亡国の悪役令嬢、呪われたショタ王子に拾われる

 二曲目が終わったところで、ライアスにエスコートされてダンスを楽しむ人たちの中へと入っていく。
 逆にダンスから退こうとしていたシリウスとすれ違った。

「なっ……!?」
 シリウスが目を丸くしてこちらを凝視する。
 なぜわたしとライアスがダンスを踊るのかと驚いているのだろう。
 わたしにもわからないわ!と言いたいところだが、説明している余裕がないためウインクだけ返しておいた。

 曲が始まると、ライアスはわたしの耳元でささやいた。
「ひどい目に遭わせてしまって申し訳なかった」

 ダンスに誘われた理由がわかった。
 誰にも聞かれずにこっそり謝罪したかったのだろう。
 大勢に注目されている状況で、爆弾を製造していたモナーク伯爵家の娘に頭を下げるわけにはいかなかった事情はよくわかる。
 なにに対しての謝罪なのかは解釈が分かれるところだけれど。

 単純にワインを投げつけられたことなのか、それともわたしをさらし者にするために舞踏会へ招待し、こんな悪趣味なドレスを用意した件に関しての謝罪なのか。
 どうせあらかじめ全部知っていたにちがいない。
 それをわざわざ助けて聖人ぶり、まるで和平の象徴であるかのようにダンスに誘うとは。

 ひとりだけ良い子のフリをなさるおつもり? 随分といい性格をされていらっしゃるのね。
 わたしはそう言いたくなるのをこらえて、にっこり笑った。
 このダンスによってわたしの処刑が遠のいたかもしれないのだから、お互いにとって利がある。
 ライアスがよほど残忍な性格を秘めていない限り、このような形でダンスに誘った相手を処刑処分に至らしめる可能性は低い。

「まったく気にしておりません。悪役を演じるのには慣れておりますので」
 押し付けられた役割を演じ切るぐらい、造作でもない。
「なにが起きるか予想しておりましたわ」

 わたしがふふっと笑うと、ライアスはなにかを察したように息を吸い込んだ。
「なるほど。わざとひとりになったのだね?」
 さすがは王太子と言うべきか。やはり、にこやかな仮面の下は食えない性格が隠れているのだろう。
 わたしは否定も肯定もせず、ただ笑みを深くした。

 ライアスの言う通り。
 来るなら来いと、あえてシリウスを遠ざけて隙を見せた。
 このような場では、パートナーが離れた機会を窺って嫌がらせを仕掛けてくるのが定石となっている。
 嫌がらせ程度ならまだマシだ。わたしは過去に誘拐されそうになったことだって何度もある。

 あのご令嬢たちは、自分たちが罠にはめられた側だと気づいているだろうか。
 この悪趣味なドレスを着ているのは本意でないことや、黒幕を知っているとほのめかすことまで堂々と言えたのだから、彼女たちに感謝しなければならない。
 彼女たちのようにあからさまな敵愾心を示してくれたほうが、わかりやすくて助かる。
 厄介なのはむしろ……。
 わたしは優雅なステップを踏みながらライアスを見上げた。
 こういう、笑顔の下で腹黒いことを考えていそうなタイプが一番面倒だ。

「いろいろと、ありがとうございます」
「シリウスの婚約者は強かだ。安心したよ」
 ふたりは異母兄弟のはずだが、年の離れたシリウスをかわいがっているのだろう。

「きみといると、シリウスはいろいろな表情を浮かべるのだね」
「大変笑い上戸な王子様ですわね」
 ライアスが一瞬目を丸くする。
「そうなのか。私には仏頂面しか見せてくれないから、それは意外だな」
「反抗的なお年頃なのでしょう」
 ふたりでクスクス笑う。