初恋は、終電の先に

 さて、年末だ。


 社会人にクリスマスなどない。

 別に忙しいからではなく、今年のクリスマスが平日だったってだけだけど。


 お客様とのトラブルは、上役になんとか現場に必要なシステムをご理解いただき、必要な金額も納得いただいた上で、弊社は撤退させてもらった。

 私たちもエンジニアたちも、あれだけ罵倒してきた相手とは仕事できないから。かなり粘られたけど、磯山先輩とエンジニア側のリーダーで断固としてお断りした。


 そういうわけで、年末はわりと落ち着いて仕事してた。

 終電も週に一回くらいで済むようになったし、そういうときは山田先輩が一緒に帰ってくれる。

 週末も先輩とごはんを食べに行ったり、本屋を覗いたりして、のんびり過ごせるようになった。

 なので、クリスマスの後の週末は山田先輩と二人で忘年会をした。


「秋谷は年末は帰省する?」


 先輩が湯気の立つお茶を飲みながら言った。

 寒いからビールはいらないと言って、今日は最初からお茶を飲んでいる。もちろん私はビール。


「大晦日と一日くらいは顔を出すと思います。先輩も帰省します?」

「俺もそれくらいかな……あのさ」


 先輩が渋い顔で黙り込んだ。

 私はジョッキを空けてから、先輩の顔を覗き込む。


「どうされましたか?」

「……初詣に誘ってもいい?」

「もちろんです。でも、なんでそんなに嫌そうなんですか?」


 先輩はまた黙り込んでしまった。

 私としては先輩と初詣に行くのは吝かじゃない。全然ない。

 なのに先輩は、めちゃくちゃ渋い顔で手元のお茶を見ていた。


 私は日本酒を頼んで、お通しの筑前煮をつまみつつ、追加で天ぷらの盛り合わせと湯豆腐を頼む。

 それらが机に並んだころ、先輩がやっと顔を上げた。


「秋谷と初詣に行くのはいいんだ。楽しみにしてる。けど、誘う理由がちょっと申し訳ないというか」

「はあ」

「……帰省すると、たぶん親がうるさい」

「あー」


 わかりますよ。私もそうだもの。母にあれこれ言われるんだろうし。


「うちもそうですよ」

「そう?」

「ええ。だからしんどくなったら頼らせてください」


 そう言うと先輩は顔を上げて、私をじとっと睨んだ。でも、それが怒ってるわけじゃないことくらい、わかってる。

 天ぷらの盛り合わせからキスの天ぷらをつまんで、先輩の唇に押し付けた。

 先輩は目を白黒させてから、吹き出してそのまま天ぷらを食べた。


「秋谷は相変わらず、俺を甘やかすのがうまい」

「私のことめちゃくちゃ甘やかしてくれる先輩がいるから、見習ってるんです」


 私もかぼちゃの天ぷらに手を伸ばした。

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