王室の持つ狩場の森は、かなりの広さだ。
広葉樹の葉が鮮やかな赤や黄色に色づいている。
木漏れ日に照らされた小道に荒れている様子はない。手入れが行き届いているのだろう。
チチチ、と小鳥のさえずりも聞こえるのどかな森を奥へ奥へと進んでいく。
「どこまで行く気だ?」
「もっと奥まで! そのほうがライバルがいなさそうでしょ!」
わたしは馬の腹を蹴ってスピードを上げる。
ずっと王城の一室に籠っていたから、馬上で風を切るのがなんとも心地いい。
「あっ、待てよ」
シリウスとサミュエルもしっかりついてくる。
普段、運動なんてしていないんじゃないかと思っていたのに、シリウスは乗馬の腕前はなかなかのものだ。
狩りのセンスはどうだろうか。
もしも、わたしが本気で一番を狙いにいったらあれこれ角が立つだろう。
だから大猟の時は、ふたりのどちらかに押し付ければいいわよね!
この時のわたしは呑気にそんなことを考えていた。
このあたりまで来れば十分かしら……そう考えて馬のスピードを落とした時だった。
横の藪からキジが飛び出してくる。
わたしは急いで矢をつがえて弓を引く。見事命中した。
「やった!」
拳を振り上げて喜ぶわたしにシリウスが笑う。
「さすがだな」
しかし、喜んでいられたのはここまでだった。
さらに藪からキジやウサギが飛び出してきた。上空でも一斉に小鳥たちが群れをなして飛び去っていく。
キッキッキッ!と、動物が仲間に向けて発する甲高い警戒音のような鳴き声が響いて、森が騒がしくなった。
なにかおかしい。これではまるで……。
背筋がゾクリと震えた。
「なにかに追われているのか?」
シリウスの言葉に、わたしも無言のまま頷いた。
森の奥からドシンドシンと大きな足音がして地面が揺れる。
木立を倒しながらのっそり現れたのは、漆黒の巨体に立派な角を持つ水牛だった。
興奮しているのか鼻息が荒く目がギラついている。
「引き返しましょう!」
サミュエルが手綱を強く引っ張りムチを入れようとしたが、シリウスが止めた。
「ダメだ、追いつかれる。応戦だ」
やけに冷静な声でそう言ったシリウスが馬から下りた。
水牛との距離はまだあるが、動きを止めてこちらを窺う様子から察するに、わたしたちに突進してくる可能性が高い。
しかも逃げようとすれば追ってくるだろう。
先ほどまでののんびりした雰囲気から一転、突然の大ピンチにわたしの気持ちはまだ追いつかない。
「ねえ、これって狩猟大会の演出なの?」
念のため確認してみたが、シリウスは首を横に振った。
「なわけないだろ」
「そうよね……」
狩猟大会を盛り上げるために仕込んだハプニングにしては過激すぎる。
仮にわたしへの嫌がらせだとしても、これはやりすぎだ。
しかも、耳をすませば遠くから叫び声が聞こえる。
森のあちこちで参加者が襲われているのかもしれない。
どういうことかさっぱりわからない。
「じゃあなんで、森にこんな大きな水牛がいるの?」
水牛が体の向きをこちらへ変えた。
わたしは馬に跨ったまま、咄嗟に矢をつがえる。
こんな物でやっつけられる自信はないけれど、やらないよりはマシだろう。
「水牛じゃない。あいつは……魔獣だ」
シリウスが腰に佩いた剣を抜いた。
広葉樹の葉が鮮やかな赤や黄色に色づいている。
木漏れ日に照らされた小道に荒れている様子はない。手入れが行き届いているのだろう。
チチチ、と小鳥のさえずりも聞こえるのどかな森を奥へ奥へと進んでいく。
「どこまで行く気だ?」
「もっと奥まで! そのほうがライバルがいなさそうでしょ!」
わたしは馬の腹を蹴ってスピードを上げる。
ずっと王城の一室に籠っていたから、馬上で風を切るのがなんとも心地いい。
「あっ、待てよ」
シリウスとサミュエルもしっかりついてくる。
普段、運動なんてしていないんじゃないかと思っていたのに、シリウスは乗馬の腕前はなかなかのものだ。
狩りのセンスはどうだろうか。
もしも、わたしが本気で一番を狙いにいったらあれこれ角が立つだろう。
だから大猟の時は、ふたりのどちらかに押し付ければいいわよね!
この時のわたしは呑気にそんなことを考えていた。
このあたりまで来れば十分かしら……そう考えて馬のスピードを落とした時だった。
横の藪からキジが飛び出してくる。
わたしは急いで矢をつがえて弓を引く。見事命中した。
「やった!」
拳を振り上げて喜ぶわたしにシリウスが笑う。
「さすがだな」
しかし、喜んでいられたのはここまでだった。
さらに藪からキジやウサギが飛び出してきた。上空でも一斉に小鳥たちが群れをなして飛び去っていく。
キッキッキッ!と、動物が仲間に向けて発する甲高い警戒音のような鳴き声が響いて、森が騒がしくなった。
なにかおかしい。これではまるで……。
背筋がゾクリと震えた。
「なにかに追われているのか?」
シリウスの言葉に、わたしも無言のまま頷いた。
森の奥からドシンドシンと大きな足音がして地面が揺れる。
木立を倒しながらのっそり現れたのは、漆黒の巨体に立派な角を持つ水牛だった。
興奮しているのか鼻息が荒く目がギラついている。
「引き返しましょう!」
サミュエルが手綱を強く引っ張りムチを入れようとしたが、シリウスが止めた。
「ダメだ、追いつかれる。応戦だ」
やけに冷静な声でそう言ったシリウスが馬から下りた。
水牛との距離はまだあるが、動きを止めてこちらを窺う様子から察するに、わたしたちに突進してくる可能性が高い。
しかも逃げようとすれば追ってくるだろう。
先ほどまでののんびりした雰囲気から一転、突然の大ピンチにわたしの気持ちはまだ追いつかない。
「ねえ、これって狩猟大会の演出なの?」
念のため確認してみたが、シリウスは首を横に振った。
「なわけないだろ」
「そうよね……」
狩猟大会を盛り上げるために仕込んだハプニングにしては過激すぎる。
仮にわたしへの嫌がらせだとしても、これはやりすぎだ。
しかも、耳をすませば遠くから叫び声が聞こえる。
森のあちこちで参加者が襲われているのかもしれない。
どういうことかさっぱりわからない。
「じゃあなんで、森にこんな大きな水牛がいるの?」
水牛が体の向きをこちらへ変えた。
わたしは馬に跨ったまま、咄嗟に矢をつがえる。
こんな物でやっつけられる自信はないけれど、やらないよりはマシだろう。
「水牛じゃない。あいつは……魔獣だ」
シリウスが腰に佩いた剣を抜いた。



