初恋は、終電の先に

 ……正直に言えば、正月の段階で結構迷っていた。


 大晦日に実家に顔を出したら、兄夫婦と生まれて半年ほどの甥っ子も来ていた。

 兄に勧められて抱っこさせてもらったら、温かくて柔らかくて、小さいのに命の重さがあって、俺なりに感動したのだ。

 なのに、ふとしたタイミングで二人きりになった兄嫁からチクリと言われたのだ。


「尚也さんは結婚の予定はないんですか?」

「いえ、今のところは」


 もちろん秋谷のことは思い浮かんだけど、付き合ってすらいない女の子のことを言う気にはなれなくて濁した。

 そしたら、


「将来的に、うちの子の負担になるようなことは避けてくださいね」


 と氷のような声で言われた。

 絶句している間に兄嫁は立ち去ってしまい、その後、晩飯を済ませたら秋谷から助けを求められたから、これ幸いと離脱させてもらった。

 秋谷と初詣を済ませて実家に戻ったあと、兄嫁とは目も合わなかった。

 代わりに母から


「赤ちゃんはいいわねえ。あんたも思うところがあったんじゃないの?」


 なんて言われてげんなりする。

 初詣の帰りに秋谷から、


「実家にいてもろくなことがないから、荷物だけ回収して帰ります」


 と聞いていたから、俺もそれに便乗させてもらった。

 ……たぶん、初詣から戻るときに秋谷を連れて行けば良かったんだと思う。きっと秋谷なら付き合ってくれたし、兄嫁も母も安心させられたはずだ。

 秋谷も似たような目にあってきたと言っていたから、俺も秋谷の実家にご一緒させてもらってもよかった。


 そうしなかったのは、俺の都合に巻き込みたくなかったからだし、秋谷にきちんと向き合うことすらできていないのに、彼女の振りだけ頼むのは卑怯だと感じたからだ。

 もっとも、それをきっかけにすらできなかった、情けない俺の言い訳でしかないけど。