初恋は、終電の先に

 山田先輩と磯山先輩の姿が見えなくなった途端、花沢さんが私、秋谷奈月を思いっきり睨んだ。


「ちょっと、あんた図々しいんじゃないの」


 低い声にうんざりする。

 わかりやすすぎでしょ。


「何がでしょうか」

「なーに、両方はべらせてんのよ、ずるい! ずーるーいー」


 花沢さんはきれいな顔をくしゃっと歪めて、わめいた。

 なんていうか、きれいな大人のお姉さんだと思ってたけど、予想よりずっと愉快な人かもしれない。

 吹き出さないように気をつけながら、テーブル中央の網に火をつけて、向かいに座る花沢さんを見た。

 できるだけ無表情のまま、淡々と口を開く。


「別にはべらせてないですよ。磯山先輩、今フリーですし」

「そうなの?」


 笑っちゃうくらいの勢いで、花沢さんが立ち直った。瞳がキラッと光っている。


「社会人になってすぐのころから付き合ってた、結婚秒読みの彼女さんがいたんですけど、先日別れちゃったそうです」

「なんで?」


 花沢さんが眉間にしわを寄せて身を乗り出した。

 わからなくはない。


 磯山先輩は背が高くて、スポーツマンタイプのかっこいいイケメンだ。彼女さんのこともそれはそれは大事にしていたし、先輩から聞かされる限りでは、彼女さんも磯山先輩のことが大好きで末永くご一緒しそうな雰囲気だった。

 でも、破局は思わぬところから起こったらしい……って話を、先日の部署の飲み会で聞いた。


「彼女さんのお爺様が大反対したそうです。どうも彼女さんのお婆様が生前に悪徳商法に騙されて、葬式代までむしり取られたらしくて、それ以来“営業”を名乗る人は敷居を跨がせるなって」

「えー……マジ?」

「先輩の憔悴っぷりを見るに、マジですね」

「意味わかんないけど……なくもなさそうっていうか」

「そういうわけで、どうですか花沢さん」


 花沢さんをじっと見ると、彼女は手を顎に当てて、私をじとっと睨んだ。


「あんたがいかない理由は?」

「私、別の人に十年片思いしてるんで」


 手でばってんを作って見せると、花沢さんは目を丸くして、それから吹き出した。


「重っ。それに付き合ってる山田くんも重過ぎでしょ」


 花沢さんが呆れた顔で振り返った。つられてその向こうを見ると、磯山先輩と山田先輩が並んでトレーを運んできていた。上にはビールのジョッキや唐揚げ、フライドポテトが積まれている。……肉は?


「お待たせ、とりあえずすぐ食えるもん持ってきた」


 笑顔の磯山先輩が私と花沢さんの前にビールと食べ物を並べる。

 磯山先輩が揚げ物好きなだけじゃん! って言いたくなったけど、山田先輩が


「サラダや肉は今から持ってくるから、ちょっと待ってて」


 と言って、私の前に箸を置きながら目尻を下げたから、言うのをやめた。

 代わりにパッと立ち上がって、そのまま山田先輩の隣に立つ。


「あ、それ私が行きます。磯山先輩、花沢さんと先に食べててください」