シリウスは、いつもなんだか気だるげだ。
顔色は青っ白くてお日様に当たっていなさそうだし、寝不足なのかよく生あくびをする。
その様子は、およそ健全で育ちざかりな少年像とはかけ離れている。
王子とはいえ年齢からしてまだ執務には携わっていないはず。
もしも厳しい家庭教師に勉強ばかりさせられているのだとしたら、運動と睡眠も大事だと言ってやりたいところだ。
ただ、勉強の量を減らしたほうがいいんじゃないかとか、わたしと会っていない時間はなにをして過ごしているのかとかをシリウスに言えば、まるで寂しがっていると受け取られかねない。
だから余計な詮索はしないときめている。
「火薬が欲しいなら、焼け野原になった国境地帯で不発弾を探したほうが早いと思うの。ただし、不発弾を移動させて分解しようとすれば爆発するかもしれないから、命懸けになるけどね」
「不発弾か……」
「お勧めできる方法ではないけど、魔法を使えばどうにかなるんじゃない?」
シリウスが、ふわぁっとあくびをする。
「そんな高度な魔法を使えるヤツは、俺の味方にはいない」
「あとは、魔石鉱山の中にももしかすると発破用の火薬が残っているかもしれないってぐらいかしら」
それを持ち帰って錬金術師に分析させれば、いずれは爆弾が作れるかもしれない。
いったい爆弾でなにをしようとしているのだろう。
味方とか敵とかいう以前に、子どもが爆弾を作りたいと言い出しても大人は反対するにきまっている。
シリウスの背後に控えるサミュエルに視線を移す。
「ところでサミュエルは魔法が使えるの?」
「あまり得意ではありません」
わたしが監禁されていた塔に押し寄せてきた時、サミュエルは甲冑姿だった。わたしがペンダントをハッタリで床に投げつけた時には、身を挺してシリウスを守ろうとしていた。
これがもし凄腕の魔術師なら、甲冑と剣ではなくローブと杖を身につけていたはずだし、爆発に対抗して魔法を展開しようとしたはずだ。
「じゃあやっぱり、不発弾探しは死に急ぐだけになると思う。聞かなかったことにしてちょうだい」
「うまくいかないな」
シリウスは悔しさをにじませた声で肩を落とし、己のプラチナブロンドの髪をぐしゃぐしゃにかいた。その細い手首につけた腕輪がシャラシャラ揺れる。
「それよりもシリウスは、もっと元気よく体を動かして睡眠をとったほうがいいわ。しっかり寝ないと背が伸びないわよ?」
「大丈夫だ、俺はすでにデカいから」
「なに言ってるのよ、チビのくせに!」
おもしろくなさそうな顔をするシリウスの後ろで、サミュエルが笑いをこらえて肩を震わせている。
笑っている場合ではないというのに。
「わたしは自分よりも強い男性が好きよ」
「言っておくが、俺は強いからな」
シリウスがソファーに腰かけたまま腕組みをしてふんぞり返る。
細い腕に細い脚――その姿には、あまり説得力がない。
「そうだといいわね。なんてったってシリウス王子だもの」
わたしは『シリウス王子』を強調して言った。
数代前のアドラ王国で活躍した英雄に、同じシリウスという名前の王子がいる。
優れた魔術師でありながら剣の腕前も素晴らしく、暴れ回っていた魔獣を翼竜を従えて制圧し国を安寧へと導いたという。
英雄王子と称され、誰もが彼が次世代を牽引する王になると信じていた。しかしある日、彼は自由を求めて旅立ってしまった――。
英雄王子の話は、わたしの母国でも子どもへ聞かせる寝物語の定番だった。
頻繁にいがみあっていた敵国の人物でありながら、英雄王子はエルゼアでも人気者だったのだ。
数代前の祖先の名をもらうのは、よくあることだ。
シリウスもかつての英雄王子のように立派に育ってほしいと願って名づけられたのだろう。
「俺は、呪われてなきゃすごい魔法が使えるんだ」
シリウスがムスッとしたまま右腕を振り腕輪をシャラシャラ鳴らす。
「待って。呪われているって話は本当だったの?」
わたしは身を乗り出して声を潜めた。
てっきり、このお年頃特有の『ちょっと翳のある俺、カッコいい!』という、盛大に盛った比喩表現だと思っていたのだが。
「本当にきまってるだろ。この腕輪のせいで封印されているんだ」
細いチェーンを連ねた繊細な金細工のような腕輪だ。
わたしは顔を近づけてしげしげと眺める。
少なくとも見た目からは、いかにも呪物といった禍々しさは感じられない。
「外せないのね?」
思い返してみると、塔で出会った時からずっとシリウスはこの腕輪をつけていた。
ルルーニャもいつも金色のイヤリングをつけているから、アドラの王族は金色のアクセサリーをつける慣わしがあるのかと思っていたが、どうやらまったく別物だったらしい。
この腕輪によって魔法が封印されているのなら、外せばいいだけだ。
それができないから、つけっぱなしなのだろう。
シリウスが顔を顰めて頷く。
「無理に外そうとすると肌に張り付いて、焼けつくように痛くなる」
「それは……ひどいわね……」
想像しただけで手首のあたりがムズムズしてくる。
こんな子どもにどうして魔封じの呪いなど行うのか。
「誰の仕業なの?」
沸々と怒りがわいてきて、思わず声が低くなった。
顔色は青っ白くてお日様に当たっていなさそうだし、寝不足なのかよく生あくびをする。
その様子は、およそ健全で育ちざかりな少年像とはかけ離れている。
王子とはいえ年齢からしてまだ執務には携わっていないはず。
もしも厳しい家庭教師に勉強ばかりさせられているのだとしたら、運動と睡眠も大事だと言ってやりたいところだ。
ただ、勉強の量を減らしたほうがいいんじゃないかとか、わたしと会っていない時間はなにをして過ごしているのかとかをシリウスに言えば、まるで寂しがっていると受け取られかねない。
だから余計な詮索はしないときめている。
「火薬が欲しいなら、焼け野原になった国境地帯で不発弾を探したほうが早いと思うの。ただし、不発弾を移動させて分解しようとすれば爆発するかもしれないから、命懸けになるけどね」
「不発弾か……」
「お勧めできる方法ではないけど、魔法を使えばどうにかなるんじゃない?」
シリウスが、ふわぁっとあくびをする。
「そんな高度な魔法を使えるヤツは、俺の味方にはいない」
「あとは、魔石鉱山の中にももしかすると発破用の火薬が残っているかもしれないってぐらいかしら」
それを持ち帰って錬金術師に分析させれば、いずれは爆弾が作れるかもしれない。
いったい爆弾でなにをしようとしているのだろう。
味方とか敵とかいう以前に、子どもが爆弾を作りたいと言い出しても大人は反対するにきまっている。
シリウスの背後に控えるサミュエルに視線を移す。
「ところでサミュエルは魔法が使えるの?」
「あまり得意ではありません」
わたしが監禁されていた塔に押し寄せてきた時、サミュエルは甲冑姿だった。わたしがペンダントをハッタリで床に投げつけた時には、身を挺してシリウスを守ろうとしていた。
これがもし凄腕の魔術師なら、甲冑と剣ではなくローブと杖を身につけていたはずだし、爆発に対抗して魔法を展開しようとしたはずだ。
「じゃあやっぱり、不発弾探しは死に急ぐだけになると思う。聞かなかったことにしてちょうだい」
「うまくいかないな」
シリウスは悔しさをにじませた声で肩を落とし、己のプラチナブロンドの髪をぐしゃぐしゃにかいた。その細い手首につけた腕輪がシャラシャラ揺れる。
「それよりもシリウスは、もっと元気よく体を動かして睡眠をとったほうがいいわ。しっかり寝ないと背が伸びないわよ?」
「大丈夫だ、俺はすでにデカいから」
「なに言ってるのよ、チビのくせに!」
おもしろくなさそうな顔をするシリウスの後ろで、サミュエルが笑いをこらえて肩を震わせている。
笑っている場合ではないというのに。
「わたしは自分よりも強い男性が好きよ」
「言っておくが、俺は強いからな」
シリウスがソファーに腰かけたまま腕組みをしてふんぞり返る。
細い腕に細い脚――その姿には、あまり説得力がない。
「そうだといいわね。なんてったってシリウス王子だもの」
わたしは『シリウス王子』を強調して言った。
数代前のアドラ王国で活躍した英雄に、同じシリウスという名前の王子がいる。
優れた魔術師でありながら剣の腕前も素晴らしく、暴れ回っていた魔獣を翼竜を従えて制圧し国を安寧へと導いたという。
英雄王子と称され、誰もが彼が次世代を牽引する王になると信じていた。しかしある日、彼は自由を求めて旅立ってしまった――。
英雄王子の話は、わたしの母国でも子どもへ聞かせる寝物語の定番だった。
頻繁にいがみあっていた敵国の人物でありながら、英雄王子はエルゼアでも人気者だったのだ。
数代前の祖先の名をもらうのは、よくあることだ。
シリウスもかつての英雄王子のように立派に育ってほしいと願って名づけられたのだろう。
「俺は、呪われてなきゃすごい魔法が使えるんだ」
シリウスがムスッとしたまま右腕を振り腕輪をシャラシャラ鳴らす。
「待って。呪われているって話は本当だったの?」
わたしは身を乗り出して声を潜めた。
てっきり、このお年頃特有の『ちょっと翳のある俺、カッコいい!』という、盛大に盛った比喩表現だと思っていたのだが。
「本当にきまってるだろ。この腕輪のせいで封印されているんだ」
細いチェーンを連ねた繊細な金細工のような腕輪だ。
わたしは顔を近づけてしげしげと眺める。
少なくとも見た目からは、いかにも呪物といった禍々しさは感じられない。
「外せないのね?」
思い返してみると、塔で出会った時からずっとシリウスはこの腕輪をつけていた。
ルルーニャもいつも金色のイヤリングをつけているから、アドラの王族は金色のアクセサリーをつける慣わしがあるのかと思っていたが、どうやらまったく別物だったらしい。
この腕輪によって魔法が封印されているのなら、外せばいいだけだ。
それができないから、つけっぱなしなのだろう。
シリウスが顔を顰めて頷く。
「無理に外そうとすると肌に張り付いて、焼けつくように痛くなる」
「それは……ひどいわね……」
想像しただけで手首のあたりがムズムズしてくる。
こんな子どもにどうして魔封じの呪いなど行うのか。
「誰の仕業なの?」
沸々と怒りがわいてきて、思わず声が低くなった。



