「なんで……!?」
驚きが声になって漏れた。
笑みを浮かべるライアスとは対照的に、強く奥歯を噛みしめているような固い表情を浮かべる黒髪の若い青年。
彼は――。
「ロミオ様……」
旧エルゼア王国との調印式なのだから、生き残った母国の要人が出席するのだろうとは思っていた。
しかし、それがまさかの元婚約者だったとは。
あの王城の惨状を思い返すにつけ、よく生きていたとさえ思う。
考えていることが表情に出ていたのか、シリウスが小声で説明してくれた。
「婚約者に爆弾を投げつけられた失態を反省しろと言われて、離宮で謹慎させられていたらしい」
なるほど。国王陛下はわたしに怒っているだろうと思っていたけれど、ロミオにも反省を促していたのか。
そして、王城にいなかったことが功を奏して命拾いしたのだろう。
「子どものくせに人が悪いわね」
どうせロミオが調印式に来ていると知っていたくせに、わたしには黙っていたのだ。
隣をチラリと見やると、シリウスは得意げに笑った。
「復縁されても困るからな」
「しないわよ」
即答すると、シリウスがプッと吹き出した。
二階の踊り場に立つライアスが高らかに宣言する。
「旧エルゼア王国との和平交渉は滞りなく終了した。エルゼアの政権を解体し、アドラの管理下に置く。ここにいるロミオ殿を新たな代表者に任命する。今後我々は手を取り合って、平和で友好的な関係を築いていくだろう」
ライアスが誇らしげに右手の拳を上げる。
「アドラに栄光あれ」
それに続いてホールにいる参加者たちも、一斉に胸に手を当てて唱和する。
「アドラに栄光あれ!」
手を取り合って友好的に――というのは建前で、ロミオをまつり上げた傀儡政権が誕生した。
エルゼア国民からの反発を恐れて元王子を立てただけだ。
母国エルゼア王国は、この瞬間に完全に消えた。
ロミオにはきっと、アドラのお姫様か高位貴族のご令嬢との政略結婚が待っているだろう。
どうかエルゼアの民が安定した生活を送れるようにと願わずにはいられない。
あれこれこみ上げてくるものはあるけれど、感傷に浸るのは夜ひとりになった時でいい。
わたしはザワつきそうになる気持ちにそっと蓋をして顔を上げた。
ここからは、アドラの勝利を祝う舞踏会が開幕する。
楽団が奏でる優雅なワルツに合わせ、周りの人たちが早速ダンスを始めた。
「一曲いかがですか」
シリウスが腰を折りこちらに手を差し出す。
子どもであっても、やはり王子様だからだろうか。やけに様になっている姿にわたしは思わず数回瞬きをして、その小さな手を取った。
「ええ。喜んで」
驚きが声になって漏れた。
笑みを浮かべるライアスとは対照的に、強く奥歯を噛みしめているような固い表情を浮かべる黒髪の若い青年。
彼は――。
「ロミオ様……」
旧エルゼア王国との調印式なのだから、生き残った母国の要人が出席するのだろうとは思っていた。
しかし、それがまさかの元婚約者だったとは。
あの王城の惨状を思い返すにつけ、よく生きていたとさえ思う。
考えていることが表情に出ていたのか、シリウスが小声で説明してくれた。
「婚約者に爆弾を投げつけられた失態を反省しろと言われて、離宮で謹慎させられていたらしい」
なるほど。国王陛下はわたしに怒っているだろうと思っていたけれど、ロミオにも反省を促していたのか。
そして、王城にいなかったことが功を奏して命拾いしたのだろう。
「子どものくせに人が悪いわね」
どうせロミオが調印式に来ていると知っていたくせに、わたしには黙っていたのだ。
隣をチラリと見やると、シリウスは得意げに笑った。
「復縁されても困るからな」
「しないわよ」
即答すると、シリウスがプッと吹き出した。
二階の踊り場に立つライアスが高らかに宣言する。
「旧エルゼア王国との和平交渉は滞りなく終了した。エルゼアの政権を解体し、アドラの管理下に置く。ここにいるロミオ殿を新たな代表者に任命する。今後我々は手を取り合って、平和で友好的な関係を築いていくだろう」
ライアスが誇らしげに右手の拳を上げる。
「アドラに栄光あれ」
それに続いてホールにいる参加者たちも、一斉に胸に手を当てて唱和する。
「アドラに栄光あれ!」
手を取り合って友好的に――というのは建前で、ロミオをまつり上げた傀儡政権が誕生した。
エルゼア国民からの反発を恐れて元王子を立てただけだ。
母国エルゼア王国は、この瞬間に完全に消えた。
ロミオにはきっと、アドラのお姫様か高位貴族のご令嬢との政略結婚が待っているだろう。
どうかエルゼアの民が安定した生活を送れるようにと願わずにはいられない。
あれこれこみ上げてくるものはあるけれど、感傷に浸るのは夜ひとりになった時でいい。
わたしはザワつきそうになる気持ちにそっと蓋をして顔を上げた。
ここからは、アドラの勝利を祝う舞踏会が開幕する。
楽団が奏でる優雅なワルツに合わせ、周りの人たちが早速ダンスを始めた。
「一曲いかがですか」
シリウスが腰を折りこちらに手を差し出す。
子どもであっても、やはり王子様だからだろうか。やけに様になっている姿にわたしは思わず数回瞬きをして、その小さな手を取った。
「ええ。喜んで」



