亡国の悪役令嬢、呪われたショタ王子に拾われる

 ライアスの完璧なリードで終始安心しながらダンスを終えた。
 その途端、グイッと手を引かれて驚いて振り返ると、憮然とした表情のシリウスがいた。
「そろそろ帰る」
「そうよね、お子様はもう寝る時間だもの」

 ブフッと吹き出したのはライアスだった。
 どうやらこの王子も笑い上戸らしい。
「では、これにて失礼いたします」
 重たいドレスをつまんでカーテシーをしてホールを出た。

「ひと悶着あったんだって?」
 帰り道の廊下でシリウスが問うてくる。
「ワイングラスを投げつけられただけよ。ライアス殿下が魔法で綺麗にしてくれたわ。魔法ってすごいのね!」
 母国で魔法を使える者はほとんどいなかったから、間近で見たのはあれが初めてだ。
 手のひらが淡く光ったと思ったら、破片もワインもすべて一瞬で消えた。あれは大絶賛に値する。

 しかし、シリウスはますます不満げに唇を尖らせた。
「小さい頃よく遊んでやったっていうのに、ライアスも生意気になったな」
 姉のルルーニャを呼び捨てにするシリウスだから、もしやとは思っていたけれど……。
 兄を、しかも王太子を呼び捨てにするとは、十一歳はなんと怖いもの知らずなのか。

「ライアスが好きになったのか?」
「やめてよね。わたし、そんなにチョロくないわよ?」
 助けられたぐらいで好きになるものか。
 両国の和平協定が結ばれ王太子とダンスを踊ったのだから、公開処刑される運命からは逃れられたかもしれない。
 かといって、恋にうつつをぬかすほど頭がお花畑ではない。

「そうか。それならいい」
 シリウスの声色が明るくなった。幾分か機嫌を直してくれたらしい。
 もしかすると焼きもちだろうか。思い当たると急に笑いが込み上げてきて、わたしは悟られぬよう必死に噛み殺したのだった。


 一難去ってまた一難――という言葉がぴったり当てはまる厄介ごとが持ち込まれたのは、この翌日。
 重いドレスを着て動き回った疲れを癒すべく、ソファーでのんびり自ら淹れたお茶を飲んでいる時だった。

 渋い顔をして入ってきたサミュエルが、戸惑いの色を浮かべながら告げる。
「ロミオ様がマリア様との面会を希望されています」
「ロミオ様が!?」
 サミュエルがこくこく頷く。
 わたしがアドラにいるとあらかじめ知っていて前々から希望していたのか、それとも昨夜の舞踏会でわたしを見つけてその気になったのか。
 なんにせよ、こっちはロミオとの面会など願い下げだ。話すことなどなにもない。

「お断りして」
「それが……」
 サミュエルが言いにくそうに口ごもる。
「シリウス様がすでに了承されました」
 なんですって!?
 わたしは額に手を当てて大きなため息をついた。
 シリウスの意図はわからないけれど、これはつまり「会うか会わないか」のお伺いではなく「会え」と命令されているわけだ。
 わたしは渋々立ち上がった。サミュエルを困らせるわけにはいかない。
「わかったわ。案内してちょうだい」