初恋は、終電の先に

 二月頭の木曜日、昼休みに山田先輩から電話がかかってきた。


「急にごめん、今大丈夫?」

「大丈夫ですよ、どうかしましたか?」


 明日の夜にごはんに行く約束をしていたけど、何かあったのだろうか。

 いつもなら電話していいかの確認があるのに、いきなり電話してくるなんて初めてだ。

 自席から立ち上がってエントランスに向かった。


「ちょっとトラブルがあって、今日明日と客先に行かないといけないんだ」


 先輩が告げた客先は新幹線で二時間くらいの場所だった。つまり泊まりになるのだろう。

 ニャインで一言送ってくれればいいのに、わざわざ電話をくれたのが嬉しい。


「そうなんですね。連絡くださってありがとうございます。ごはんはまた行きましょう」

「うん、ごめん」


 スマホの向こうの先輩はやけに申し訳なさそうだ。

 私だって仕事でドタキャンしちゃったことがあるんだから、そんなに気にしなくてもいいのに。


「大丈夫ですよ。落ち着いたら連絡ください」

「物分かりが良すぎるのも寂しいんだけど。お土産買ってくるから」

「ふふ、楽しみにしてます。先輩が申し訳なく思ってくれてるの、ちゃんとわかってますから」

「……うん。本当にごめん」


 電話が切れた。

 もちろん寂しくないわけじゃない。でも、スマホの向こうから慌ただしい声や音がたくさん聞こえたから、ワガママを言う気にはならなかった。

 スマホの画面をぼんやり眺める。

 うんともすんとも言わない。


 私は小さく息を吐いてから踵を返し、営業部に戻った。


「秋谷、午後だけど」

「はい」


 席につくなり、磯山先輩に声をかけられた。

 いつもなら、一瞬面倒くさいなと思うけど、今日は助かった。

 私はできる限り、にこやかに仕事を引き受けた。


 磯山先輩はわずかに眉を上げたけど、何でもないように説明を続けた。