初恋は、終電の先に

 先輩にはああ言ったけど、まさかここまでとは思わなかった。

 何がって、母だ。


「奈月、いい人はいないの?」


 大晦日に実家に顔を出したら、リビングでお茶を出された瞬間にそう言われた。


「いません」


 きっぱりと言っておく。

 一瞬山田先輩のことが浮かんだけど、おくびに出そうものなら、やれ「今すぐ連れてこい」「式はいつだ」だの言い出すから、黙っておくのが吉だ。


「あなた来年には三十になるのよ? お母さんのときにはクリスマスケーキなんて言われてて」

「昭和のことなんか知らないよ」

「あなたねえ。あなたの同級生だった美香ちゃん、今二人目妊娠中だそうよ」


 つい言い返したら、思いっきり睨まれた上にさらに追撃された。

 でも代わりに、同じく帰省してた妹が割って入ってくれた。


「お母さん、お姉ちゃんと美香ちゃんが中学でクラス離れたときに『あの子ませてて気に入らなかったから、友達止めてくれて助かったわあ』って言ってたじゃん」


 ……そういえば、そんなこと言ってたっけ。

 白い目で母を見たら、しれっと


「あら、そんなこと言ったっけ?」


 なんて言って去っていった。

 妹はため息をついて、私の隣に腰を下ろした。


「ほんと、頭の中が昭和で止まってて嫌になっちゃう。だいたい私やお姉ちゃんが高校に入ったときも『彼氏ができたら必ずお父さんに紹介しなさい』なんてヒステリックに言ってたのに、忘れてるのかな」

「忘れたんでしょ」


 私は肩をすくめて見せた。


「ところでお父さんは?」

「裏のおばあちゃんのお墓に行ってる」

「ああ、だからお母さんカリカリしてるんだ」


 母と父方の祖母は本当に仲が悪かった。母は、それはそれはわかりやすい嫁いびりをされてたけど、父は完全に祖母の味方で、


「老い先短い母さんにあんまりきつく当たってやるなよ」


 と口癖のように言っていた。それは完全にこっちのセリフだけど、父も父で頭が昭和だから、娘の言うことなんて歯牙にもかけなかった。

 ……ということを、夕飯の席で嫌ってほど思い出させられた。

 母からは姉妹そろって結婚どころか彼氏すらいないことを責められ、父からは実家のすぐそばの霊園にある祖母の墓参りに行かなかったことを詰められた。

 夕食後、私は自室で山田先輩に一言だけメッセージを送った。


「先輩、助けて」


 すぐに電話がかかってきた。


『助けに行く。今どこ』

「実家です。えっと、学校の校門待ち合わせでいいですか?」

『遠くない?』

「大丈夫です。三十分かからないくらいで着きます」


 電話を切って、妹の部屋に向かった。

 妹もちょうど上着を羽織ったところだった。


「あ、お姉ちゃん。今から呼びに行こうと思ってた。彼氏とこっちの友達と二年参り行くけど、お姉ちゃんもどう?」

「ありがと。私も知り合いと出かけてくる。……このまま戻らなくていいかな」

「私はそのつもりだけど」


 まあでも、正月の挨拶くらいはしてから部屋に戻ろうか。

 私も急いで身支度を整えて、妹と実家を出た。

 それぞれ男女交えた地元の友達と出かけると言ったら、


「いい人がいたら連れていらっしゃいよ」


 と快く見送ってくれた。わかりやすくて助かる。

***