亡国の悪役令嬢、呪われたショタ王子に拾われる

 あれから五年の月日をともにしてきた。
 シリウスはまだ解呪をあきらめていない。
 睡眠時間を極力削っているのがその証拠だ。
 眠っている間だけは元の姿に戻る。それはすなわち、寝ている時間分だけ年を取ることを意味している。

『睡眠は毎日二時間ときめている。万が一、日中に居眠りしそうになったら叩き起こしてくれ』
 寝不足のせいで馬車に揺られるとうつらうつらするシリウスを、サミュエルは心を鬼にして目覚めさせる。
『せっかく呪いが解けたのに、体がジジイになっていたら嫌だろう?』

 王城の書庫にある呪術関係の本は、もうすべて読破したという。
 書物の情報と実体験でわかったのは、落雷のような突発的な轟音で音律呪法に乱れが生じるということ。
 しかし、魔法で起こした雷には反応しない。
 自然現象として雷が四六時中鳴っている土地はないかと調べて回ったが、そんな場所はなかった。

 寝不足と虚無。
 初対面で笑顔を見せたシリウスだったが、普段は笑うことなどほぼない。
 虚しい日々が過ぎていく中で、エルゼア王国との間で戦争が勃発した。
 敵国の使用する爆弾の音を聞いた時、シリウスとサミュエルは同時に「これだ!」と顔を見合わせた。
 
 戦火の中を決死の覚悟で駆け抜けた。
 しかし一、二発の爆弾でどうにかなるものではなかった。
 おまけにアドラ軍が魔法で対抗しているのだから、条件が悪かったのもある。

 秘密裏にモナーク伯爵と接触もした。
『戦後もあなたのご家族の身の安全をお約束します』
 取引きを持ちかけたが、すげなく断られた。
『火薬の知識は、門外不出です』
『お嬢さんがおられますよね?』
 こんな手は使いたくなかったが、遠回しに娘がどうなってもいいのかと脅してもみた。
 それなのにモナーク伯爵は、青い目を光らせて不敵な笑みを浮かべたのだ。
『やれるものならどうぞ』
 よほど警護が厳重か、ただの強がりなのか。
 そう思っていたが、いまのサミュエルにならわかる。マリアは普通の貴族のお嬢様とはちがい、自分自身で身を護るあらゆるスキルを持っているのだと。
 
 マリアの言動は、我々の想像の遥か斜め上をいっている。
 そのおかげかシリウスはよく笑うようになった。毎日こんなにも楽しそうにしている彼を見るのは初めてだ。
 おそらく火薬のことを抜きにしても、彼女を手放さないだろうという予感がする。
 それが友情なのか恋情なのかはわからないが。

 問題は、当代でもまた王妃による妨害にあっていることだ。
 シリウスの呪いが解けるのを恐れているのだろう。
 英雄王子が若々しい姿のまま年を取らずに帰還したとなれば、国民からの支持は絶大なものになる。
 実の息子であるライアス王太子が追い落とされるのを危惧しているのだ。
 シリウスは、玉座への興味などとうに失っているというのに。

(シリウス様は、いつマリア様に真実を打ち明けるのだろうか……)

 サミュエルは懐中時計をポケットにしまい、シリウスの寝顔を静かに見守った。