初恋は、終電の先に

 はい、まさかの一週間ぶっ通しで終電を逃しました。

 先週の金曜日に山田先輩と電話して少し回復したものの、土曜日は出社で、しんどすぎて日曜日は寝て過ごすことしかできなかった。

 そして月曜日から木曜日まで毎日終電を逃し、その甲斐あって金曜日はかろうじて終電で帰れそうな気がした。まあ、普通に無理だったけど!


 お金を使いたくないお客様先の上役と、必要なものは必要だと言い張る現場の仲裁を、なぜか磯山先輩と私がするはめになり、遅くなった。

 意味わからん。そんなもの、私たちを挟まずにやってほしいし、必要なものはそりゃ必要なんだから必要経費だろうが、って言葉が喉元まで出たけど、火に油を注いでも仕方ないのでなんとか堪えた。

 そういうわけで、帰社してパソコンを閉じたのは、夜中の一時になろうかという頃だった。

 もうヤダ。

 山田先輩に「今日も終電無理です」とメッセージを送ることすらできていなかった。

 泣きたい気持ちで私用のスマホをカバンから出したら、山田先輩からメッセージが届いていた。


『こっちも遅くなりそうだから、終わったら教えて』


 なんて?

 ちょっと疲れ過ぎていて、文面の理解に時間がかかった。

 先輩も忙しいのかな。もう一時だけど、連絡していいのかな。

 迷った末に、


「今終わりました」


 とだけ送った。

 スマホをカバンに戻して立ち上がった。


「帰るぞー」

「はーい」


 磯山先輩と裏口に向かい、警備員さんに声をかけて外に出してもらった。タクシーを捕まえるために表の入口に回ったら、山田先輩がいた。


「先輩!?」


 思わず声を上げると、先輩はいつもの柔らかい笑顔を向けてくれた。


「秋谷、おつかれ」

「え……なんで……?」


 私の疑問には答えず、山田先輩は磯山先輩に顔を向けた。


「磯山さんもお疲れ様です。花沢さんが心配してましたよ」

「……マジで。悪いね」

「こっちも炎上案件の火消しで慌ただしくて、遅くなっちゃったんです。花沢さん、駅前のカフェで口から魂出してるんで、迎えに行ってあげてもらえますか?」

「秋谷は任せていい?」


 磯山先輩がそう言うと山田先輩は私を見た。

 小さく頷くと、山田先輩はもう一度磯山先輩に顔を向けて頷いた。

 磯山先輩は少しだけ笑って手を振り、駅に向かって歩き出した。


 その背中を見送っていると、山田先輩が私の顔を覗き込んだ。


「秋谷、少しだけ歩ける?」

「……はい」


 山田先輩がゆっくり歩き出したので、私も黙ってついていった。