初恋は、終電の先に

 無事に挨拶も済んだので、今日はこの辺りで切り上げることにした。これ以上、奈月に兄嫁を威嚇させたくなかったし。


 実家を出てから、二人で散歩がてら母校まで足を伸ばした。

 校門の前で二人で並んで校舎を見上げた。


「やっぱり校舎が小さく見えます」

「だなあ」


 校庭のほうからは、運動部の掛け声が途切れず聞こえてきた。

 空は夕暮れのオレンジ色に染まり、初夏のぬるい風が校門をそよそよと吹き抜けていた。

 校門脇の桜はすっかり葉桜になって、青々とした葉を風に揺らしていた。


 高校生だったころ、毎日見ていたはずの光景が、今はやけに小さくて、少し遠い。


「尚也さん」

「うん」


 そして、あの頃からずっと好きだった女の子だけが、変わらず俺の隣に立っていた。

 でも、あの頃とは違う。


「先輩の卒業式の日に告白できなかったことを、私は十年間後悔していました」

「……うん。俺も」

「でも、今はそれで良かったって思えるんです。尚也さんが、終電で私を見つけてくれましたから」

「そうだね。遠回りはしちゃったけど、きっとこれでよかったんだ。好きだよ、奈月。あの頃よりずっと、今の君が好きだ」


 つないでいた手を、今度は指まで絡めて歩き出した。

 高校のころは妄想することしかできなかった現実が、今はちゃんとここにあった。

 ずっとずっと好きだった女の子がきれいな髪を風に揺らして、俺と並んで歩いている。