初恋は、終電の先に

 私、秋谷奈月は、終電が出たあとの駅のホームで、山田尚也先輩と向き合っていた。


 先輩は顔をくしゃっと歪めてうつむいたまま、私の手を痛いくらい握りしめていた。

 初めて繋いだ先輩の手は大きくて、私の手なんてすっぽりと収まってしまった。

 でも、私の手も先輩の手も冷えきっていて、冷たい風にさらされてさらに冷えていく。


「先輩、どこか温かいところに移動しましょう」


 先輩は答えない。私たちの足元に、ポツポツと水滴が落ちる。

 でも、最終電車が出たあとのホームにいつまでもはいられないから、私は先輩の手を引いて駅を出た。

 駅前に遅くまでやっているカフェがあったから、そのまま入った。先輩を先に座らせたかったけど、手を離さないので、一緒にカウンターでコーヒーを買って、奥まった席に向かい合って座った。

 それでも先輩は私の手を離さなかった。

 小さな丸いテーブルの上にはコーヒーの入ったマグカップが二つ並んで、湯気を立てている。

 それと同じように、私と先輩の手もつないだまま、テーブルの上に置かれていた。

 先輩の眼鏡は外との寒暖差で曇っているし、うつむいていて表情がよくわからない。


「先輩」

「……うん」


 かすれた、悲しそうな声が返ってきた。

 私は繋いでいない方の手で、先輩の手を包むように握った。


「先輩。十年前の卒業式の日にできなかった告白、今していいですか?」


 先輩が私の手を握り直して、もう一方の手で同じように包み込んだ。

 ゆっくりと顔が上がった。

 眉間にしわが寄って、唇が強く結ばれていた。

 目尻に涙をためて、真っすぐに私を見つめていた。

 やがて、ゆっくりと先輩が口を開いた。


「……ダメだよ」


 かすれた低い声が、ささやくようにこぼれた。

 私が言葉を選ぶ前に、先輩の手が強く私の手を握りしめた。


「秋谷。秋谷奈月さん。好きだ。十年前から、ずっと君が好きだ。俺と、付き合ってください」


 一瞬息ができなかった。

 何度か瞬きをして、先輩を見つめ返す。

 その顔が涙でぼやけて見えなくなった。

 ああ、私はまた先輩を困らせてしまった。


「……もう、私に言わせてくださいよ」

「やだよ。俺はもう、君を泣かせたくない。……って言ってるそばから泣かせちゃったけど」

「ご、ごめんなさい。嬉しくて、止まらなくて」

「いいよ」


 押し殺したような声が聞こえて、手に熱いものが滴ってきた。