を抜けられる」
 シリウスは、この森の地形もよく把握しているようだ。
 ここは信じてついていくしかない。
「火の手が回らないうちに急ぎましょ!」
 煙は徐々に広がってきている。
 視界が塞がれる前に脱出しなければと、わたしたちは焦っていた。

「あともう少しだ」
 励ますようにこちらを振り返るシリウスに頷いた瞬間、わたしの視界に横から茶色いなにかが飛び込んできた。
「危ないっ!」
 わたしは叫ぶと同時にシリウスの腕を引き寄せた。

「つっ!」
 上半身を折り曲げたシリウスの左腕に、狼が噛みついている。いや、いきなり襲ってきたということは、これは魔獣だろうか。
 すかさず剣を抜いたサミュエルが、狼の首を斬り落とした。
 しかし、頭だけになった狼はなおもシリウスの腕に噛みついたままだ。

 わたしは慌てて短剣を取り出し、額に光る金色の魔核に突き立てる。
 するとようやく狼の顎が緩んで地面へ落ちた。
「シリウス、大丈夫!?」
 腕を押さえる指の間から血が溢れだした。
 ジャケットにも穴が開いている。