「あなたがマリア様かしら?」
シリウスとルルーニャのダンスを眺めていたわたしは、ねっとりとした声に振り返った。
わたしも顔負けするほどの意地悪そうなご令嬢が、取り巻き三人を引き連れてやってくる。
「はじめまして、マリアと申します」
にっこり笑って挨拶をしたが、相手は名乗るつもりも挨拶をするつもりもないようだ。
品定めするかのようにわたしの頭からつま先へゆっくり視線を移動させ、フンッと鼻を鳴らした。
「趣味の悪いドレスですこと。しかもそんな高価な宝石まで散りばめて」
取り巻き連中が、壁を背にしたわたしをぐるりと囲む。
四人とも淡い色合いのふんわりとしたドレスを着ている。
ルルーニャもそうだったが、いまのアドラの流行はこういったデザインなのだろう。
わたしのドレスは生地といい色味といいデザインといい、どれをとっても流行から外れている上に悪趣味であることはまちがいない。
「オーダーでおいくらかかっているのかしら」
「戦争に負けたくせに、ずいぶん贅沢ですこと」
「下品なドレスがよくお似合いね」
取り巻きたちはクスクス笑いながらこちらを蔑む発言をした。
しかし、こんな嫌味に動じるわたしではない。
「そうなんですのよ。わたしは、こんな悪趣味で無駄に高価なドレスをも着こなせてしまうのです。お褒めにあずかり光栄ですわ」
笑顔を崩さず、あえて大きな声で返答する。
彼女たちの言うように、似合っているのは事実だ。
「まあっ! 開き直るおつもり?」
「褒めてなどおりませんわ!」
気色ばむご令嬢たちが目を見開いて声を上ずらせる。
だんだんと周囲の注目を集めていることに、彼女たちは気づいているのだろうか。
こんなとんでもないドレスを着ているのはわたしの本意ではないと、彼女たちだって本当はわかっているはずだ。
チクチク嫌味を言えば、わたしが戸惑ったり怯んだりオドオドするとでも思ったのか。
ごめんあそばせ、嫌われ者の悪女なら年季も気合も筋金入りですのよ。
わたしが期待した反応をせずケロッとしていることで意地になったのか、彼女たちはしつこくドレスが時代遅れだの見ているこっちが恥ずかしいだのと責め立てる。
ひとしきり罵声を浴びせられたが、ロミオからの罵声に比べればかわいいものだ。
わたしは口角を上げたまま彼女たちに問うた。
「このドレスは、さる高貴なお方にいただいたものです。シリウス様はもっとシンプルなデザインでいいとおっしゃいました。それを贅沢な装飾に変更させたのも、そのお方です」
ここで言葉を切って、ひとりひとりと目を合わせる。
「あなたがたは先ほどから、このドレスを侮辱する発言をしておられますが、大丈夫ですの?」
途端に彼女たちが黙り込んだ。
実を言うと、ドレスのデザインを変更させた犯人が誰なのかは知らない。
今朝シリウスが針子さんたちに聞いて回ったけれど、全員口を閉ざして誰の差し金か話してくれなかったという。
しかし、王子であるシリウスが発注したものを本人の了解を得ずに強引に変更できる人物だ。おまけに脅すか金を掴ませるかで口封じまでしているのだから、シリウス以上の権力者にきまっている。
目の前のご令嬢たちがチラチラ目配せし合う様子に、わたしはほくそ笑んだ。
ようやく彼女たちも気づいたらしい。
悪趣味だと言えば言うほど、その権力者を貶めることになるということを。
一筋縄ではいかないと焦ったのか、ここで取り巻きのひとりが強硬手段に出た。
「ゴチャゴチャうるさいわねっ!」
手に持っていたワイングラスを、わたしに向かって投げつけたのだ。
咄嗟に避けたけれど、壁に当たって割れたグラスから破片とワインが飛び散り、スカート部分に跳ねる。
「きゃあっ!」
グラスの割れる派手な音に驚いたのか、周囲から悲鳴があがった。
なにが起きたのかと、ますます注目の的となってしまった。
あまりに導火線の短いご令嬢たちを、わたしは唖然として見つめる。
興奮して肩を怒らせているご令嬢は、自分がなにをしたのか理解しているのだろうか。
「なにをしている!」
鋭い声がして、彼女たちが弾かれたように振り返った。
そこにはライアスが、険しい顔をして立っていた。
シリウスとルルーニャのダンスを眺めていたわたしは、ねっとりとした声に振り返った。
わたしも顔負けするほどの意地悪そうなご令嬢が、取り巻き三人を引き連れてやってくる。
「はじめまして、マリアと申します」
にっこり笑って挨拶をしたが、相手は名乗るつもりも挨拶をするつもりもないようだ。
品定めするかのようにわたしの頭からつま先へゆっくり視線を移動させ、フンッと鼻を鳴らした。
「趣味の悪いドレスですこと。しかもそんな高価な宝石まで散りばめて」
取り巻き連中が、壁を背にしたわたしをぐるりと囲む。
四人とも淡い色合いのふんわりとしたドレスを着ている。
ルルーニャもそうだったが、いまのアドラの流行はこういったデザインなのだろう。
わたしのドレスは生地といい色味といいデザインといい、どれをとっても流行から外れている上に悪趣味であることはまちがいない。
「オーダーでおいくらかかっているのかしら」
「戦争に負けたくせに、ずいぶん贅沢ですこと」
「下品なドレスがよくお似合いね」
取り巻きたちはクスクス笑いながらこちらを蔑む発言をした。
しかし、こんな嫌味に動じるわたしではない。
「そうなんですのよ。わたしは、こんな悪趣味で無駄に高価なドレスをも着こなせてしまうのです。お褒めにあずかり光栄ですわ」
笑顔を崩さず、あえて大きな声で返答する。
彼女たちの言うように、似合っているのは事実だ。
「まあっ! 開き直るおつもり?」
「褒めてなどおりませんわ!」
気色ばむご令嬢たちが目を見開いて声を上ずらせる。
だんだんと周囲の注目を集めていることに、彼女たちは気づいているのだろうか。
こんなとんでもないドレスを着ているのはわたしの本意ではないと、彼女たちだって本当はわかっているはずだ。
チクチク嫌味を言えば、わたしが戸惑ったり怯んだりオドオドするとでも思ったのか。
ごめんあそばせ、嫌われ者の悪女なら年季も気合も筋金入りですのよ。
わたしが期待した反応をせずケロッとしていることで意地になったのか、彼女たちはしつこくドレスが時代遅れだの見ているこっちが恥ずかしいだのと責め立てる。
ひとしきり罵声を浴びせられたが、ロミオからの罵声に比べればかわいいものだ。
わたしは口角を上げたまま彼女たちに問うた。
「このドレスは、さる高貴なお方にいただいたものです。シリウス様はもっとシンプルなデザインでいいとおっしゃいました。それを贅沢な装飾に変更させたのも、そのお方です」
ここで言葉を切って、ひとりひとりと目を合わせる。
「あなたがたは先ほどから、このドレスを侮辱する発言をしておられますが、大丈夫ですの?」
途端に彼女たちが黙り込んだ。
実を言うと、ドレスのデザインを変更させた犯人が誰なのかは知らない。
今朝シリウスが針子さんたちに聞いて回ったけれど、全員口を閉ざして誰の差し金か話してくれなかったという。
しかし、王子であるシリウスが発注したものを本人の了解を得ずに強引に変更できる人物だ。おまけに脅すか金を掴ませるかで口封じまでしているのだから、シリウス以上の権力者にきまっている。
目の前のご令嬢たちがチラチラ目配せし合う様子に、わたしはほくそ笑んだ。
ようやく彼女たちも気づいたらしい。
悪趣味だと言えば言うほど、その権力者を貶めることになるということを。
一筋縄ではいかないと焦ったのか、ここで取り巻きのひとりが強硬手段に出た。
「ゴチャゴチャうるさいわねっ!」
手に持っていたワイングラスを、わたしに向かって投げつけたのだ。
咄嗟に避けたけれど、壁に当たって割れたグラスから破片とワインが飛び散り、スカート部分に跳ねる。
「きゃあっ!」
グラスの割れる派手な音に驚いたのか、周囲から悲鳴があがった。
なにが起きたのかと、ますます注目の的となってしまった。
あまりに導火線の短いご令嬢たちを、わたしは唖然として見つめる。
興奮して肩を怒らせているご令嬢は、自分がなにをしたのか理解しているのだろうか。
「なにをしている!」
鋭い声がして、彼女たちが弾かれたように振り返った。
そこにはライアスが、険しい顔をして立っていた。



