初恋は、終電の先に

 十一月頭の街は冷たい風が吹き抜けていた。

 少し前まで夏だった気がするのに、忙しくしている間に秋が終わろうとしている。

 別に秋を惜しみはしないけど、山田先輩と季節の移ろいを楽しめなかったことが残念だ。

 街灯に照らされて、落ち葉がひらひら舞った。山田先輩がふと立ち止まって振り返り、私を見て少し笑って手を伸ばした。


「秋谷、頭に葉っぱついてる」

「……ほんとだ」


 先輩は私を見て目を細めた。目尻にしわが寄っていて、そこに住みたいくらい素敵な笑い方だった。


「秋谷」

「はい」

「もうちょっとだよ」


 また歩き出した先輩についていくと、やがて大きなショッピングモールにたどり着いた。

 もう二時前でとっくに閉まっているけど、イルミネーションはまだついていた。


「……きれい」

「ね。今月からやっててさ。秋谷と見たかったんだ。ごめんね、こんな時間に連れ回して」


 ショッピングモールの入口に大きなクリスマスツリーが立っていて、キラキラと照らし出されていた。

 何か言いたいのに、喉が詰まって声が出なかった。

 せっかく山田先輩が連れてきてくれたのに、色とりどりのイルミネーションがぼやけて、ちゃんと見えない。


「秋谷」

「……はい」


 見上げると先輩の眼鏡や顔、スーツにイルミネーションの光が当たって、キラキラしていた。

 それすらもぼやけて、そこに先輩がいることしかわからない。

 でも、それだけわかれば十分だった。


「おいで」

「っ、はい……っ」


 先輩の胸に飛び込んだ。涙が止まらなくて、先輩のスーツを汚したくなくて離れようとしたら、先輩の手が私の頭と背中を押さえた。


「せん、ぱい……」

「うん」


 優しい声に、また喉が詰まった。

 腕を伸ばして、先輩の背中に縋りついた。

 温かい腕の中はどこまでも優しくて、私は肩を震わせることを止められなかった。


「す、すみません、先輩」


 泣いて、泣いて、涙を出し切ってやっと止まったけど、私は先輩の胸にすがりついたまま、ぼんやり顔を上げてイルミネーションを見ていた。


「いいよ。嬉しかったから……って言うのは、性格悪いかな」

「嬉しい、ですか?」

「うん」


 見上げると、先輩は眉を下げて困ったように私を見ていた。

 嬉しそうな顔じゃない。


「秋谷が俺の前で泣いてくれたことが嬉しい……ごめん、我ながらキモいな」

「でも、私が先輩の前で泣くのは初めてじゃないですよね」


 先輩の卒業式の日はもちろん干からびるほど泣いたけど、受験の結果発表のときや、文化祭の後夜祭で花火を一緒に見たときも泣いた。

 ……泣きすぎだと思う。


「そうだな。でも、今回のは俺を頼ってくれたって受け取ってるんだけど、どうかな」

「そうですけど。私、高校のときからずっと先輩のこと頼りにしてますよ?」

「そうかな」

「そうですよ。もー知らなかったんですか」


 ふふっと笑って見上げると、先輩も苦笑して私を見ていた。


「ごめん、知らなかった」

「今知ってくれたからいいです。十年前から、先輩は私が誰よりも頼りにしてるんです……これからも、頼らせてくださいよ」

「うん。秋谷にこれからも頼ってもらえるように頑張る」


 山田先輩が私の頭と背中を、また強く抱き寄せた。

 そうやって先輩の胸に顔をくっつけてドキドキしながらうとうとしていると、私のお腹が情けない音を立てた。空気を読んでほしい。

 先輩はくすくす笑って手を離した。


「ごめん、秋谷、晩飯、まだ食ってない?」

「はい、バタバタしてて……」

「ならどこか食べに行こうか。駅前に朝までやってる居酒屋あるから」

「はい!」


 先輩から離れると夜風が吹きつけて寒いけど、空にはたくさんの星が瞬いていて、それを並んで見られるのが嬉しかった。