亡国の悪役令嬢、呪われたショタ王子に拾われる

 ルルーニャが初めてこの部屋を訪れたのは、彼女が派手にわたしの素性をバラしてくれた翌日だった。
『シリウスに大事にされているって勘違いしないほうがいいわよ』
 まなじりを吊り上げる彼女に、わたしは冷静に告げた。
『大事? そんなわけないじゃない。いつわたしを処刑すれば一番効果的か、タイミングを計っているだけだわ』
『わかっているなら、さっさと窓から飛び降りるなりなんなりしなさいよ』
 ルルーニャがムキになる。
『わかってないわねぇ』
 わたしは大げさにため息をついて首を横に振った。
『それで国民が喜ぶと思う? もっと残忍な方法で公開処刑しなきゃ意味がないでしょう』

 ルルーニャが、たしかにそうかもしれない……と考え込むように小首を傾げる。
『それにわたしは、二階から飛び降りたぐらいでは死なないぐらい頑丈だから、殺し甲斐があると思うわ』
 残忍に処刑されるわたしの姿を想像したのか、ルルーニャが青ざめてブルッと震えた。
 なんだかんだ言いながら、この子は大事に育てられたお姫様なのだ。どうやらこの話は刺激が強かったらしい。
『なによそれ……』
 わたしに同情したのか、途端にルルーニャの声色がトーンダウンした。
 こんな血なまぐさい話をしたのだから、それっきりもう来ないだろうと思っていたのに、なぜか頻繁にやって来る。

 よく鈍感だと言われるわたしも、さすがに気づいた。
 ルルーニャはシリウスが好きなのだと。
 母親がちがうのか、それともただのブラコンなのかは知らないし興味もない。
 ただ、ルルーニャがシリウスに対して恋に似た感情を持っているのはたしかだ。
 ツインテールで自分を幼く見せているのも、シリウスに合わせているのかもしれない。

『恋しているのね?』
 回りくどい言い方は得意でないからズバッと聞くと、ルルーニャは耳まで真っ赤になって両手で顔を覆った。
 肯定しているも同然だ。
『デリカシーがなさすぎるわっ!』
 頬を膨らませる彼女はとてもかわいかった。

 誰かの一番になりたい。その人のことばかりを考えて焦がれてやまない――恋とはそういうものだと聞いている。
 残念ながら、わたしは未経験のままだ。
 婚約者だったロミオとの仲は初めから険悪だったし、貴族学校でもそんなロマンスはなかった。これから先もないだろう。
 だから、恋するルルーニャの姿は眩しくてうらやましい。

 そんなルルーニャが、今日は小さなバスケットを持参した。
 掛け布を取ると、バターと甘い香りがふわっと広がる。
 バスケットの中身は美味しそうなクッキーだった。

「わたくしひとりでは食べきれないわ。食べてもよくってよ?」
 ルルーニャは率先してクッキーに手を伸ばし食べている。
 もしかすると、わたしに食事が与えられていないと聞いて持ってきてくれたのかもしれない。
 しかも、毒もゴミも入っていないことを先に自分が食べてみせることで示しているのだろう。
 なんていい子なのかしら!
「ありがとう! いただくわね」
 わたしも遠慮なく食べさせてもらった。
 サクサクした歯ごたえとバターの芳醇な香りが最高だ。

「とっても美味しい。また明日も食べたいわ」
 冗談交じりに言うと、ルルーニャがプイッと明後日の方向を向く。
「図々しいことを言わないでちょうだい!」
 わたしは思わず笑ってしまった。
 母国の貴族学校ではついぞ得られなかった友人ができた気分だ。
 ここまでわたしを連れてきたシリウスに、初めて感謝した。