亡国の悪役令嬢、呪われたショタ王子に拾われる

「魔獣!?」
 サミュエルが顔色を変えて馬から下り、剣をかまえてシリウスの前へ出る。

 魔獣とは、魔力を帯びた不思議な力を持ちつ生き物の総称だ。
 通常の野生動物よりも体が大きく凶暴性も高い。
 しかし、昔エルゼアやアドラ周辺に魔獣は、英雄王子のシリウスがすべて封じ込めたはずではなかったか。

 それ以来、姿を現していないと聞いていた魔獣がどうしてここに……?
 わたしは魔獣に遭遇すること自体、初めてだ。
 あの水牛の体高は、わたしの背丈を越えている。体当たりされればひとたまりもないだろう。
 
「マリア、あいつの額にある金色の部分を狙え。あそこが弱点だ」
 まるで魔獣との実戦経験があるかのような言い方を、なぜシリウスがするのか。
 それを考えている余裕はない。
 わたしは魔獣に視線を向けたまま頷いた。

 魔獣がブフッと鼻を鳴らし前肢で地面をかく。
 それが合図とばかりに、こちらへ突進してきた。

 シリウスが信頼してわたしに任せてくれたのだ。
 大丈夫、できる。一発で仕留めてやるわ!

 息を詰めて集中力を高める。
 周りの音が遠ざかり、魔獣の額の金色だけが妙にくっきり見えた。
 放った渾身の矢はヒュンと音を立て、迫りくる魔獣の額めがけて飛んでいく。
 そして見事、金色に光る部分を射抜いた。
 魔獣は矢が刺さったまま数歩進み、動きを止めたと思ったら、ドウッと地面を揺らしながら横倒しに倒れる。

「やった!」
 ホッとして力が抜けそうになるが、まだ油断は禁物だと気を引き締め直し、万が一に備えて再び矢をつがえた。
 魔獣は倒れたまま動かない。
 シリウスが魔獣に近づいていく。
「お待ちください!」
 サミュエルが慌てて止めようとするが、シリウスはおかまいなしだ。
「大丈夫、魔核を傷つけさえすれば魔獣の息の根を止められる」
 そう言ってしゃがむと、刺さった矢を抜いて魔獣の額から石のような物を取り出した。
「ほら、これが魔核だ」

 シリウスの片方の手のひらに収まるぐらいの丸い石は、キラキラと金色の光を放っている。
 魔核は、魔道具や錬金術の素材として重宝されている。
 魔獣からしか採集できないため、希少価値が高い。

「マリア、よく仕留めた」
「よかった……」
 もう動かないとわかって、わたしはようやく弓を下ろして力を抜いた。
 魔核を抜かれた魔獣の体は徐々にしぼんで、やがて跡形もなく消え去った。
 
「魔獣の魔核は、額、喉、胸、へそのあたりにあることが多いから、覚えておくんだな」
 シリウスのレクチャーはとてもありがたいけれど、彼の魔獣や魔核に関する言動は、知識として持ち合わせているだけにしては妙に実践的であれこれ手慣れている。

 どういうことなのか後でじっくり聞こうと思いながら馬を反転させた。
 シリウスとサミュエルも再び馬に跨り、もと来た道を戻る。
 もう狩猟大会どころではない。
 仮にそれでも優勝者をきめるというのなら、魔獣の魔核を持ち帰ったシリウスの圧勝だ。

 ところが、とにかく早く安全な場所へと森の入り口を目指している我々に、さらなる試練が待ち受けていた。