初恋は、終電の先に

 残暑の厳しい九月の終わり、私は日曜の朝一番に先輩と待ち合わせをしていた。

 今日はヒザ下丈のデニムのボトムスにピッタリしたシャツ、上からフーディを羽織ってきた。さっぱり動きやすい服にしたのは、今日の目的地が猫カフェだから!

 八月から九月は私も山田先輩も忙しかったし、二人でビアガーデンのリトライもしていたから、猫カフェに行く余裕がなかった。


 最寄り駅のホーム、七号車の乗り場で待っていると、すぐに熱風が吹き込んできて電車がすべり込んでくる。

 ドアが開くと山田先輩が笑顔で立っていた。


「先輩!」

「お疲れ、秋谷」


 電車に乗り込んで、先輩を上から下までじっくり見た。

 今日の先輩は、細身のポロシャツにスリムジーンズ、上からゆるっとしたカーディガンを羽織っていた。


「山田先輩ってボトムは細身が多いですけど、トップスはゆるめが多いですよね」

「あー、うん」


 先輩は苦笑して目を逸らした。


「俺、ヒョロガリだから、そう見えないようにしてるというか」

「へー、でも手や腕は私より全然太いじゃないですか」


 先輩がまくった袖からのぞく腕に、私の腕を並べた。確かに男の人としては細身かもしれないけど、私と比べたら太くてしっかりしてると思う。

 あと、手の甲に浮いた筋と骨ばった指が最高だから、そんなに気にしなくていいのに。


「秋谷と比べたらね」


 見上げると、先輩は口を開きかけて閉じた。首を傾げて見せると、先輩は困った顔になった。


「磯山さんみたいにたくましかったらよかったんだけど」

「そうですか? 私、ああいうマッチョな感じの人って好みじゃないんですけど」

「……そっか」


 先輩はフフッと笑った。電車の揺れで私は先輩の胸にぶつかる。

 見上げると先輩は私をじっと見つめ、口元をゆるめながら私の背中を支えた。


「秋谷は俺のこと喜ばせるのがうまいよな」

「本心です」

「……それが嬉しいんだよ」


 私も手を先輩の背中に伸ばしたけど、しがみつく前に車内アナウンスが流れた。


「あ、次ですね」

「そうだな。あのさ、エサがあれば猫も寄ってくるかな」

「そうだと思います」

「寄ってこなかったら慰めてくれ」

「そうなったら私のこと猫かわいがりしてください」

「いつもしてる」


 耳元で囁かれた声は砂糖菓子みたいに甘くて、猫に取られるのはもったいなかった。